第1話 ヒロイン誕生!
人々はみな、心の中に輝きを持っている。大人だけじゃなく、男の子、女の子、高齢者、障害のある人、遠い国にいる人、肌が黒い人、そしてこれから生まれてくるであろう赤ちゃんまで…。一人一人に違った輝きを秘めている。その中に、底知れぬ輝きを秘めているどこにでもいそうな少女がいることを忘れてはならない。
彼女の名前は、愛沢つぼみ。2019年の日本に住んでおり、もうすぐ中学校に入学する十二歳の女の子。
「この苺のショートケーキ、すごくかわいい!すいません、ちょっと写真を撮っていいですか?」
スイーツが大好きで、いくら食べても太らない体質の持ち主。
「せーの、キャッチ!」
バトントワリングが得意な明るい性格をしている。まさか、この後、運命を大きく変える出来事が訪れることを、彼女は知らなかった。
「わー!」
ある夜、不思議な生き物が空から降ってくる。
「ズドン!」
それがファンシーな感じがする建物に入ってきた。
ある春の日の朝。つぼみの部屋でのこと。
「ピピピピピピ…」
「はっ!お、おはよう!」
つぼみがベッドから起きて、身支度を済ませたあと、
「今日も頑張るよ!」
と鏡に向かって言った。
「やあ。つぼみさん。おはようございます」
こう語るのは、つぼみのパパで専業主夫の愛沢優一。
「おはよう、パパ!」
「つぼみさん、今日も元気ですね」
「だって、いつも元気だよ!」
「元気が一番ですね」
すると、つぼみのママで、児童書を手掛けるイラストレーターの愛沢さくらが階段を下りてきた。
「あら、つぼみちゃん。おはよう!」
「さて、みんなそろったことですし、ご飯にしましょう」
「うん!」
つぼみとその家族は、朝食を食べる。
「パパの作ったご飯、すごくおいしい!」
「ありがとうございます、つぼみさん」
つぼみたちが朝食を済ませた後、
「そろそろアトリエに行かなくちゃ!」
「今日もお仕事なの?」
「そう!」
「頑張って!」
「じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃい!」
つぼみのママは、お仕事のために、アトリエへ向かう。
「つぼみさん、今日の予定は?」
「特にないけど…ちょっと出かけてくる!」
「いってらっしゃい、つぼみさん。あ、でも怪しい人には気を付けてくださいね」
「行ってきます!」
つぼみは元気よく家を出ていった。
「私の今の気持ち、キュンキュンしてる!」
そう言っているつぼみだが、その時だった。
どこかから
「たすけて…」
という声が聞こえてきた。
「何か、あるかもしれない!行ってみよう!」
つぼみは、声が聞こえる方へと向かう。そこには、
「たすけて…!」
という声がさっきより大きくなっていた。すると、つぼみは、
「あの声の主、ここにいるかもしれない!」
と声の主がいそうなファンシーなおもちゃ屋さんへと向かう。
そこには、青いぬいぐるみが売られていた。
「このぬいぐるみ、すごくかわいい!ん?動いているし、しゃべっているみたい」
「キラキラ輝いている少女発見!」
つぼみは、青いぬいぐるみの方を向いた。
「突然、キミをびっくりしちゃってごめんね。ボクは青いチンチラの男の子、チララ。人間界と遠く離れた場所からやってきた。よろしく」
「よ、よろしくね、チワワ」
「チワワじゃないよ、チララだよ!」
「チララ、覚えておくね」
つぼみはチララにあいさつした。
「チララ、どうしてそこにいるの?」
「君のような無限の可能性を秘めている少女を探しているためだ」
おもちゃ屋さんを出た後、チララがなぜ人間の世界にやってきたのかをつぼみに説明している途端、怪しい三人組がつぼみとチララの背後から現れた。
「あら、可愛い小娘ちゃんを見つけましたわ」
「ついに発見したぞ!」
「追いかけるんだ!」
怪しい三人組はつぼみとチララの後を追う。
