第12話 マルティナと屍竜使い2
途中いくつかの村や町を経て、乗客は少しずつ少なくなっていった。
王都への途上に山越えがあり、そこは魔物も多いため、余程の用事が無いと、行きたがる者は少ないのだ。
かつてはティナも、この道を通って王都に出向いたのだろう。
その時はどういう気持ちだったのだろう。
50年以上も遅れてしまったが、今こそワシも同じ道を行く――
車窓の山の景色を眺めながら、そんな事を思っていると――
ガクンッ!
急に馬車が止まって揺れた。
「うわぁ……こいつは、参ったなぁ――」
御者の男が、途方に暮れたような声を出していた。
「どうしたんですかの?」
「ああ、前を見てごらん。岩が道を塞いじゃってるんだ。落盤があったみたいだね……これじゃあ馬車は通れないよ。一旦麓の村まで戻った方がいいね」
確かに行く先の細い山道を、大小さまざまな大きさの岩が積み上がり、塞いでいた。
「いやいや、ワシは急ぎますのじゃ。それは勘弁して下され」
「だけど馬車は通れないよ。徒歩でよじ登って超えても、その先が危険だよ」
「では、道を開けましょうかのう。ちょっと下がっていて下されよ」
と、ワシは馬車の前に進み出て、道を塞ぐ岩山に相対する。
「ど、どうするつもりなんだい?」
「こうですじゃ! 我が僕となり、出でよ炎よ赤き矢よ……! ファイアアローッ!」
せっかく覚えた魔法の一つ。この機会に試しておこうと思ったのだ。
既にワシの魔力のステータスボーナスも魔力+430になっている。
これならば、相当な威力が期待できるはず――!
ボッボッボッボッボッボッボッボッボッ!
ワシの周りを取り巻くように、無数の炎が出現をした。
「お、おおおおぉぉぉぉっ!? なななな、何だこれがファイアアローだって……!? で、デタラメな数じゃないか……っ! し、信じられない……!」
御者の男が腰を抜かさんばかりに驚いている。
まあ無理もない。15未満の子供は、一般的には無力な存在なのだから。
「いけええぇぇい!」
号令一下。無数の紅蓮の火線の尾を引いて、正面の岩山に火の矢が突撃をした。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォンッ!
耳を劈く連続した爆発音。吹き荒れる熱風。膨大に舞い上がった土埃。
それが晴れると――キレイさっぱり道が拓いていた。
「うむぅ。いい感じじゃの~」
ワシはうんうんと頷く。
『気弾』と違って一度に大量の矢が生み出せるため、速射性では上回るかも知れない。
ただ、こちらは足を止めて呪文を詠唱する必要があり、一長一短ではある。
相手の性質や用途によって使い分けは必要だろうが、これも十分戦力になりそうだ。
「あ、あわわわわわわ…………な、何なんだキミは、こんな子供見た事ないぞ……!」
「ほっほ。ただの冒険者ですじゃよ。さ、先を急ぎましょうぞ」
そして山を越え終わるくらいの所で、この馬車の旅の何度目かの夜を迎える。
グルルルルル…………!
外から小さく魔物の唸り声が聞こえた。
見ると、狼のような魔物の群れが、馬車の周りを取り囲もうとしている。
「うん……!? 魔物か!? 魔除けのランプは点けてるはずなのに……!? もう寿命が来てるのか、コイツ!?」
と、馬車の外側に吊り下げたランプを見つめている。
これは魔物が嫌う魔除けの光を放つランプだ。
マジックバックなどと同じ、魔法のアイテムの一種である。
【魔除けのランプ】
収納時、特技『魔除けの光』を使用可能。
「ふむ……ちょっと借りますぞい」
ワシは『魔除けのランプ』を【収納】した。
ビカッ!
ワシの体自体がランプのように発光し、『魔除けの光』を放った。
キャインキャイン……!
光を嫌がった魔物達は、こちらを襲って来る事なく去って行った。
「うむ。これでよし、と」
「はははは……色んな意味で輝いてるなあ」
「これで安心して眠れますのう」
そして更に進んだ森の中で――
「うん……? 何だか煙たいですのう」
「ああ。森林火災だな――う……!? 火の手はあそこか!」
「では消火しましょうかの。我が僕となり、出でよ呪氷よ青き礫よ……! フリーズバレット!」
ピキイイイイィィィィィィィィィンッ!
「ひえええぇぇぇぇぇ……っ! い、一瞬で火事が――ははははは……もう何でもありだなぁ、キミは。おじさんの中の常識ってヤツが壊れて行くよ……」
「ほっほっほ。人間いくつになっても、世界は広いという事ですのう」
更に更に――
メキメキメキメキ――メリィッ!
「ヒヒヒーーンッ!?」
運が悪い事に、倒木が馬車を引く馬を直撃してしまった。
「うわ……っ!? お、おい大丈夫か!? おい!?」
「大丈夫ですかの?」
「いや――足が折れちまってるかもしれない。ああなんて事だ、こんなになっちまって可哀そうに……」
「ふむぅ。ではワシにお任せを。母なる神よ――その慈悲を授け、かの者の傷を癒したまえ……! ヒール!」
「ヒヒィィィィン!」
「おおおお……! 治った! ありがとう! 守ってあげると言いながら、キミに助けられてばかりだよ! 本当にありがとう!」
「なあに。旅は道連れ世は情け、ですからのう」
そんなこんなで、王都への旅は概ね問題なく終わりそうだった。
が、いよいよ王都が見えてくる段階で――
「そろそろ王都が見えて来たよ! ん? でも何だアレは? 何かが沢山飛んでるぞ?」
「あれは……ひょっとしてドラゴンですかのう?」
ドラゴンがそれはもうわさわさと、王都上空を行き交っているのだが――?
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