第24話 古代の宗教組織について話を聞いてみた。
前話、更新直後の内容からいくつか書き換えています。
※細かい部分なので、前話を読み直す必要はありませんよ!
男の刺青→「竜を象ったような形」→「数字の8のような形」に変更
男の装備品→「白竜の腕輪」→「魔霧の腕輪」、「蒼竜の長剣」→「疾風の長剣 (試作型)」
以上、よろしくお願いいたします。
俺はついに事件の黒幕を捕らえた。
そいつはスキンヘッドの若い男で、いまは気を失って地面に倒れている。
頭の右側には数字の「8」みたいな紋章が刻まれており、黒ずくめの服装も合わさって、いかにも怪しげな雰囲気だ。
いったい何者なんだろうな。
そんなことを考えながら一息ついていると、シャルが長い金髪を揺らして駆け寄ってくる。
「コウ様、ご無事ですか!?」
「ああ、大丈夫だ。犯人も捕まえたし、これで一件落着だな」
「お怪我がないようでよかったです。コウ様は本当にお強いのですね。……あら?」
シャルは驚いたような声をあげると、スキンヘッドの男へと視線を向けた。
「この紋章、もしかして……」
「心当たりがあるのか?」
「ええと、その」
シャルは戸惑いの表情を浮かべつつ、自分の口元に手を当てる。
「いえ、気にしないでください……。私の勘違いかもしれませんし、むしろコウ様を混乱させてしまうかもしれません……」
ううむ。
シャルはいったい何を言おうとしたのだろう。
気になる。
こういう時、疑問を放置しないのが俺という人間だ。
「シャル、紋章に心当たりがあるんだろう。だったら、詳しいことを教えてくれないか」
「で、でも……まだ確証がありませんし、いい加減なことをコウ様にお伝えするわけには……」
「もしシャルの情報が間違っていても責めたりはしない。だから、遠慮なく話してほしい」
俺はそう言って、シャルの瞳をまっすぐに見つめる。
しばらくシャルもこちらを見つめ返していたが、やがてアワアワと落ち着かない様子になり、顔を赤らめて下を向いてしまった。
「わ、分かりました。お話しします。うう、そんな真剣な眼をされたら、断れるわけないじゃないですか……」
どうやら俺の誠意は通じたらしい。
シャルはコホンと咳払いすると、まだ照れているらしく、俯いたまま話を始めた。
「この紋章は、今から5000年前に活動していた『砂時計の使徒』という宗教組織のものなんです」
「5000年前ってことは、古代文明がまだ存在していたころか」
「はい。『砂時計の使徒』は災厄を神の遣いとして崇め、世界各地で破壊活動を繰り返していました。古代文明と一緒に滅んだとばかり思っていたのに、まさか今も活動していたなんて……」
シャルは、信じられない、と言いたげな表情で首を振った。
『砂時計の使徒』というのは真っ当な宗教じゃなく、テロ組織まがいのカルト教団のようだ。
要するに、悪の秘密結社みたいなものだろう。
そんな連中が5000年の長きに渡って存在している……というのは現実的に考えにくいし、最近になって誰かが『砂時計の使徒』を再興させたのかもしれない。
まあ、細かいことは黒幕の男に吐かせればいい。
【空間跳躍】で宿場町に戻るとしよう。
俺はネクロダークを解除したあと、アイテムボックスを開き、アーマード・ベア・アーマーを装着した。
付与効果の《怪力C+》を発動させてから、気絶している黒幕の男を右肩に担いだ。
そのあと、シャルに声をかける。
「悪い、ちょっと手を出してもらっていいか」
「あっ、はい。これでよろしいでしょうか……?」
シャルは右手を差し出してくる。
俺は左手でその指先に触れ、【空間跳躍】を発動させた。
周囲の景色がグニャリと歪み、一瞬の浮遊感のあと、俺とシャルは夜の街道へとワープしていた。
少し離れた所には町の城門が見える。
そのあと、俺はシャルを連れてファイフに戻り、城門のそばにある衛兵の詰所へ向かった。
スキンヘッドの男を引き渡し、衛兵長に報告を行う。
俺がここまでの経緯を話し終えると、衛兵長は深く頭を下げた。
「《竜殺し》殿、デビルパスから街を守ってくださり本当にありがとうございます。それどころか黒幕まで捕まえてくださるとは……! ううっ、感激のあまり涙が……」
この衛兵長さん、俺が出発する時も泣いてなかったか?
ゴツい見た目のわりに涙もろいんだな……。
スキンヘッドの男は《雷撃麻痺S+》によって気絶しているため、尋問は明日以降ということになった。
俺がシャルを連れて詰所を出ると、外ではアイリスとリリィが待ってくれていた。
「コウ、お疲れさま!」
「おかえり、なさい、です。コウさん」
「ただいま。街のほうは大丈夫だったか?」
俺がそう尋ねると、アイリスはえへんと胸を張って答える。
「そりゃもちろん。コウの代わりにきっちり街を守っておいたわ」
「分かった。ありがとうな」
「ふふーん」
アイリスは嬉しそうな顔をしつつ、何かを期待するような目つきでこちらを見上げていた。
まるで犬が尻尾をパタパタさせているような雰囲気だが、俺にどうしてほしいのだろう。
しばらく考え込んでいると、アイリスは俺の右手を掴み、自分自身の頭にポンと乗せた。
「……何をしているんだ?」
俺が首を傾げながら尋ねると、アイリスは「あー」「うー」と困ったような声を出したあと、照れくさそうに答えた。
「えっと、褒めてくれるのも嬉しいけど、その……」
「撫でればいいのか?」
「う、うん……」
それくらいお安い御用だ。
俺はアイリスの頭をポンポンと軽く撫でる。
「んっ……」
ぷるる、とアイリスはくすぐったそうに身を震わせる。
なんだか小動物みたいで可愛らしい。
――俺はほっこりした気分になっていると、突如として脳内に声が響いた。
『【災厄感知】の効果により、災厄の出現を感知しました。【オートマッピング】に反映します』
おいおい、いきなりの急展開だな。
俺は驚きつつ【オートマッピング】を発動させる。
脳内にパッと周辺の地図が広がった。
災厄はどこだ?
うまく見つけられなかったので、地図を広域に切り替える。
……いた。
災厄の居場所は青い光点で示されていた。
ここからずっと西に向かった先……陸地から遠く離れた海のど真ん中だ。
西側の海にはまだ行ったことがないので【空間跳躍】の範囲外となっている。
移動手段としては、黒竜か暴食竜に乗せてもらう形になるか。
放置すれば被害は広がる一方だろうし、早く片付けたほうがいいだろう。