第29話 ヘンゼルとグレーテルと魔法の森
大盛況のポートフロンティア学園の文化祭の真っ只中、講堂で一年二組による劇「ヘンゼルとグレーテル」の幕が上がった。
「どんな感じになるのかな?」
「楽しみだ」
つぼみと晴斗がそわそわしていると、潮が演じるヘンゼルとアリスが演じるグレーテルが登場してきた。
「大変長らくお待たせいたしました。ヘンゼルとグレーテル、まもなく開演です」
ある森のそばに、貧しい木こりの夫婦とその子供であるヘンゼルとグレーテルの兄妹が暮らしていた。
「もうパンは手に入らないのだろう」
「そんな…」
「嘘でしょ…」
世紀の大飢饉でパンが手に入らなくなったことに、グレーテルは泣き始めるが、ヘンゼルは森へとキラキラ光る石をポケットいっぱいに集めた。
「森に行くわよ」
両親に連れられて森の中へと入っていくヘンゼルとグレーテル。しかし、
「パパ…」
「ママ…」
両親はもういない。
「お腹が空いた…」
「どうしよう…」
食料がなくて困っている二人。その翌日の昼下がり、屋根がマカロン、壁がクッキー、ドアがチョコレート、ビスケットやキャンディーなどのお菓子がデコレーションされた家を見つける。
「おいしそうなお菓子だ!」
「いただきます!」
喜ぶヘンゼルとグレーテル。
「これで一安心だと思うなよ!」
と魔女に扮した大将が現れる。
「…次、何を言うんだっけ?」
その時、大将が何かを度忘れしてしまう。すると、
「新たなる光輝く」
「高志の国で」
「清く 正しく 高らかに」
「青空に映える」
「白銀山脈」
「横中で一歩踏む」
「若者たちよ」
「誇り高く 希望をもって」
「ああ 青春の日々 行かむ」
なぜか大将がセリフを飛ばしたのだ。これには、思わず観客も爆笑の渦に包まれる。
「どこかで聞いたこと、あるような…」
「この学校の校歌のようだ」
説明しよう。大将が先ほど歌った曲は、ポートフロンティア学園の校歌である。中等部と高等部共通のものであるため、つぼみたちは入学から卒業までの六年間これを歌わなければならなくなる。
そんな劇を舞台裏から見ていた怪盗トリオは、
「あら、ヘンゼルとグレーテルという劇をやっているのですわ。この絵本を幼稚園の頃に読んだのですもの」
とアルファが言うと、
「これにしよう!」
「そうしよう!」
とベータとガンマは何かを思いつく。
魔女はついに我慢ができなくなり、ヘンゼルが太っていようといまいと、明日殺して煮て食うから大鍋の準備をしろとグレーテルに命じる。翌朝、グレーテルに大鍋を火にかけ湯を沸かすように言いつけ、魔女はパンを焼くかまどを準備しはじめたという物語の終盤に差し掛かってくると、
「キャー、助けてください!」
「誰か助けてくれ!」
と潮と大将が何者かによって捕まってしまう。
「みんな、早く逃げて!」
「怪しい予感がする!」
つぼみと晴斗は、観客とともに講堂の外へと避難する。
「さあ、そろそろ幕開きですわ!」
すると、アルファの一声で、講堂のドアが固く閉ざされた。
「お姉ちゃん!」
「リコ、ロコ!お母さんとはぐれてしまったのですね!」
と劇を見に来ていたリコとロコが取り残されているのを目撃する。
「守りたい、助けたい、大切な人を!」
アリスは、プリンセスミラーでシトラスイエローに変身する。
「イエロー・ジュエル・パワー!ドレスアップ!」
アリスを黄色の光が包む。
「花のプリンセス・シトラスイエロー、見参!プリンセスステージ、レッツスタート!」
シトラスイエローが現れると、
「本日の魔獣はこちら!」
「森の魔獣だ!」
怪盗トリオも負けず劣らずと、針葉樹と広葉樹が動いている森の魔獣が現れた。
「グレーテル…いや、シトラスイエロー、どうしてもヘンゼルと魔女を助けたいのであれば、この魔獣を倒してちょうだいな!」
「さあ、やっちゃいなさい!」
「ガッテンだ!」
と戦いの火蓋が切られた。
「ここを狙いなさい!」
とリコとロコのいる方にアルファと魔獣が向かってくる。
「みんなを…傷つけたくありません!」
「お姉ちゃん!」
「助けに来たのね!」
シトラスイエローがそちらに向かうと、魔獣の動きがぴたりと止まる。
「つぼみさん、沙奈さん、蘭さんといったプリンセスドールズのメンバーもそうですが、リコとロコ、潮さん、大将も私にとってはなくてはならない大切な存在です。だから、これ以上彼らのことを虐めないでください!」
と訴える。
「その通りだ」
「では、行きましょう。私の新しい力で助けますから、待っていてください!」
シトラスイエローはプリンセスミラーにトパーズのマジカルストーンをセットする。その力をプリンセスバトンロッドに授けると、
「プリンセスステージ、ライブスタート!」
シトラスイエローによる魔獣の浄化がはじまった。
「得意なことより」
「好きなことがいい」
「だけど」
「遊びもいいけど」
「学びもきちんとね」
「そう 人生は一筆書き」
「真っ白なキャンバスに」
「どんなふうに描こうかな」
「パパとママと先生も」
「おじいちゃんおばあちゃんも」
「そして 子供たちも」
「みんな同じ」
「世界の中に」
