第7話 沙奈と仕事とお兄ちゃん
ある日のポートフロンティア学園中等部での放課後のこと。
「かわいい沙奈さんも」
「大人っぽい沙奈も」
「いい感じだね!」
「沙奈さんのこと、大好きです!」
「私も!」
つぼみとアリスは沙奈のプリスタグラムを見ていた。
するとそこに、沙奈が現れる。
「つぼみちゃん、アリスちゃん、私のプリスタ、気に入った?」
「もちろん!」
「よかったです!」
「ありがとう!」
「ねえ、沙奈、一緒に帰ろう」
「ごめんね。今日は用事があるの」
「そうですか…」
「じゃあ、また明日ね」
「じゃあね」
「また明日、お会いしましょう」
つぼみたちは帰路についた。
「つぼみさん、沙奈さんはどうしてこんなに忙しいでしょうか?」
「うん。沙奈はジュニア世代のファッションリーダーだからね。幼いころから芸能活動を行っていたから」
「そうですか。大変です」
「沙奈はすごい売れっ子だからね」
つぼみは、アリスに沙奈が中学生世代でトップを独走しているファッションモデルであることを紹介した。
自宅のマンションに帰った沙奈に、世話焼きおばさんが待っていた。
「ただいま!」
「おかえり、沙奈ちゃん」
「今日はね、つぼみちゃんとアリスちゃんに私のプリスタグラムの写真を褒めてくれたの!」
「よかったね」
世話焼きおばさんは、沙奈がプリスタグラムに投稿した写真が周囲の人たちに好印象を得ていることを喜んでいるようだった。
「ただいま」
「お兄ちゃん、お帰りなさい」
すると、沙奈の兄でアルバイトの雪海風哉が帰ってきた。
「今日は、どうだったの?」
「…」
風哉は、何事もなかったように自分の部屋へと向かった。
「お兄ちゃん、もしかして私のことを気に入ってくれないのかな…」
「そのうち心が変わるでしょう」
「そうね」
沙奈と世話焼きおばさんはそう語った。
「お兄ちゃん、どうして私のことを信じてくれないの?」
沙奈が風哉に尋ねると、
「俺のことはどうでもいい」
「そんな!」
風哉は部屋に閉じこもってしまう。そのことを沙奈は、
「どうしたら、お兄ちゃんの気持ちがわかるのかな…」
と頭を悩ませていた。
その時、風哉は、
「両親を亡くしてから、俺は変わってしまったんだ…」
とあることを悔いていた。
翌日、そんな沙奈は、自身が専属モデルを務めるファッション誌の撮影に挑む。
「では、行きます!」
「カシャ!」
「もう一枚!」
「カシャ!」
「はい、いいですよ!」
「ありがとうございます!」
「さあ、休憩しようか」
「はい!」
沙奈が撮影をしているスタジオには、怪盗トリオのアルファが清掃員に変装して潜入していた。
「あら、素敵なお洋服がいっぱいありますわ!これは、魔獣の材料に決まりましたわ!」
アルファが勝手に洋服を盗んだことに、スタイリストは、
「何をしているんだ!人のものをとったら泥棒!」
と嘆いていた。
「大変だ!怪しい予感がする」
チララは、アルファと魔獣の気配を察知する。それを控え室にいた沙奈に伝えると、
「魔獣がどうしてこのスタジオにいるの!?」
と驚いた様子で語った。
「うわー!」
「きゃー!」
「誰かー!」
「助けてくれ!」
すると、スタッフたちの叫び声が沙奈とチララの元に響いてきた。
「急ぎましょう!」
「そうだね!」
沙奈とチララは魔獣の居場所だと思われるスタジオへと早急に向かう。
そこには、アルファと魔獣の姿があった。
「あら、またお会いすることができて本当に光栄ですわ。さあ、あなたにお見せしたいものがありますもの。本日の魔獣ちゃんはこちら!着せ替え人形の魔獣ですわ!」
マネキン人形が動き出した着せ替え人形の魔獣がスタッフたちを襲っていた正体だ。
「さあ、変身するわよ」
沙奈はプリンセスミラーを使ってアクアブルーに変身する。
「ブルー・ジュエル・パワー!ドレスアップ!」
青い光が沙奈を包む。
「水と氷のプリンセス・アクアブルー、見参!プリンセスステージ、レッツスタート!」
すると、カメラマンがシャッター音を切ろうとする。
「これが沙奈の新しい姿か!?」
「違うの。プライベートだわ」
アクアブルーは、魔獣との戦いをプライベートのひとつとしてとらえているようだ。
アクアブルーが現れると、着せ替え人形の魔獣がいきなり襲い掛かる。
「さあ、やっちゃいなさい!」
「うわー!お洋服が襲ってくるわ!」
アクアブルーは魔獣との戦いに大苦戦。
すると、アクアブルーは何かをひらめいた。
「そうだ!このマネキンにコーディネートしなくちゃ!おしゃれの本当の意味を思い出すために!」
アクアブルーは、全身マネキンに洋服を着させる。
「このドット柄のシャツとデニムのフリルスカートを合わせたら、ガーリーなコーディネートの出来上がり!」
かわいらしいガーリーコーディネートを完成すると、
「このハイヒールにバッグを合わせたら、大人っぽいコーディネートの完成ね!」
大人っぽいフェミニンなコーディネート完成させた。
「ちょっと、何をするのよ!」
