第17話 マルティナと屍竜使い7
「数十年も前の約束を守り、修業を続けるとは……! そして相手もそなたを信じて、秘かに支え続けるとは……! 人の一生は短く、それだけに我々よりも一時一時に価値がある。それをそのように使うとは……! 美しいではないか……っ!」
凶悪な人相? 竜相? のバーヴェルが涙を拭いながらうおんうおん言っているのは、ある種衝撃というか、何というか――
「お、おぬし……案外ロマンチストじゃのお。そんな風に言われるとこっぱずかしいわ。単に諦めが悪かっただけじゃよ。それに、ティナの考えはワシの想像に過ぎんしの」
「いいや、あちらもお主を待っているはずだ! 急いで確かめに行けばよい……! 全速力で飛ぶぞ!」
グンとバーヴェルの飛ぶスピードが上がる。
アンギャア――! アンギャア――!
行く手に立ち塞がる飛竜。かなりの数が集まっている。
その数は十は下らないだろう。
「どけええぇぇぇぇぇいっ!」
気合十分のバーヴェルは、スピードを落とさず突っ込んだ。
そして勢いを乗せた剣で、飛竜の翼を斬り刻む。
堪らず飛竜は、地面に墜ちて行く。
「アッシュよ! 振り落とされるなよ!」
更に空中での回し蹴り、反転して太い丸太のような尾による殴打を駆使して、血路を切り拓いていく。
「おう……! ワシも黙って見てはおらんぞ!」
敵は多く、ワシの動きも制限される。
こういう時には――ワシは呪文を詠唱し、発動をする。
「我が僕となり、出でよ炎よ赤き矢よ……! ファイアアローッ!」
無数の紅蓮の火線が、王都の空に舞い踊る。
まともに喰らった飛竜は地面に落ちて行き、避けようと動き回る飛竜同士が混雑して混乱を来たす。
「ならば我も続くぞ――! 『竜破撃』ッッッ!」
バーヴェルの剣から、青白い色をした光で形成された、巨大な竜の顎が生み出された。
グルオォォォォォォォォーーーー!
それが唸りを上げながら空中を疾走。飛竜を次々に捉えて咥え――
バシュウウウゥゥゥゥン!
音を立てて弾けると、巨大な光の柱となって飛竜達を包み込んだ。
ズタズタに引き裂かれた飛竜達が、次々と地面に墜ちて行く。
――前が開いた!
「突破する!」
すかさず突破をするバーヴェル。上手く囲みを抜け出せそうだ。
「あれが『竜破撃』か……! 最後の弾け方が『乱命波動撃』に似ておるのう」
「うむ。あれは『生命の宝珠』に集めた力を『竜破撃』に乗せたもの、元はこの技だ」
「……『生命の宝珠』か。あれワシが持っておるんじゃが――?」
「くれてやる。あれは、我が封印を解くための借り物に過ぎん。こうなった以上、我には不要の長物よ――」
「元々お主のものではないのか?」
「そうだ」
「で一体どこの誰の――」
「む……新手だぞ!」
そこで話が中断される。
もうバーヴェルは王都の街上空を突っ切り、王城付近まで到達していた。
だがそこに――それまでとは違う、迎撃者の姿が。
竜の顔だが二足歩行の、人体に近い骨格――
背に大きく開く翼。身につけた武器と鎧――
大きさこそバーヴェルより一回り小さいが、見た目は酷似している。
それが十人近く、こちらの行く手を阻んだのだ。
「!? あれは……!」
「……お主にそっくりじゃのう」
「ああ同じ竜人……ドラゴニュートだ――かつては我の部下だった者達よ……! おのれドルミナが……! 勇敢に戦ったあの者共を安らかに眠らせぬ気か……!」
バーヴェルはギリギリと歯ぎしりをしている。
元バーヴェルの部下だという竜人達は、先程のテントでのバーヴェルのように、目が禍々しい真っ赤な光を放っている。
バーヴェルは復活した上で、支配されずに正気を保つという離れ技をやってのけているが、彼等にそれは難しいようだ。
「おやおやおや……? バーヴェル様じゃないっスか?」
「お久しぶりっスねえ――?」
「でもここは行かせませんよォ? ドルミナ様のためっス」
「……正気に戻れ! ドルミナはお前達を利用しているだけだ!」
バーヴェルの説得も、しかし今の彼等には届かないようだ。
「そりゃああんたも同じっス!」
「あんたに従ってたら俺達死んだっス!」
「ドルミナ様の下なら死んでも生き返るから、安心して死ねるっス!」
「くっ……! アッシュよ、先に行ってドルミナを倒してくれ! 我はこやつらを食い止める! ドルミナが倒れれば、安らかに眠れよう……!」
しかしその言い方には――気になる所があった。
「い、いいのか……!? それが事実なら、おぬしも――」
「構わん! 元々そなたに負けて散っていた命! 最後に美しい話を聞けて、生き返った価値があったわ!」
「……分かった!」
「ようし……! では少々荒っぽく行くぞ! それぇぇぇぇぇいっ!」
バーヴェルはワシの首根っこをむんずと掴むと、王城の敷地に向けて思い切り投げ飛ばした!
「うおぉぉぉぉっ!? 本当に荒っぽいぞおぬし!」
「フッ――ここまで運んだのだ、文句を言うな!」
表情の読み取りに食い竜顔だが――ほんの少し、微笑んだようにも見えた。
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