第13話 謎の美少女転校生
未来世界から旅立った日の夜明け、ダークミラージュは、上空から横中を見下ろしていた。
「ここが、横中市ね…」
すると、ダークミラージュはポートフロンティア学園中等部の校舎の屋上に降り立った。
「このままでは、周囲にばれてしまうわ。私がネメシス財団の一員であることを」
ダークミラージュは、ドールプリンセスのドレス姿から人間の姿に変身する。
「今日からお世話になるわ」
ポートフロンティア学園中等部の制服に身を包んだダークミラージュは、ウエストまである髪が藤色から紫色に変わり、黒いリボンを右側に結んだのであった。
そんな朝、つぼみたちはいつものように登校していた。
「おはよう!」
「今日から衣替えです!」
「夏服もとっても素敵ね!」
初夏の陽気に包まれた通り道、つぼみたちはポートフロンティア学園中等部の夏服に身を包んでいた。
「さあ、六月といえば何を思い出しますか?」
「はい!」
「じゃあ、南さん」
「六月といえば、物憂げな六月の雨に打たれて~愛に満ちた季節を想って歌うよ~知らぬ間に忘れてた笑顔など見せて~虹の彼方へ放つのさ~揺れる思いを~」
「いい歌だね!」
「それもいいですが、もうすぐ梅雨が来るということです」
「梅雨入りはまだなの?」
「例年だとこの地方ではもうすぐ来ると思いますが…」
一年一組のホームルームでは、六月の話題をやっていた。
「みなさん、この時期は雨が降りやすいので、くれぐれも傘を忘れずに」
「そういえば、天気予報によれば夕方からの降水確率が上がっているから、気を付けて」
「あっ、傘を持ってきていない!」
「それも、つぼみちゃんらしいね」
晴斗と沙奈は、つぼみに思わず照れた。
「さて、今日からここに転入生がやってきます!では、どうぞ!」
「もう六月だよ?」
「季節外れの転入生という感じだね」
「男の子かな?女の子かな?」
「かわいい?かっこいい?」
「誰かと似ているかな?」
一年一組に新しいクラスメイトが入ってくることに、どうやらクラスメイトは落ち着かない。
「仲良くなれたらいいな」
つぼみがこう期待を寄せていた途端、転入生が入ってきた。
「自己紹介をお願いします」
転入生が黒板に白いチョークで自分の名前を書く。
「星空蘭です。よろしくお願いします」
「みなさん、仲良くしてください」
「よろしくお願いします!」
蘭が転入することになったクラスメイトは、
「すごくかわいいね!」
「クールでかっこいいし」
「イケてるね!」
とクラスメイトが蘭の第一印象を語り始めると、
「つぼみちゃん、星空さんの印象は?」
「どこかで見たことがあるような…」
「あっ、星空さんがつぼみちゃんと晴斗くんの班に入るみたいだよ」
蘭は、つぼみと晴斗の班に入った。
「よろしくね」
「よろしく」
「愛沢さん、藤村くん、よろしくね」
蘭はつぼみと晴斗にあいさつした。
蘭がポートフロンティア学園中等部の生徒としての初授業は、家庭科の調理実習である。
「今日は、ケーキを作ります!みなさん、素敵なケーキを期待しています!では、がんばってください!」
「はい!」
今回は、ホールケーキを作るという。
「楽しみだね!」
「一緒に頑張ろう」
「そうね」
つぼみたちも気合十分だ。
「私のことはつぼみでいいよ。星空さんは?」
「蘭で呼んでね」
「もし何かあったら、私と晴斗くんがフォローするからね」
「うん」
早速、つぼみたちはケーキ作りに取り掛かる。
「つぼみ、とっても料理上手だな」
「うん。特にスイーツはね」
スイーツ作りを趣味としているつぼみは、慣れた手つきで調理していく。
共立てで作るスポンジケーキの工程を、つぼみが蘭たちに教える。
「型にクッキングシートを敷き込んで、オーブンを180度に予熱するよ!」
「バターは湯煎で溶かすよ!」
ボウルに卵とグラニュー糖を入れグラニュー糖が溶けるまで湯煎にかけながらしっかり泡立てね!」
