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第21話 タコの怪物を一掃して、そのまま洞窟を攻略してみた。

 俺は闇魔法のネクロダークを使い、アンデッドを次々に召喚した。

 

 禍々しい鎧を纏った首無しの騎士、デュラハンロード。

 闇を統べる不死の大魔導士、エルダーリッチ。

 他にもスケルトンやワイバーンゾンビなどなど、亡者の軍勢はなかなかバリエーション豊かな顔ぶれだ。


 今回はシャルを同行させているが、アンデッドたちを眼にして驚きの声をあげた。


「デュラハンロードにエルダーリッチ、ワイバーンゾンビ……。危険度Sランクのアンデッドを何百体も従えるなんて、コウ様はいったい何者なのですか? こんな大魔導士、古代文明どころか、神話の時代に遡っても存在しないと思います……」


 さすがにそれは持ち上げすぎだろう。

 俺はただ、現状でいちばん適切な手段を取っているだけだ。


 アンデッドの数が1000匹を越えたあたりで、脳内に声が聞こえた。


『【鑑定】スキル内サブスキルの取得条件を満たしました。【軍勢指揮】が解放されます』


 さっきの【魔法進化】に引き続き、新スキルが追加されたらしい。 

 それにしても【鑑定】のサブスキルは珍しいな。

 どんな効果だろうか?


 ……なるほどな。


 どうやら【軍勢指揮】は、味方の能力をすべて把握し、戦況に応じた指示を出すためのスキルらしい。

 発動させると、アンデッドたちの情報がドッと頭に流れ込んでくる。

 それでも混乱せずにいられたのは【異世界人】の精神耐性のおかげだろう。


 よし。

 アンデッドの数も1000匹を越えたことだし、そろそろ動くとしよう。

 大きなタコ型の怪物……デビルパスの群れも、ここから500mのところまで近づいてきた。

 

 俺は命令を下す。


「これよりサイドス洞窟を包囲して、デビルパスの殲滅を行う。……デュラハンロードは前に出て、敵の攻撃を引き付けろ。エルダーリッチは後方から魔法攻撃、ワイバーンゾンビは上空からの監視を行いつつ、包囲を抜けたデビルパスを各個撃破だ」


 他にもさまざまなアンデッドたちがいるので、種族に応じ、適切な役割を与えていく。

 我ながら驚くほどきっちり指揮官の仕事をこなしていた。

 そうして指示を終えると、俺は最後に【勇者】を発動させて叫んだ。


「俺が先に行く! 全軍、後に続け!」


 本当なら後方でのんびり見物するつもりだったが、【軍勢指揮】によると、今回は【勇者】を活用するのが最も効率的らしい。

 俺はアイテムボックスから『月光の大剣アルテミス』を取り出し、草原を駆け抜けた。

 

「はああああああっ!」


 魔力を込め、大剣を左から右へと振り抜く。

 デビルパスとの距離は100mほどあるので、斬撃そのものは当たらない。


 だが、アルテミスは月の祝福を受けており、その力は常に完全開放されている。

 神々しく輝く大剣から、まばゆい光が放たれた。


 光の刃が、周囲の草むらや木々を巻き込み、デビルパスたちを切り裂く。

 

 先制攻撃は大成功といっていいだろう。

 デビルパスの群れは出鼻を挫かれ、その動きを鈍らせた。


「いまだ! 全軍、掛かれ!」


 どうやら【勇者】は人間以外にも有効らしい。

 アンデッドたちは激しい雄叫びをあげると、デビルパスの群れに襲い掛かっていく。


「コウ様!」


 少し遅れて、シャルが後ろを追いかけてきた。


「急に行ってしまうから驚きました。……でも、さっきのコウ様は格好よかったです。惚れ惚れしました」


 シャルはどこかうっとりとした表情を浮かべると、はぁ、と熱っぽいため息を吐いた。


「ところでコウ様は、以前、どこかの国で将軍をなさっていたのですか? そうとしか思えないくらい堂々とした指揮官ぶりでしたが……」

「いいや、今回が初めてだよ」

「初めてなのに上手なのですね……! さすがコウ様……!」


 シャルはキラキラとした尊敬の視線を向けてくる。

 さすがにちょっと照れくさい。


「スキルのおかげだよ。俺自身はどこにでもいる普通の人間だ」


 俺は短くそう答えつつ、前線に目を向けた。

 アンデッドたちは優秀で、デビルパスの群れを完全に抑え込んでいた。

  

 デビルパスは高度な自己再生能力を持ち、全身をバラバラにされても数秒で再生する。

 だが再生回数には限界があるらしく、時間はかかるが、一匹、また一匹と数を減らしていた。


 一方、アンデッドは自己再生こそしないが、決して滅びることはない。

 肉体を失っても、俺がネクロダークを発動させている限り、すぐに新しい肉体を得て復活する。

 ゲームにたとえるなら、残機無限とか無限コンティニューみたいな状態だ。

  