「おしゃれというものは、女の子たちをとっても素敵にするための大切なことなの。それを忘れないでちょうだい」
アクアブルーはアルファに呼びかける。
そして、
「これは、私がコーディネートしたマネキンよ」
アクアブルーがコーディネートしたマネキンたちは、ガーリーとフェミニンだけじゃない。シンプルなベーシック、クールビューティ、明るくて元気いっぱいなポップ、活発なスポーティー、渋谷や原宿にいそうな姫ギャルコーデ、民族的なエスニック、レトロなサイケデリック、トラディショナルなプレッピー、日本の伝統文化を含めたアジアンコーデ、ノスタルジックな印象を与えるゴシックロリータ、きれいめで高価なゴージャス…
沙奈が幼いころからバレエで培ってきた表現力が随所に出たコーディネートに、魔獣は思わず立ち止まってしまった。
「さあ、行くわよ」
その時、アクアブルーのプリンセスジュエルから、ブルルが出てきた。
「サファイアのマジカルストーンを使えばいいのね!」
「プリンセスミラーにセットして」
アクアブルーは、プリンセスミラーにサファイアのマジカルストーンをセットする。その力をプリンセスバトンロッドにセットすると、曲が流れてきた。
「プリンセスステージ、ライブスタート!」
アクアブルーによる魔獣の浄化がはじまった。
「青い夏の空の下で」
「君が自転車を進んでいく」
「ペダルをこいだ先には」
「私が待っているから」
「幼い頃 二人で見ていた」
「あの景色を見てみたいから」
「もう一度」
「思い出の海」
「青く澄んだ世界が」
「忘れられない」
「ここをたとえ離れても」
「ずっと頭の中に…」
「思い出の海よ…」
「サファイアの輝きでパワーアップ!乙女の美しさ!サファイア・プリズム・ブリザード!」
アクアブルーがプリンセスバトンロッドでダイヤを描くと、魔獣は消滅していった。
「ちゅ、ちゅ、ちゅっぴー!」
とマジカルストーンの気配を察知した。マジカルストーンが落ちていく方に行くと、
「キャッチ!」
とチララがマジカルストーンを回収することに成功した。それを沙奈のプリンセスミラーに認識して、
「オニキス。漆黒のマジカルストーンだ」
「それではまた次回、輝く世界でお会いしましょう!プリンセスステージ、ハッピーフィナーレ!」
アクアブルーが勝利宣言する一方で、
「もう、また負けちゃったんじゃないの!」
アルファはこう嘆いて未来世界へと帰っていった。
「ただいま」
「おかえり、沙奈」
「おばさん、ちょっとお兄ちゃんのところに行ってもいい?」
「いいわよ」
その日の夕方、長時間に及んだファッション誌の撮影から帰ってきた沙奈は、早速風家哉の部屋へと向かう。
「コンコン」
「入っていい?」
「いいけど」
「ちょっと用があるの」
「それはそれで」
沙奈は風哉の部屋に突入する。
「お兄ちゃん、私の写真を見てほしいの」
「ああ、いいのか?」
「いいわよ」
沙奈が自分の写真を風哉に見せると、
「これが、沙奈のプリスタグラムか…素晴らしい写真でいっぱいだ」
と満足した様子で語った。
「あのね、これからは私とおばさんと一緒に暮らしていこう。ね、約束よ」
「ああ」
沙奈と風哉は兄妹としての約束を交わした。
「そう、あの日のこと、忘れてないの?」
「ああ。ずっと、覚えている」
二人は、あの日にあった出来事を思い出してみる。
それは、今から十年前の夏休み。雪海一家が東京から父方の実家がある静岡へ東名高速道路で帰省中のことだった。
「今日は、おじいちゃんの家にいくよ!」
「楽しみ!」
「おじいちゃんとおばあちゃんに会いたいな!」
すると、東京方面に向かう大型トラックが逆走してきて、雪海一家を乗せたミニバンタイプの車に向かってくる。
「沙奈、逃げよう」
「パパとママが!」
「それは、今はいい」
「でも…!」
まだ幼かった沙奈と小学四年生の風哉は逃げて無事だったが、両親はその事故で命を引き取ってしまった。
「そんな、僕たちだけが生き残るなんて…」
病院にいた風哉は、両親の意識が戻らなくなってしまった途端、思わず泣き崩れてしまった。
すべての法事を済ませた後、
「沙奈ちゃん、君はこれから静岡にある父方の実家でおじいちゃんおばあちゃんと一緒に暮らすんだよ」
「お兄ちゃんは?」
「横中で親戚のおばさんと暮らすと決まったから」
「はい!」
沙奈は、父親の遺言に従って静岡に引っ越すことになり、風哉のもとを離れていった。彼女が小学校を卒業するまでは…
「私、お兄ちゃんに本当のことを言えてよかった」
「ありがとな」
そして、沙奈は母親の遺影を見る。
「実はね、私はお母さんとおばあちゃんの若かりし頃に似せるために、幼いころからずっと髪を伸ばしているの」
「それも、沙奈らしいな」
「そうね」
こうして、沙奈と風哉は本当の愛を知ったのであった。
一方その頃、つぼみの家にいたチララは、未来を予言していた。
「もうすぐ、おとぎの世界から光の女神を慕う王子が人間界にやってくる。プリンセスドールズ、運命の扉を開くときがやって来る」
それは、おとぎの世界から人間界に発信したメッセージだった。