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第29話 『使徒』の計画をアイリスに説明してみた。

 俺は船内食堂で、『砂時計の使徒』の計画書を手に入れた。

 それによれば、今日の出来事はすべてそいつらが引き起こしたものらしい。


 ……こんな重要資料を残しておくなんて、ちょっと不用心過ぎないか?


 ふむ。

 こういう時、ドラマや映画なら、船に爆弾が仕掛けられてたりするんだよな。

 船ごと資料を海に沈めて証拠隠滅、みたいな。


 嫌な予感というものは当たるものだし、ちょっと調べておこう。


 俺は【サーチマーカー】を発動させる。

 検索対象は爆弾とそれに類するもの。

 

 結果は――該当1件。

 場所は船内食堂のすぐ隣、厨房だ。


「……まさか、本当にあるなんてな」

「コウ、どうしたの?」


 アイリスが俺のつぶやきに反応して、こちらに視線を向けてきた。


「どうやら船に爆弾が仕掛けられているらしい。少し対処してくる」


 俺はそう告げると、アイテムボックスからフェンリルスーツを選択し、装備を変更する。

 すぐに《神速の加護S》を発動させた。

 

 意識が加速し、時間が無限大に引き延ばされる。

 永遠に等しい1秒のなか、俺は食堂から厨房に向かう。

 爆弾は厨房の奥にあった。

 トランクケースほどの大きな箱だ。

【鑑定】によると、これは一種の魔道具であり、起動から一定時間が経過すると爆発を起こすらしい。

 威力はかなりのもので、この船を沈めるには十分のようだ。


 残り時間は、あと10分。


 さて、どうするか。

【器用の極意】があるので解体してもいいが、実はもっとシンプルな解決法がある。 

 俺は爆弾に触れると、アイテムボックスに収納した。

 

 以上、終わり。


 アイテムボックスの内部では時間が止まっているため、爆弾のタイマーも進まない。

 今後、『砂時計の使徒』の拠点にお邪魔することがあったら、この爆弾を置いていこう。

 落としものはきっちり届けないとな。


 冗談はさておき、俺はアイリスのところに戻り、《神速の加護S》を解除する。


「アイリス、爆弾の対処は終わった。安心してくれ」

「ええっと、一瞬、コウの姿が消えたような気がしたんだけど……」

「フェンリルスーツの《神速の加護S》を使ったんだ。いずれにせよ、もう心配しなくていい」

「……なんというか、本当に規格外よね、コウって。そもそも、どうして爆弾があるって分かったの?」

 

 どうして、と言われてもな……。


「カン、だな」

「スキルとかじゃなくて?」

「爆弾を探すのにスキルは使ったぞ」

「でも、爆弾があるかも、って判断したのはカンなのよね? ……前々から思ってたけど、コウの直感って、ときどき恐ろしいくらいに鋭いわよね」

「そうか?」

「あたしがコウに嘘をつくわけないでしょ。ところで、『使徒』の計画書にはどんなことが書いてあったの?」


 アイリスは計画書の内容がものすごく気になっているらしく、さっきからチラチラとそちらに目を向けていた。

 さて、何から話したものかな。


「冒険者ギルドのシステムが攻撃を受けたのは知ってるか?」


 俺が問いかけると、アイリスはすぐに頷いた。


「もちろん知ってるわ。犯人は傭兵ギルドの人間で、コウが捕まえたのよね」

「ああ。……だが、実行を指示したのは『砂時計の使徒』だ。この計画書を読むかぎり、傭兵ギルドの上層部は『使徒』に乗っ取られているらしい」

「えっ……!」


 アイリスは驚きの表情を浮かべた。

 それから何度かパチパチとまばたきを繰り返したあと「そういえば――」と呟いた。


「1年くらい前、傭兵ギルドの幹部がごっそり入れ替わったのよ。もしかして……」

「たぶん『使徒』が関わっているはずだ」


 信者たちを幹部として捻じ込んだか、幹部たちを洗脳して信者にしたか。

 細かい手段は分からないが、1年前から傭兵ギルドは操り人形ばかりだったのだろう。


「ともあれ、『砂時計の使徒』は傭兵ギルドに命じて冒険者ギルドのシステムを攻撃させたらしい。そのための魔道具も提供したみたいだな」

「真の黒幕はそいつらだった、てことね。……あれ、ちょっと待って」


 アイリスは何かを思いついたらしく、右手をこめかみに当てながら呟く。


「夕方にデビルパスの大群が地下都市から出てきたけど、その犯人も『使徒』の信者だったわよね。それに、白竜を復活させたのも『使徒』なわけで、ええっと……」

「アイリスが想像している通りだ」


 俺は『使徒』の計画書を掲げた。


「これによれば、今日の出来事はすべて繋がっている」


 まず、傭兵ギルドに命じて冒険者ギルドのシステムをダウンさせる。

 それに並行し、信者を地下都市に送り、デビルパスたちを解き放つ。

 事件に次ぐ事件によって混乱が起きたところを狙い、儀式によって白竜を復活させ、王都一帯を壊滅させる。


 以上が『使徒』の計画だ。

 アイリスにそのことを伝えると「つまり、コウの予想通りってこと?」という言葉が返ってきた。


「まあ、そうだな」

「やるじゃない。情報も少ないのに計画をきっちり言い当てるなんて、やっぱりコウの直感はすごいわね」

「いや、ただの偶然だろう」

「どうかしら? ……まさかと思うけど、コウ、『使徒』の教祖だったりしないわよね? この計画を立てた張本人だった、とか」


 アイリスは冗談めかした調子で、とんでもないことを言ってきた。


「そんなわけがないだろう」


 自分の立てた計画を、自分自身で叩き潰すなんて意味不明すぎる。


「というか、どうして教祖なんだ」


『使徒』の一員と疑われるのは、まあ、仕方ない。

 ここまで予想が的中するなんて、常識的に考えると不自然だからな。


 だが、いきなり教祖扱いされるのは想定外だった。


「だってコウ、黒竜や暴食竜を従えてるでしょ? 災厄を操るなんて、『使徒』のトップにありそうな能力じゃない?」

「確かにな……」


 そう言われると反論できない。

 というか、『使徒』から見て、俺はどういう存在なんだろうな?


 あいつらは災厄を神の遣いとして崇めているわけだし、もしも俺が黒竜を連れて面接 (?)に行けば、幹部待遇で迎えてくれるかもしれない。


 まあ、災厄と戦っていけば『使徒』と真正面から衝突することもあるだそうし、その時を楽しみにしておこう。


 

 その後、客船内を軽く探索したが、特に何も見つからなかった。

 もしもアニメやマンガなら、このタイミングで爆弾の存在が発覚し、大慌てで脱出することになるのだろう。

 だが、俺はすでに先回りして対処している。


 これといったトラブルもなく探索を終え、宿場町ファイフへと帰還した。





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