「これでいいのか?」
「そうね!湯煎しすぎると膨らみにくくなるから気を付けて!」
「生地を上から垂らした際に10秒程度文字が消えず残るまで泡立てることがポイントだよ!」
「薄力粉を振るい入れ、ゴムベラでさっくりと混ぜ合わせてね!」
「ポイントは?」
「泡がなくならないようにすること!」
「そうか。わかったよ」
「ある程度混ざったら、バニラエッセンスを入れて!」
型に流し入れて2、3回トントンと上から下へ軽く落とし空気を抜いたら、180度のオーブンで25分焼いて、竹串を刺して何もついてこなければ焼きあがり!」
こうして、スポンジケーキが完成した。
「さあ、蘭の出番だ。このケーキにデコレーションしてほしい」
「分かった」
蘭は、ホールケーキにマジパンやフルーツでデコレーションを施していく。
「バラの飾りはここに置いて…」
「ケーキを焼いている間に私が作ったんだよ!」
「ラズベリーとアラザンを置いて…これでいいかな」
「いい感じ!」
「完成だ」
「よかったね!」
つぼみたちは、ラブリーピンクをイメージしたピンクのホールケーキを完成した。
「これを冷蔵庫に保存しよう」
「食べるのが楽しみだね」
「うん!」
つぼみたちは、出来上がったケーキを昼休みに食べるという。
その最中に、体操服に着替えたアルファが家庭科室に潜入する。
「あら、いいケーキがたくさんありますわ。でも、そのうちの一番よくできたケーキをいただこうかしら」
すると、沙奈たちの班が作った夏満載のフルーツのホールケーキに、アルファは目を光らせた。
「これに決めましたわ!」
アルファは魔獣の生成に取り掛かる。
「大変だ!怪しい予感がする」
休み時間、チララが魔獣の気配を察知すると、
「家庭科室で事件の香りがします」
とアリスも反応。それをつぼみと沙奈に伝えると、
「私たちのケーキが危ない!」
「さっき作ったばかりなのに!」
「さあ、行こう!」
「家庭科室に急行です!」
「分かったわ!」
「うん!」
危機感を露にしたつぼみと沙奈は、アリスとチララとともに家庭科室へ向かう。そこで待っていたのは、アルファだった。
「あら、またお会いすることができて本当に光栄ですわ。では、本日の魔獣はこちら!お菓子の魔獣ですわ!」
アルファの合図で、フルーツやお菓子でデコレーションされた二段のホールケーキをかたどったお菓子の魔獣が現れた。
「許せない、私たちのケーキを奪うなんて!」
「オーホッホッホッホッホ!気づくのが遅かったのですわ!」
沙奈は、自分たちの班が作ったケーキをアルファが持っていかれたことに、怒りを露にした。
「さあ、変身よ」
「うん」
つぼみ、沙奈、アリスはプリンセスミラーでドールプリンセスに変身する。
「ピンク・ジュエル・パワー!」
「ブルー・ジュエル・パワー!」
「イエロー・ジュエル・パワー!」
「ドレスアップ!」
「愛のプリンセス・ラブリーピンク、見参!」
「水と氷のプリンセス・アクアブルー、見参!」
「花のプリンセス・シトラスイエロー、見参!」
「私たち、プリンセスドールズ!プリンセスステージ、レッツスタート!」
プリンセスドールズが現れると、魔獣がこちらに向かって攻めてくる。
「やっちゃいなさい!」
すると、型抜きクッキーでできた魔獣の手下が現れた。
「どうしよう…」
「私たちのケーキを守らなきゃ…」
プリンセスドールズは苦戦してしまう。
その時、シトラスイエローが何かを思いついた。
「ひらめきました!塩を魔獣に振りかけましょう」
「甘いものは、塩分が大敵!」
「そうとこなくちゃね」
プリンセスドールズは、塩を家庭科準備室から持ってくる。
「さあ、行くわよ!」
「3!」
「2!」
「1!」
「シュート!」
プリンセスドールズが魔獣に向かって塩を振りかけると、魔獣はみるみるうちに弱体化していく。
「何ですわ!塩分が糖分を上回るなんて」
「さあ、今がチャンスよ」
