第22話 地下都市に乗り込んでみた。
皆様、お待たせしました。更新です。徐々にペースを上げていきます。
俺はアンデッドの軍勢を召喚すると、デビルパスの群れを一掃し、サイドス洞窟の探索へと乗り出した。
普通ならばシャルと2人で少しずつ洞窟の攻略を進めていくところなのだろうが、できれば時間はかけたくない。
ここで役に立ったのが1000匹を越えるアンデッドの群れだった。
俺はアンデッドたちに対し、手分けしての洞窟探索を命じる。
要するに人海戦術だ。
そのおかげで、最下層までの最短ルートはすぐに判明した。
洞窟の最下層は開けた空間になっており、奥には秘密の通路が隠されていた。
シャルの話によれば、通路は地下都市に繋がっているという。
地下都市には、たぶん、今回の黒幕が待ち受けているはずだ。
傭兵ギルドを裏から操ったり、デビルパスを暴れさせたり……悪人なのは間違いない。
遠慮なく叩きのめすとしよう。
* *
通路は幅2メートル、高さ3メートルほどの大きさだった。
少人数が通るには問題のない広さだが、大勢でゾロゾロと進もうとすれば間違いなく渋滞が起こる。
俺は少し考えてから、最下層に集まったアンデッドの軍勢にこう告げた。
「全員、ご苦労だった。しばらく休んでくれ」
ネクロダークを解除する。
アンデッドたちは俺に向かって一礼すると、サアッと闇色の粒子となって散らばり、まるで霧か幻のように消え去った。
残ったのは俺とシャルの二人だけだ。
「俺が先に行く。シャルは後ろから来てくれ」
「承知いたしました。コウ様、どうかお気をつけて」
「分かってるさ。油断はしない」
俺たちは通路に足を踏み入れる。
通路はゆるやかな下り坂のトンネルとなっていた。
周囲の気配を探りつつ、先へと進んでいく。
五分ほど歩くと、遠くにトンネルの出口が見えてきた。
俺はいったん立ち止まる。
というのも、悪い可能性が頭をよぎったからだ。
「コウ様、どうしたのですか?」
シャルが不思議そうに問い掛けてくる。
「トンネルを出たところで敵が待ち伏せしているかもしれない。俺が黒幕側なら、確実にそうする。……アンデッドを偵察に出すか」
俺はネクロダークを発動させる。
さて、何を召喚しようか。
数秒ほど考えてから、俺は言葉を発する。
「来い、極滅の黒竜」
「――がう」
俺の足元に深淵の闇が広がり、そこから全長2メートルほどの黒竜がポンと飛び出してくる。
今回はあえてミニサイズで召喚した。
本来の大きさで呼び出したら、トンネルがぎゅうぎゅう詰めになるからな。
「がう?」
何か用事? と言いたげに黒竜が首を傾げる。
なんだか少し可愛らしいな。
ミニサイズになるだけで、こんなに印象が変わるとは思っていなかった。
「先に行って、敵がいないか偵察してくれ」
「がう! がう!」
黒竜はコクコクと頷くと、パタパタと羽搏きながらトンネルの出口へと向かっていく。
ふとシャルのほうを見れば、彼女は驚きの表情を浮かべていた。
「コウ様、さっき、極滅の黒竜とおっしゃいましたよね……?」
「ああ」
俺は頷く。
「黒竜を倒したとき、魂を回収していたからな。ネクロダークでいつでも呼び出せる」
「つまりコウ様は【災厄殺し】であると同時に、災厄使いでもあるのですね……! 素敵です……!」
災厄殺しで災厄使い。
なんだか中二病っぽいネーミングだ。
そのうち本当に【災厄使い】なんてスキルが備わったりは……しないだろう。たぶん。
俺とシャルが会話をしているあいだに、黒竜はトンネルの出口に到着していた。
「がうー!」
翼を大きく動かし、勢いよくトンネルの外へ出ていく。
その時だった。
赤色の閃光が、四方八方から黒竜に襲い掛かった。
……どうやら俺の予想通り、敵はトンネルを出たところに伏兵を置いていたようだ。
「がうー!?」
黒竜は驚いたような声を上げると、すぐにトンネルの中へと引き返し、そのまま俺のところにやってくる。
敵の攻撃を受けたにも関わらず、その身体には傷ひとつついていなかった。
ミニサイズになっても災厄は災厄、味方にすると頼もしい存在だ。
「がう、がう!」
なるほど、分からん。
涙目で何かを訴える黒竜の頭を撫でつつ、俺はネクロダークを解除する。
黒竜の身体がサッと闇色の粒子へと還元され、その魂はアイテムボックスに回収された。
同時に、黒竜が見聞きしたものが俺の脳内に流れ込んでくる。
「……そういうことか」
俺がひとり頷くと、隣にいたシャルが問いかけてくる。
「コウ様、いったい何があったのですか?」