「ひとまず、逃げなくちゃ」
「分かった」
つぼみとチララは必死で逃げ、怪しい三人組を見失わせた。
「何よ!」
「見失ったんじゃないか!」
「ひとまずふりだしに戻ったか…」
しかし、その向こうにある公園で、巨大な魔獣らしきものが現れた。
「怪しい予感がする!いってみよう!」
「何か雰囲気が違う!」
「急ごう!」
つぼみとチララがそこに向かうと、怪しい三人組の姿があった。
「あら、またお会いすることができて本当に光栄ですわ!」
「見つかったぜ!」
「逃げられないぞ!」
「誰なの?あの不審者?」
「私たちを不審者呼ばわりするなんて、ひどいですわ!」
「お前、まだ学生なのか!?」
「決して怖くないぞ!」
つぼみが怪しい三人組を不審者と呼んだことに、本人たちは困惑する。そんなときのために、怪しい三人組は自己紹介を兼ねた口上を述べる。
「そうそう、私たちの自己紹介がまだでしたもの」
「いってみよう!」
「おれたちのことを!」
「誰かの声が聞こえたのなら」
「すかさずここにやってくる」
「世界の危機を救うため」
「今日も明るく出動だ!」
「レッド・アルファ!」
「ブルー・ベータ!」
「グリーン・ガンマ!」
「三人そろって、神出鬼没の怪盗トリオ!」
「なんてな!」
つぼみとチララを追っていた怪しい三人組の正体は、怪盗トリオだった。
そのリーダー格であるアルファは、
「本日の魔獣ちゃんはこちら!昆虫の魔獣ですわ!」
とクモをかたどった昆虫の魔獣を呼び出した。
「ところで、魔獣ってどんなもの?」
「そんな小娘に説明しよう!」
「我々が時空のかなたで育て上げたモンスターだ!」
怪盗トリオは少々複雑な気持ちで、つぼみに魔獣について説明する。
「どうしよう…私にできるのかな…」
これを聞いて、不安がるつぼみ。すると、魔獣とその手下たちが公園の人々を襲いかかってきた。
「キャー!」
「誰か助けて!」
「みんな、逃げろ!」
しかし、その時だった。
チララのしっぽに収めていたピンクの宝石が光輝いた。
「これは、プリンセスジュエルが反応している!」
「どういうこと?」
「ジュエルがキミを選んだようだ」
すると、ピンクのプリンセスジュエルの妖精が現れた。
「初めまして。私はピンクのプリンセスジュエルの妖精・ピルルよ。愛沢つぼみ、あなたは私に選ばれたドールプリンセスなの」
「本当に!?」
「そう、その証として、これを受け取って」
「ありがとう!でも、ドールプリンセスって?」
「ドールプリンセスは、世界を守る伝説のプリンセスなの。プリンセスジュエルの輝きに導かれた少女が変身するわ」
つぼみは、魔法のコンパクト・プリンセスミラーとペンダント状のプリンセスジュエル・ピンク、指輪状のプリンセスジュエル・ホワイトを手に入れた。
「許せない、私たちの笑顔を狙うなんて。だから、守りたい、みんなのことを!」
プリンセスジュエル・ピンクで覚醒したつぼみは、ドールプリンセスに変身する。
「ピンク・ジュエル・パワー!ドレスアップ!」
つぼみはピンクの光に包まれ、若干身長が伸びて大人の姿になったドールプリンセスに変身する。
「愛のプリンセス・ラブリーピンク、見参!プリンセスステージ、レッツスタート!」
つぼみは、飾りボタンとプリーツスカートが特徴的でピンクと白を基調としたコスチュームにボリュームが大きくなったツインテール姿のラブリーピンクに変身した。
「このコスチューム、すごくかわいい!」
ラブリーピンクは自身の衣装を気に入っているようだ。
「なんと!この小娘ちゃんがすさまじい力を秘めているとは!でも、お手並み拝見ですわ!」
アルファの合図で、魔獣が攻撃を仕掛けてくる。それに対して、ラブリーピンクはつぎつぎと回避する。
「動きがすごく軽い!」
すると、チララがラブリーピンクに指示を出す。
「ドールプリンセスは、歌とダンスで華麗に戦う伝説の魔法少女。そこで集めた輝きで、魔獣をやっつけるんだ!」
