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第18話 マルティナと屍竜使い8

 バーヴェルにブン投げられたワシは、王城の中庭に墜落をしそうになる。


「『気弾』っ!」


 下に向かって連打し、落下の速度を抑える。

 そして最後は両手剣を地面に突き刺し、着地完了。


「ふう……やれやれ、ちっとは年寄りを労わって欲しいもんじゃわい」


 まあ実年齢はバーヴェルの方が上だろうが、ワシの方が生物として老いているのは間違いないだろう。今はたまたま見た目が10歳の少年化しているだけである。


「……が、助かったぞい! さぁティナの所に急がねば!」


 ワシは『黒竜鱗の大剣』をアイテムボックスに【収納】し、駆け出した。

 バーヴェルも見ていないし、やはりステータスアップと『竜破撃』の魅力は大きい。

 ワシにとっては武器は【収納】するもので、戦闘で振るう得物は最低限でいいのだ。


 中庭から建物の中に足を踏み入れる。

 流石は一国の王城だけあり、中は相当広い。


 外をうろついていた竜やドラゴニュート達の姿は無い。

 すべて外に展開しているのだろうか。

 誰もいない広く美しい王城は、何か不気味な静けさに包まれている。


 闇雲に走り回っていては迷子だが――ワシは王城の地図を持ってきていた。

 突入前にエルフィン陛下がワシに持たせてくれたものだ。


 目指すのは――異変発生時にティナが療養していた彼女の自室だ。

 最上階まで一気に階段を登り、黒光りする重甲冑が並べられた廊下を突き当たりに。

 流麗な文様の彫られた扉を、勢いよく押し開く。


 バァン!


「ティナ! おるか!? ワシじゃアッシュじゃ! お前を迎えに来たぞい!」


 しかし、返事は無かった。

 広い部屋には誰もおらず、ワシの言葉は空しく響くのみ。


 バァン!


 背中から、扉が閉まる音。


「!?」


 振り向くとそこには、廊下に並んでいた重甲冑の姿が。

 ひとりでに動き出し、集団で部屋の出口を塞いでいるのだ。


 それぞれ棘鉄球と鎖のついたフレイルと、大盾で武装が統一されている。


「む……!? 罠か……!?」


 ガーディアンの類だ。

 これが元々のものなのか、屍竜使いドルミナが用意したものなのか。

 分からないが、狙いに嵌ってしまったのは確かだ。


 重甲冑のガーディアンたちは散開をし、ワシを取り囲む。


「時間は無いが――仕方ないのう……!」


 さっさと片付けて、ティナを探さねば。

 ワシは腰に差している鋼鉄の剣を抜く。


 ――すると鋼鉄の剣の刀身がカッと真っ赤に染まり、そのままどろりと溶け始めた。


「ぬぉう!? あっちゃちゃちゃちゃっ!?」


 『竜の炎』を【収納】した効果で、今のワシが握る武器には炎の力が宿る。

 それが強過ぎるのだ……!

 溶けた鋼鉄は床に落ち、ジュウッと焦げた匂いと煙を立てた。


 効果は強力だが、これは中々問題である。下手な武器を使うと溶けるという事だ。

 まだ鋼鉄の剣で良かったが、他の特技付きの武器が溶けてしまうと問題である。


 と、ワシが剣を溶かしてしまって騒いでいるのを、ガーディアン達は見逃さない。


 一斉に鎖鉄球のフレイルを掲げ、ワシに向けて振り下ろしてくる。

 だが、その間合いは遠い。とても届かないような位置だ。


「!?」


 おかしな動きだが、すぐにその行動の理由は分かった。

 フレイルの鎖の部分がジャラジャラと音を立て、鞭のように伸びたのだ。


「ぐっ!? ぬうっ!? 鎖が伸びおるか……!?」


 鎖鉄球のいくつかが体に当たり、いくつかがワシの体に鎖を巻き付けて来る。

 大きくは無いが多少の痛み。そして強力な力で、ギリギリと鎖が締め上げられる。


 ワシは首に巻き付いた鎖をまず掴む。

 手がそれに触れると、情報が頭に流れ込んで来た。


【変異ミスリルのバトルフレイル】


 収納時のステータスボーナス:

 腕力+80(上限値:450)


 収納時、特技『武具変形』を使用可能。


「ほう……! ならばっ!」


 ワシは鎖から手を放し、『黒竜鱗の大剣』をアイテムボックスから取り出す。

 真っ赤に染め上がる刀身を振るうと、鎖は簡単に溶け切断された。


「こいつは貰っておくぞい!」


 現地調達だ。『武具変形』というのも気になる。

 身に巻き付く鎖を全て斬り払い、ワシは床に落ちた鎖鉄球に手を伸ばす。


 が――


【ミスリルの残骸】


 収納時のステータスボーナス:

 腕力+5(上限値:350)


「うぬ!?」


 既に残骸扱いになり、極端に性能が低下している。

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