ここから、プリンセスドールズの本当の勝負が始まった。
プリンセスドールズは、それぞれのマジカルストーンをプリンセスミラーにセット。それをプリンセスバトンロッドに授けると、
「プリンセスステージ、ライブスタート!」
マジカルストーンでパワーアップしたプリンセスドールズによる魔獣の浄化がはじまった。
「Shining! 輝きを」
「いっぱい集めて」
「そのボルテージを」
「高めていこう」
「ここからまた始まる」
「私たちの物語」
「Star Light Stage」
「ときめいて」
「アイドルになっちゃおう」
「恥ずかしがらずに」
「Star Light Stage」
「一緒に」
「盛り上げていこう」
「一体感を高めて」
「Stardom!」
「今こそ、心を一つに!プリンセス・トリニティ・ストリーム!」
プリンセスドールズがそれぞれのシンボルマークを描き、魔獣に向かって放つ。すると、魔獣は跡形もなく消えていった。
「ちゅ、ちゅ、ちゅっぴー!」
とチララはマジカルストーンの気配を察知した。必死でマジカルストーンが落ちていく方に行くと、
「キャッチ!」
とチララがマジカルストーンを回収することに成功した。それをつぼみのプリンセスミラーに認識して、
「ペリドット。石鉄隕石の一種であるパラサイトの中に、まれに宝石質のカンラン石が混じっていることがあり、原石のまま、あるいは特に大きいものはカットされ流通することがある。隕石自体が珍しいものであり、その中でもまれにしか見られず、さらに生成の由来が所有者の夢をかきたてることもあって、たいへん高価である。黄緑のマジカルストーンだ」
「それではまた次回、輝く世界でお会いしましょう!プリンセスステージ、ハッピーフィナーレ!」
プリンセスドールズが勝利宣言する一方で、
「もう!また負けちゃったんじゃないの!」
アルファはこう吐いて、未来世界へと帰っていった。
昼休みの時間、つぼみたちは授業で作ったホールケーキを食べる。
「では、いただきます!」
「いただきます!」
「まずは、私と晴斗くんたちで作ったピンクのホールケーキを食べてみて!」
沙奈とアリスはピンクのホールケーキを食べると、
「おいしいね!」
「ちょうどいい味がします」
と褒めると、どうやってピンクのクリームを作ったのかをつぼみに尋ねる。
「そういえば、ピンクのクリームは?」
「気になります」
「生クリームにラズベリージャムを入れたんだよ!着色調味料を使っていないから、安心してね!」
「なるほど、いいアイディアですね!」
「つぼみらしいアイディアね!」
その後、沙奈たちの班が作ったフルーツのホールケーキを食べる。
「私たちのフルーツホールケーキはどう?」
「おいしいよ!」
「すごくいい味です!」
「ありがとう!このケーキは、旬のフルーツをいっぱい使っているの!例えば、メロンとパイナップルなど、トロピカルなフルーツを使っているよ」
「まさに、夏が来たという感じだな」
つぼみたちがケーキを食べていると、蘭がここにいないことに気づく。
「あれ、蘭は?」
「四時限目まではいたけど…」
「どこにいるのでしょうか?」
「でも、ピンクのホールケーキとフルーツホールケーキ、彼女の分はとっておいたからね」
「蘭ちゃんも食べたいと思っているわ」
「きっと来るでしょう」
つぼみたちも、蘭がここに戻ってくることを待っているようだ。
一方その頃、蘭は西野先生がいる職員室にいた。
「あの…西野先生、すいません。ちょっとこの一次式がわからないのですが…」
「分配法則を使って、解いてみて」
蘭が数学の宿題を解いてみる。
「…これかな」
「正解です」
「ありがとう!」
「もしわからないことがあれば、私のところまで来てくださいね」
「はい!」
西野先生がこの場から去ろうとしたその時、蘭と目を合わせる。
「あの先生、ちょっと気になるわ…」
蘭はこう呟いたのであった。