とチララが言い放つと、ラブリーピンクのブローチにあるプリンセスジュエルから、杖が出てきた。
「これは、ドールプリンセスの武器アイテム・プリンセスバトンロッド。さあ、キミの攻撃だ」
「行くわよ」
ラブリーピンクはプリンセスバトンロッドを受け取ると、曲が流れてきた。
「この曲、初めて聞いた!」
「さあ、歌って、ラブリーピンク」
「プリンセスステージでライブスタート!」
ラブリーピンクは曲に合わせて歌いだし、踊り始めた。すると、魔獣は次第に動きが鈍くなっていく。
「輝く未来に向かって 放つよ私だけのメロディ」
「愛を守るため みんなを守るために」
「きらめく世界に奏でる 私とあなたのハーモニー」
「あなたのそばにいる それがプリンセスなんだから」
ラブリーピンクの歌とダンスで、魔獣の動きが止まった。
「乙女の愛!ピュア・スイート・ハート!」
ラブリーピンクがプリンセスバトンロッドでハートを描くと、そのハートが魔獣に当たり、昆虫の魔獣は消滅した。
そこから出てきたコアから、一つの輝きが。
「ちゅ、ちゅ、ちゅっぴー!」
チララが輝きを察知すると、追いかける。すると、チララが輝きをキャッチ。それをラブリーピンクのプリンセスミラーに認識すると、
「ルビー。鮮やかなピンク色に輝くマジカルストーン。天然ルビーは産地がアジアに偏っていて欧米では採れないうえに、産地においても宝石にできる美しい石が採れる場所は極めて限定されている。また、3カラットを超える大きな石は産出量も少ない。それゆえ、かつては全宝石中で最も貴重とされ、ダイヤモンドの研磨法が発見されてからも、火炎溶融法による人工合成ができるまでは、ダイヤモンドに次ぐ宝石として扱われた。愛の魔法が使えるよ」
「プリンセスステージ、ハッピーフィナーレ!」
ラブリーピンクは、初めてのマジカルストーンであるルビーを手に入れた。
「もう、魔獣ちゃんがやられちゃったじゃないの!」
「おれたちが手塩にかけて育てたのに!」
「次という次は絶対に勝つ!」
怪盗トリオはこう嘆いて、どこかに去っていった。
その後、チララはプリンセスミラーについて語る。
「プリンセスミラーは、ドールプリンセスに変身する魔法のコンパクトならではの機能だけではなく、マジカルストーンを認識することができる優れものだよ!」
「マジカルストーンって?」
「闇の力から世界を救うために必要な宝石だ。ボクのふるさとは闇の力によって支配されている。そのためには、ドールプリンセスの力が必要なんだ!」
チララはつぼみに協力を呼び掛ける。
「分かったよ。守りたい。世界の輝きを!」
「そうとこなくっちゃ!」
「そういえば、自己紹介も忘れてた。私、愛沢つぼみ。よろしくね!そうそう、私とチララが出会ったのだから、今の気持ち、とってもキュンキュンしてる!」
「つぼみ、これからもよろしく!」
つぼみはチララに自己紹介した。
「そういえば、ドールプリンセスはラブリーピンクだけとは限らない。キミと一緒に戦う仲間を集めなければならない!」
家に帰って、チララがドールプリンセスについて語ると、つぼみのパパが現れた。
「おかえりなさい。今日のおやつはマカロンです」
「では、いただきます!」
「いただきます!」
「召し上がれ」
つぼみとチララはマカロンを食べる。
「このマカロン、すごくおいしい!」
つぼみがマカロンをほおばると、チララはマカロンにかじりついた。
「ボクの大好物だ!」
「あっ!」
「おいしい!」
「待って!」
こうして、ラブリーピンクになったつぼみがドールプリンセスとしての活動を開始したのであった。
一方その頃、光の女神がおとぎの世界で、人間界の様子を水晶玉で見ていた。
「世界を救う新たなヒロインの誕生です。どうか私たちを助けてください、ドールプリンセス…」
とつぶやいた。