 いまも俺の足元には深淵の闇が広がり、一匹、また一匹とアンデッドが増えていく。

 包囲網はだんだんと小さくなり、やがて、デビルパスはすべて駆逐された。


「これで一段落、かな」


 俺は念のために【エネミーレーダー】と【エネミーレーダー・収束】を発動させるが、周囲に敵の反応はない。

 よし。

 地下都市に乗り込むとしよう。


 俺はシャルを連れ、サイドス洞窟の入口に向かう。


「この洞窟の奥が、古代の地下都市に繋がっているんだよな?」

「はい、最下層に隠し通路があります。ただ、洞窟のなかは迷路みたいになっていますし、当時の防衛システムが生きているなら、定期的に洞窟の構造が変化しているはずです。最下層に辿り着くまで、ちょっと時間がかかるかもしれません」

「それ、ものすごく不便じゃないか?」

「地下都市の関係者には空間転移の魔道具が配布されていたんです。私は《時間凍結の封印》の対象に選ばれたとき、返却になりましたが……」

 

 なるほどな。

 関係者は魔道具を使って出入りするから、洞窟は迷路でも構わない、ということか。


 ともあれ、ここからはファンタジーの定番、洞窟探索だ。

 本来ならシャルと2人で、一歩一歩、確実に攻略を進めていくべきなのだろう。


 だが、ノンビリしていたらデビルパスの増援が来るかもしれないし、もっと大きなトラブルが起こる可能性もある。

 時間はできるだけ短縮すべきだろう。


 俺はアンデッドたちに命じる。


「デュラハンロードとエルダーリッチでパーティを組んで、洞窟内を探索してくれ。他の者は周辺を警戒、異常があればすぐに連絡だ。いいな?」

「「「「「グオオオオオオオッ!」」」」」


 了解、とばかりに呻き声をあげるアンデッドたち。

 俺の指示どおり、デュラハンロードやエルダーリッチたちは4人組や5人組を作り、洞窟へと入っていく。

 

 なお、うまくパーティに入れない個体もわずかに存在していたが、こいつらはもしかすると生前、コミュ障だったのかもしれない。

 最終的にはぐれ者同士でパーティを組ませ、洞窟へと送り出した。


 そのあと、俺とシャルも洞窟に足を踏み入れる。

 アンデッドたちが先に探索してくれたので、すんなりと最下層に辿り着いた。

 所要時間はおよそ十五分ほどだった。


「短い旅だったな」

「コウ様、わたし、びっくりです……。普通なら最下層に辿り着くまで半日は必要なんですけど……」

「アンデッドたちに感謝だな」


 今後、ダンジョンに挑むときはアンデッドによる物量作戦を使うとしよう。

 俺は異世界にスリルを求めてるわけじゃないし、欲しいのは確実な成果だ。

 そういう意味じゃ、今回はうまくいったほうだろう。


 洞窟の最下層は開けた空間になっていた。

 そこには秘密の通路が隠されており、シャルに探してもらうことになっていた……はずだったが、すでに通路は発見されていた。


 発見者は、最後に出発したはぐれアンデッドのパーティだ。

 デュラハンロード1体とエルダーリッチ3体、揃いも揃って、ちょっと誇らしげに胸を張っている。


「よくやってくれた。これからもよろしく頼む」


 俺が声を掛けると、4体とも、感極まったように身体を震わせた。

 動きからすると、涙ぐんでいるらしい。

 アンデッドなのに、やけに感情豊かだよな。


 そんな風に考えていると、横でシャルが呟いた。


「コウ様のアンデッドは特別なのですね……」

「そうなのか?」

「普通、アンデッドはここまではっきりとした感情を持ちません。基本的にはただの操り人形です」


 だったら、どうしてアンデッドたちは妙に生き生きとしているのだろう?

 

「コウ様の実力が高すぎるせいで、ありえない事象が起こっているのかもしれません。本当に、どこまでも規格外すぎます……」


 規格外、か。

 最初に手に入れた力が【勇者】【魔王】【賢者】のいずれでもなく【創造】だったことを考えれば、確かに規格外なのだろう。

 だが、それは偶然みたいなものだし、俺自身が何か特別なことを成し遂げたわけじゃない。

 安っぽい特別感に酔ったり、調子に乗るようなマネだけは避けないとな。


 英雄になるつもりはないが、マトモな大人でありたいと思う。


 ……アンデッドの軍勢を率いるのがマトモな大人のやることかと言われると怪しいが、そこはスルーしてほしい。


 大人はズルいのだ。


 それはさておき、地下都市まであと少しだ。 

 そろそろ黒幕との対面だろうか?

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