第27話 落ちてくるアイリスをキャッチしてみた&怪しげな船に接近してみた。
【災厄殺し】の力により、絶界の白竜は消え去った。
あたりには白銀の粒子がキラキラと漂っている。
それは夜空の星が落ちてきたかのような光景だった。
「……ふう」
俺は一息つくと、弓矢を構えていた腕を降ろした。
その直後、いつものように無機質な声が聞こえてくる。
『災厄“絶界の白竜”は完全消滅しました。コウ・コウサカのレベルが108になりました』
ほほう。
どうやらレベル99でカンストはせず、そのまま上昇したらしい。
まさかの三ケタ到達だ。
だったら、レベルの上限はいくらだろう? 255? 999?
さすがに1000はないと思うが、ここまでくれば限界まで上げてみたくなる。
災厄を見かけたら積極的に狩るのもアリだな。
レベルが一気に上昇するし、災厄の素材から【創造】できる装備はどれも非常に性能が高い。
世界を滅ぼしかねない存在がレベルアップや素材収集のカモになってしまう……と言うのは、ある意味、ものすごくゲームっぽい。
ネトゲやソシャゲでたまに見かける光景だ。
ああ、そうだ。
白竜はサラサラと粒子になって消えてしまったが、死体はどうなったのだろう。
いつもは死体を【自動解体EX】にかけて素材を入手、それから【創造】という流れだが、肝心の死体がなければ困ったことになる。
アイテムボックスを確認してみると、リストには「絶界の白竜の死体×1」が追加されていた。
完全消滅したのに死体は残っているのか。
ありがたい話だが、ちょっと不思議な気分だ。
ただし、暴食竜の時と同じく、白竜の魂は回収されていなかった。
ふむ。
もしかすると災厄の本質はその魂にあるのかもしれない。
だから【災厄殺し】を使うと、死体は残っても、魂は消えてしまう……とか。
まあ、細かな疑問はいずれゆっくり検討すればいい。
今はそれよりも優先すべきことがある。
アイリスだ。
災厄との戦いが終わったことで、【血の覚醒】は強制的に解除された。
結果、背中の翼が消えてしまい、そのまま落下を始めたのだ。
もちろん見捨てるつもりはない。
俺は機械竜に呼びかける。
「アイリスを受け止めるぞ。いけるか?」
「グオオッ!」
機械竜は「任せろ!」と言いたげに頷くと、俺を乗せたまま、一気に急降下を始めた。
アイリスを追い越し、その真下へと回る。
俺が【器用の極意】を発動させながら両腕を構えると、アイリスはそこへ収まるように落ちてきた。
全身のバネを使って衝撃を和らげつつ、受け止める。
こちらのダメージはほぼゼロだった。
レベル108だけあって、俺の身体はかなり頑丈になっているようだ。
「アイリス、怪我はないか?」
「大丈夫よ。……また助けられちゃったわね」
「別に構わない。仲間として当然のことだ」
それに、今回はアイリスもしっかり働いてくれたしな。
【血の覚醒】で白竜を足止めしてくれたおかげで、思いのほか簡単に勝負がついた。
この点はきっちり感謝している。
俺と機械竜だけなら、もう少し時間がかかっていただろう。
「今回は手伝ってくれてありがとうな、アイリス」
「礼なんていいのに。コウの役に立てたなら、あたしはそれで満足だもの」
アイリスはクスッと笑うと、俺の腕から降りる。
「それにしても、コウって本当にとんでもないわね。あんな大きな怪物を一発で倒しちゃうんだもの。あとは落とし子を片付けるだけかしら」
「いや、その必要はないはずだ」
落とし子を【鑑定】したときの説明文を覚えているだろうか。
――その身体はあらゆる攻撃に対して高い耐性を持つが、白竜が倒された場合、その生命を維持できない』
実際、俺のアイテムボックスには『白竜の落とし子の死体×8』という項目が増えていた。
“親”である白竜が討伐されたことで、落とし子たちも連鎖的に倒された……ということなのだろう。
それをアイリスに説明したところ「災厄って本当に不思議だらけね」というコメントが返ってきた。
俺も同じ感想だ。
災厄って、いったい何だろうな。
一度、本腰を入れて調べてみるべきかもしれない。
……俺がそんなことを考えているあいだ、機械竜はゆっくりと高度を下げていたが、海面が近くなってきたあたりで急に「グルルルルゥ!」と唸り声をあげた。
「どうした? 何か見つけたのか?」
「グルルル! グルルルル!」
機械竜は「向こうを見て!」と言わんばかりに首を前方に伸ばした。
そちらに目を向ければ、少し離れたところに一隻の船が浮かんでいた。
小型の客船だ。
甲板に人の姿はなく、また、船のどこにも明かりが灯っていない。
いくら夜とはいえ異様な状況ではないだろうか。
「なんだか不気味ね。まるで幽霊船みたい……」
「もしかしたら、災厄に関係しているのかもな」
俺の頭をよぎったのは、【災厄分析】の結果だ。
絶界の白竜は《白き生贄の儀式》によって現れるという。
この客船こそ、儀式の舞台だったのではないだろうか?
俺の推論を裏付けるように、雲のあいだから月光が差し込み、甲板を照らし出す。
そこには『8』の字に似た紋章が赤い塗料で大きく描かれていた。
なるほどな。
あの紋章は『砂時計の使徒』がシンボルとして使っているものだ。
『砂時計の使徒』は災厄を神の遣いとして崇めている。
もしかすると、信者たちの手によって儀式が行われ、白竜が出現したのかもしれない。
船の中に、『使徒』や災厄についての手掛かりは残っていないだろうか?
俺は客船に乗り込むべく、機械竜に接近を命じた。




