第43話 温泉郷と伝説の城12
「凄い技じゃあ……!」
これはティナの腕なのか、聖剣の力なのか、それともその両方か。
ともかく、凄まじい威力と迫力。必殺技と言えるような大技だ。
ワシもあの技を使ってみたい……!
そう思わせてくれる婚約者、パートナー。素晴らしいではないか。
「くくくく……さあ、待たせたな……! 次は貴様の番だぞ――!?」
まあ、にやりと笑みを見せながら、ゆらゆらと城騎士に迫って行くこの様相は、少々恐ろしげでもあるが――
「ち、ちいいぃぃぃぃぃっ……! こうなったら本格的に対魔王軍戦争モードを発動すんぞ!? いいのか、おい!? 止めるなら今のうちだぞ!? ここだって上の人間の街だってただじゃ済まねえぞ!? このまま大人しく引き返すなら、許してやらんでもねえからよ!?」
「知った事かああああああぁぁぁぁっ! そんな事よりもアッシュだけのものである私を汚した罪は重い! 重すぎるッ! 許す許さんを云々するのは貴様ではない! さあ選べ! このまま抵抗を重ねて無残なガラクタと化すか、大人しく降伏して、穏便に無残なガラクタと化すかをなあぁぁっ!」
「いやどっちもガラクタになってんじゃねえか!? 何も許す方向性がねえぞ!?」
「当たり前だぁぁぁっ! 貴様なんか許すはずがないだろうがあああぁぁぁっ!」
「ティナ! ストーップ! ストップじゃあ、もうええから止すんじゃあ、こっちの準備は出来たからのう……!」
ワシはティナに駆け寄りつつ、そう声をかける。
「嫌だ! 私はあいつを許せない! ぶっ壊してやるんだ!」
ティナは駄々っ子のような涙目でワシに訴えて来る。
なおも聖剣を振りかざそうとするので、ワシはドナを下ろしてティナを直接組止めにかかる。
「ティナ、落ち着くんじゃあ……! とにかく剣をおろすんじゃあ……!」
「止めないでくれ! アッシュ! あいつを殺せない!」
身長差があって上手く、羽交い絞めが出来ない。
腰の後ろから抱き着くような感じになってしまう。
揉み合っているうちにバランスを崩して――
「「うわっ!?」」
倒れ込むと、ティナの顔が目の前だった。
仰向けのティナに、ワシが上から覆い被さる格好だ。
「アッシュ…………ん――――」
頬を少し赤らめて、そっと目を閉じるティナ。
完全にキス待ちの姿勢である。
むにゅっ。
しかもワシの手を取って、自分の胸に触るようにと導く。
「ティナ……!」
まあその表情は可愛らしく、手から伝わる感触は柔らかい。
グッとくるものはある、あるのだが――
さすがにそういう場合ではないだろう。
「聖剣をこっちに。キスするのにそんな物騒なものはいらんじゃろう?」
そっとティナの頬を撫でてやる。
「うん、そうだな。アッシュ……」
ワシは殊勝になったティナから聖剣を受け取り、そのまま立ち上がる。
「さあ城騎士よ! ワシがこの不毛な騒ぎに決着をつけるぞい! 平和的にな!」
「あぁん……!? テメエがか?」
城騎士がこちらに注意を向ける。
少々呆れたような口調でもある。
と、後ろでティナががばっと立ち上がる。
「アッシュ! ひどいじゃないか! 何でキスしてくれないんだ!? 私から聖剣だけ取るなんて!」
「ま、まあ人前じゃし……それはまた寝る前にのう」
「む~。一回得したと思ったのに……!」
「それに聖剣をワシが借りるのは作戦通りじゃろ?」
「そうだが……私は予定変更してあいつを叩き壊したかったんだぞ? アッシュは私があんなのに穢されて、怒ってくれないのか?」
「いや、あれはティナも見せつけるような動きをしておったわけじゃし……それに、物は考えようじゃぞ? 今から城騎士はワシのものになるんじゃあ。ワシのものがやった事はつまりワシがやった事! もうさせんから、ここは許してやってくれい……!」
「うーんそうか……そうだったな。アッシュの物を叩き壊してしまうのもなあ」
と、それを見ていた城騎士がこちらに睨みを利かせてくる。
「おいコラ誰がそのガキのものになるってぇ!? んなもんできるわきゃねーだろ! そっちのねーちゃんが俺を破壊するより、よっぽど可能性ねーぞ!」
「「む……?」」
「見ろ、聖剣が全然輝いてねえだろ! お前にゃ聖剣は使えねえ! それが何が出来るってんだよ、ちゃんちゃらおかしいぜ、バーカ!」
確かにワシの手の内にある『聖剣セイクリッドティア』は、ティナが握っていた時のように神々しく光り輝いてはいない。
ワシが聖剣を扱える【聖戦士】のスキルを持っていないからだ。
だがそれでも、ワシにとっても『聖剣セイクリッドティア』は素晴らしい剣なのだ。
ある意味ティナよりも、ワシの方がこの聖剣を有効利用できる可能性すらある。
「バカはそっちだ! 今に見ていろ、アッシュが貴様など1000回連続土下座させてくれるからな! 泣いても喚いても誰も助けてくはれんぞ!」
とまあティナの発言はさておき、ワシには聖剣はこう見えるのだ。
【聖剣セイクリッドティア】
収納時のステータスボーナス:
腕力+1000(上限値:∞)
体力+1000(上限値:∞)
敏捷+1000(上限値:∞)
魔力+1000(上限値:∞)
精神+1000(上限値:∞)
全能力アップ×1.5
収納時、武器に聖剣の力を宿す。
収納時、スキル『城主』を習得する。
見るからにぶっ飛んでいる。
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