「敵の伏兵だ」
トンネルを出てすぐの地点を挟み込むように、左右それぞれ4体ずつ、合計8体のオリハルコンゴーレムが待ち伏せているらしい。
黒竜を襲った赤色の閃光は、オリハルコンゴーレムの魔導レーザーだろう。
ただ、黒竜の鱗には《魔力反射S+》が備わっている。
そのおかげでノーダメージだった、というわけだ。
「さて、どうするかな」
アンデッドの軍勢を突撃させ、物量作戦で強引に突破することも可能だが、ここはもう少しスマートに行こう。
俺はアイテムボックスを開いた。
装備を、ディアボロス・アーマーからフェンリルスーツに変更する。
「シャルはここで待っててくれ。オリハルコンゴーレムを片付けてくる」
「えっ……!? コ、コウ様、お待ちください! 危険すぎます!」
「大丈夫だ、問題ない」
俺は走りながら、アイテムボックスからヒキノの木剣を取り出す。
この武器を使うのは久しぶりだ。
黒竜を倒して以来、初めてじゃないだろうか。
トンネルを出た。
左に四体、右に四体のオリハルコンゴーレムが待ち受けている。
それぞれの瞳が赤色に輝き、魔導レーザーの照準を俺に合わせる。
「行くぞ」
俺はフェンリルスーツの付与効果……《神速の加護S》を発動させた。
思考が研ぎ澄まされて加速し、時間が無限大に引き延ばされる。
スローモーションの世界のなかで、自分の身体だけが普段どおりに動いた。
オリハルコンゴーレムたちが魔導レーザーを放つ。
だが、集中砲火が殺到する地点に、もはや俺の姿はない。
「はああああっ!」
俺が最初に狙いをつけたのは、左側にいる4体のオリハルコンゴーレムだ。
そのうちの1体に肉薄し、一刀のもとに切り伏せる。
左右真っ二つだ。
なめらかな切断面からスパークが散る。
残りは7体、まだまだ気を抜けない。
俺はそのままの勢いで2体目に襲い掛かる。
地面を蹴って跳躍し、擦れ違いざまに首を刎ねた。
着地のタイミングで木剣を振り下ろす。
3体目のオリハルコンゴーレムは右手と右足を切り離され、大きくバランスを崩す。
倒れこんできたところに刺突を繰り出し、その頭部を貫いた。
俺は木剣を手放し、ヒキノの木槌を取り出す。
以前に【付与効果除去】で《手加減S+》を取り除いたものだ。
残り5体のオリハルコンゴーレムたちが魔導レーザーを放ったので、それを紙一重で回避しつつ、4体目に接近する。
「りゃあああああっ!」
速度を乗せたフルスイング。
バゴン! という轟音とともに、オリハルコンゴーレムの胴体がバラバラに砕け散った。
……我ながら恐ろしい威力だ。
これで左側のオリハルコンゴーレムは全滅させた。
次は右側だ。
ところで――
以前、黒竜の素材を使って【創造】した防具を覚えているだろうか?
黒竜の盾。
それは付与効果の《偽装S》によって黒い腕輪となり、俺の右腕に嵌っている。
右側のオリハルコンゴーレム4体が、魔導レーザーを一斉に放った。
「……たまには盾を使うか」
俺は《偽装S》を解除する。
黒竜の盾が本来の形状へと戻る。
それを使ってレーザーを受け止めた。
黒竜の盾には、鱗と同じく《魔力反射S+》が付与されている。
魔導レーザーは盾に当たるとそのまま反転し、オリハルコンゴーレムたちに襲い掛かった。
爆発。
オリハルコンゴーレムの装甲はとても頑丈らしいが、自分自身のレーザーには耐えられないらしい。
4体とも魔導レーザーの直撃によって半壊状態となっていた。
もはや勝敗は決した。
俺はアイテムボックスから新たな木剣を取り出すと、続けざまに4体のオリハルコンゴーレムを切り捨てた。
ふう。
楽勝だったな。
俺が一息ついていると、頭の内側に声が聞こえた。
『地下都市の管理システムに対して【マスターコード】を使用しますか?』
黒幕は地下都市の施設を使い、デビルパスの大群を生み出した。
第二波、第三波が来たら厄介だし、ここはマスター権を奪い取っておくべきだろう。
俺は【マスターコード】を発動させた。
『これより地下都市のマスター権を強制的に奪取します。
……処理終了。この都市のマスターは、コウ・コウサカとなりました』
相変わらず早いな。
発動から1秒もたたないうちに、俺はこの地下都市のマスターとなった。
続いて【遺跡掌握】を発動させる。
脳内に地下都市の情報が流れ込んでくる。
なるほどな。
黒幕がどこにいるかも分かったし、あとは捕まえるだけだ。
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