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第28話 船で重要資料を見つけてみた。


 機械竜は俺とアイリスを乗せたまま、高度を下げて客船へと接近していく。

 

 客船の甲板はかなり手狭なため、機械竜が降り立つのは難しそうだ。

 仕方ない、飛び降りるとしよう。


「俺が先に行って安全を確認する。アイリスは後から来てくれ」

「分かったわ。気を付けてね、コウ」

「もちろんだ」


 俺は頷くと、機械竜から飛び降りる。

 落下距離はおよそ10メートルほど、着地の瞬間、あえて派手な音を立てる。


 だが、船内から敵が現れるようなこともなく、聞こえてくるのは波の音ばかりだった。


「……大丈夫そうだな」


 俺が機械竜に向かって手を振ると、その背に乗っていたアイリスが頷き、甲板に飛び降りてきた。

 着地と同時に、タンッ、という軽快な音があたりに鳴り響く。


 だが、それでも船は沈黙を保ったままだった。


「誰も乗っていないのかしら……?」

「たぶん、そうだろうな」


 俺は頷きながら甲板を見回す。

 床板には赤い塗料で『8』の字に似た図案が描かれている。


「コウ、これって『砂時計の使徒』の紋章よね」


 アイリスの言葉に、俺は頷いた。


「ああ。たぶんこの客船は『使徒』の所有物なんだろうな」

「じゃあ、どこかに信者が乗ってるってこと? 人の気配なんて全然しないけど……」

「信者たちは、たぶん、海の底だろうな」

「どういうこと?」

「『絶界の白竜』を蘇らせるための生贄になった。俺はそう考えている」


 とはいえ、この話はあくまで状況証拠からの想像にすぎない。

 何らかの手掛かりが船に残っていればいいんだけどな。


 ところで俺は白竜を倒した時にレベル108になったわけだが、その際、新たなスキルを獲得していた。

【サーチマーカー】。

 このスキルの使い方はすこし特殊で、発動前に3つまで検索条件を定めておく。

 条件に該当するものが一定距離内に存在する場合、その位置が【オートマッピング】の地図に表示される。

 要するに、オープンワールド系のゲームに出てくるクエストマーカーみたいなものだ。


 説明だけじゃ分かりにくいだろうし、実際に使ってみようか。

 俺は次のように検索条件を定めた。


 検索条件1 災厄についての情報

 検索条件2 『砂時計の使徒』についての情報

 検索条件3 この船で何が行われていたか、についての情報

 

 今回は3つのうち、どれかに該当すればOKとしておく。

 なお、スキルの効果範囲は半径27mのようだ。

 おそらく計算式は「レベル÷4」だろう。


 この客船は小型で、全長は30mほど。

【サーチマーカー】の効果範囲にきっちり収まっている。


 さあ、検索を開始しようか。

 スキルを発動させると、数秒の間を置いて、頭の中に無機質な声が響いた。


『検索を終了しました。該当するのは1件、検索条件1、2、3すべてを満たします。……結果を【オートマッピング】に反映しました』


 脳内でマップを確認すると、船内食堂のところに青色の光点が輝いていた。

 なるほど。

 ここに行けばいいわけだな。


 俺がひとり頷いていると、横からアイリスが声をかけてくる。


「コウ、急に黙り込んでどうしたの?」

「ちょっとスキルを使っていたんだ。それよりも船内食堂に行こう。そこに手掛かりがあるはずだ」



 * *


  

 船内は暗闇に閉ざされており、一歩先さえマトモに見えなかった。

 明かりが欲しいところだ。

 そう思ってると、後ろからアイリスが話しかけてきた。


「コウ、松明(たいまつ)って持ってる?」

「ないな。……ああ、いや、代わりならあるぞ」


 俺はアイテムボックスから月光の大剣アルテミスを取り出す。

《月の祝福EX》を発動させると、刃がまばゆい光を放った。

 

「これで見えるな」

「……ねえコウ、その剣てたぶん神話とか伝説に出てくるようなレベルの代物よね」

「まあ、そうだな」

「それを松明(たいまつ)代わりに使うなんて、ものすごい贅沢じゃない? ……なんというか、あなたって大物よね」

「使えるものを有効に使っているだけだよ」

  

 俺はそう答えると、まっすぐに船内食堂へと向かう。

 細い廊下を進み、奥の階段を上ってすぐ左側のドアを開ける。

 

 船内食堂は学校の教室ほどの広さで、長机が三列、一定の間隔で並んでいた。

 中央の長机には、紐で綴じられた冊子が置いてあった。

 これが俺の求める手がかりだろうか?


 俺はアイリスを連れて食堂の中に入る。

 大剣を長机の上に置き、冊子を手に取った。

 ページをパラパラとめくってみると、そこには見たことのない文字がズラズラと並んでいた。

 アイリスは右横から冊子を覗き混んでいたが、やがて困ったように眉を寄せて呟いた。


「……ぜんぜん読めないわ。どこの国の言葉かしら」

「暗号かもしれないな」


 これは解読するのに手間がかかるかもしれない。

 ……と思っていたら、脳内に声が聞こえた。


『【言語習得】により暗号の解析が終了しました。以後、この暗号形式の読み書きが可能となります』


 なんだって?

 俺が戸惑っている一瞬のうちに、驚きの変化が起こっていた。


 意味不明だった文字列が、スラスラと読めてしまう。

 なんだか不思議な感覚だ。

 とりあえず、目に入った一文を読み上げてみる。

 

「『絶界の白竜を降臨させるには男女それぞれ10人ずつの生贄が必要となる。これは世界をあるべき姿に戻すための、崇高な使命である。各々、決意を鈍らせることなく、海中に身を投じるべし』……?」

「えっ!?」


 アイリスが驚きの声を上げた。


「もしかして暗号が解読できたの?」

「まあ、そんなところだ」

「早すぎじゃない? すごいというか、コウって本当になんでもできるのね……」

「さすがに褒め過ぎだ。俺にもできないことはある」


 白竜との戦いだって、アイリスの足止めがあったから楽に勝てたわけだしな。

 それはさておき、俺はざっと冊子に目を通す。


 なるほどな。

 内容はだいたい把握した。

 

 冊子は『使徒』の計画書というべきものであり、やはり、この船では白竜を呼び出すための儀式が行われていたようだ。

  

 それだけでなく、他にも色々と重要なことが分かった。


 今日はいろいろな事件が連続していた。

 冒険者ギルドのシステムダウン、デビルパスの出現、そして白竜の復活。

 この3つは、すべて裏で繋がっていたらしい。

 

 俺の予想通り、というわけだ。

 

いつもお読みくださりありがとうございます!


本作の書籍版が8月24日 (土)にMFブックスより発売されます。

地域によっては今日から書店に並んでいるかと思いますので、見かけたらお買い上げくださいませ。

購入いただけると、更新の大きな励みになります。よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)


活動報告には口絵ページを掲載しておりますので、そちらもご覧くださいませ!



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