「暮らしているよ」
「個性を生かしながら…」
「トパーズの輝きでパワーアップ!乙女の勇気!トパーズ・フローラル・セラピー!」
シトラスイエローがレモンイエローの花を描き、魔獣に向かって放つと、魔獣は跡形もなく消えていった。すると、マジカルストーンが落ちてくる。
「ちゅ、ちゅ、ちゅっぴー!」
とチララはマジカルストーンの気配を察知した。マジカルストーンが落ちていく方に行くと、
「キャッチ!」
とチララがマジカルストーンを回収することに成功した。それをアリスのプリンセスミラーに認識して、
「チャロアイト。紫と灰色のマジカルストーンだ」
「それではまた次回、輝く世界でお会いしましょう!プリンセスステージ、ハッピーフィナーレ!」
シトラスイエローが勝利宣言する一方で、
「もう、今日も負けちゃったじゃないの!」
「なんだか俺たち」
「とっても嫌な感じ!」
怪盗トリオはこう嘆いて未来世界へと帰っていった。
「ありがとう」
「おおきに」
「どういたしまして」
そして、潮と大将は無事に救出された。
その後、懸命な準備の末に劇は再開された。
「ただいま!」
「おかえり、ヘンゼルとグレーテル」
「これ、お土産だよ」
「ありがとう」
帰ってきたふたりの姿を見てお父さんは喜び、子供たちが持ち帰った財宝で金持ちになった。
こうして、一年二組の劇「ヘンゼルとグレーテル」は途中でアクシデントがあったものの何とか無事に終了して、大成功を収めるのであった。
「みなさん、本日はありがとうございました」
「これからもよろしくお願いします」
「よろしくお願いいたします」
その時、会場はスタンディングオベーションに包まれていた。
劇が終わった後、リコとロコがアリスたちの元へと駆けつけてきた。
「お姉ちゃんたち、本当によかった!」
「ヘンゼルとグレーテル、大好き!」
「ありがとうございます!」
その時、リコとロコはアリスたちクラスメイトに拍手した。
陽が沈んで夜になったころ、つぼみたちは中庭に集まっていた。
「みなさん、本日は大変ご苦労様でした。ただいまより、打ち上げを行います」
と、実行委員の合図で文化祭の締めくくりとなるキャンプファイヤーが始まった。
「今日はどうだった?」
「楽しかったよ!」
「私たちのクラスの模擬店、たくさんの人が集まっていて嬉しいわ!」
「劇もみんなの評判は上々のようです!」
「初めてで緊張したけど、大成功ね!」
つぼみたちが今日の感想についてやりとりしていると、
「今日の大成功を祝って、みんなで校歌を歌おう!」
と、晴斗がつぼみたちに呼びかける。
「たくましき命輝く」
「港の街で」
「強く 優しく しなやかに」
「群青に映える」
「透き通る海」
「少年たち 少女たち」
「いざその時」
「大いなる夢を持って」
「ああ 横中の我が母校」
つぼみたちは、ポートフロンティア学園の校歌を高らかに歌い上げた。
そして、
「うちは来月の新人戦で絶対優勝するで!そして、オリンピックで金メダルを獲得したいんや!」
「私の目標は、チアリーディング部を創部以来初めてとなる全国大会出場に導くこと!」
「もっと多くの人を喜んでもらえるように、これからもたくさんスクープを狙っていくので、期待してください!」
と、大将たちはこれからの目標について語る。
「私の夢は、憧れの街であるフランスのパリでファッションショーを開くこと!だって、小さいころからの夢だからね!」
「私は、世界にその名をとどろかせる学者になりたいです!そのためにも、高等部で難関大学に進学を目指す人が集うスーパー特別進学コースに入れるように、一生懸命勉学にも励んでいきたいです!」
と、沙奈とアリスは将来の夢について語る。
「学業、部活動もいいけれど、プリンセスドールズとしての活動もしっかりやらないとね!」
「ああ。ここは学業と自分がやりたいことを両立できる環境が整っているし、横中ではたった一つしかない私立の中高一貫校だからね。僕がここに入学してよかったと思っている」
「青春は人生で一度きり。心の中の輝きを絶やさないで、一日を生きていこう」
蘭、晴斗は自分たちがやるべきことを語ると、つぼみも続いた。
すると、コロンがプリンセスムーンスターから、チララがつぼみのカバンからそれぞれ現れた。
「それでは、みんなのこれからの活躍を願って、エールを送るわ!」
「フレフレ、みんな!」
チララとコロンはつぼみたちにエールを送り、令和最初かつつぼみたちにとって初めてとなる文化祭は幕を閉じるのであった。
一方その頃、ドクターが未来世界から横中みなとみらいに現れる。
「またやられてしまったのか…なんとも使えないやつだな」
と怪盗トリオがプリンセスドールズにまたしても敗北したことを嘆いたうえで、
「プリンセスドールズ、君たちに大事なことを教えてあげよう」
とあることをプリンセスドールズに伝えることを示唆した。
これについて、高等部で文化祭の実行委員会の仕事をしていたプラチナは、
「またネメシス財団で権力が強い人がここに現れた。僕たちもより一層警戒しなければならない」
と危機感を強めた。




