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第19話 地下都市へ向かうことにした。魔物の大群が現れたらしい。

【おしらせ】

 前回のラスト、シャルのセリフの「海底都市」を「地下都市」に変更していますが、このまま読み進めていただいて大丈夫です!

 

 傭兵ギルドの幹部たちは南東へ逃げていたが、それはなぜだろう?

 俺が疑問を口にすると、シャルがこんなことを教えてくれた。


「5000年前、南東の海辺には地下都市がありました。……幹部たちはそこに向かっていたのかもしれません」


 地下都市ということは、オーネンの古代遺跡のような場所だろうか?

 幹部たちは「携帯型魔導端末」という古代文明のアイテムを使っていたが、その地下都市から持ち出した可能性もある。


 これは一度、地下都市を調べておいたほうがよさそうだな。

 もしかすると事件の背後関係について何か分かるかもしれない。


 

 とはいえ、時計を見ればもう午後七時を回っている。

 すっかり夜になってしまったし、古代都市の調査はまた明日にしよう。












 ……と言いたいところだが、前言撤回だ。

 今日のうちに地下都市に行こう。

 面倒かもしれないが、絶対に行ったほうがいい。


 俺はブラック企業でたくさんの炎上案件に関わってきたが、ひとつ、教訓として胸に刻んでいることがある。

 それは「最後のツメまできっちり仕上げる」ということだ。


 最後のツメを面倒くさがると、ほぼ間違いなく、後で大きなトラブルに発展する。

 せっかく鎮火した炎上案件が再炎上、なんてことも珍しくない。


 今回の事件、なんだか嫌な予感がするんだよな。

 ブラック企業での、地獄のような日々のなかで鍛え抜かれた嗅覚がものすごい勢いでアラートを鳴らしているのだ。

 油断するな、まだ事件は終わっていないぞ……と。


 そして俺の「嫌な予感」というのは、自分でも嫌になるくらい当たる。


 そのあたりを考えると、古代都市の調査はきっちり今日中にやっておくべきだろう。


 もしかしたら傭兵ギルドを裏から動かす黒幕がいて、そいつが地下都市に隠れているかもしれないしな。


 

 * *



 海辺の地下都市を調べる。

 俺がそう告げると、シャルは一瞬だけ戸惑ったような表情を浮かべた。


「ええと、今からでしょうか?」

「ああ。こういうのは早いほうがいい」

「……分かりました。ふふ、コウ様はせっかちな方なのですね。若々しくて羨ましいです」


 そう言って微笑むシャルからは、いかにも「年上のお姉さん」といった感じの余裕が漂っている。


「……たしかにコウはせっかちよね」

「分かり、ます。わたしも、そう、思います」


 アイリスとリリィが、揃って深く頷いた。

 その仕草は姉妹のようにそっくりで、なんだかちょっと面白い。


「でも、コウが急に行動を起こす時って、ほぼ間違いなくトラブルの先回りになってるわよね」

「コウさん、予知系のスキルでも、持っているんですか?」

「いや、持ってないぞ」


 リリィの問いかけに対し、俺は首を横に振った。


「経験上、トラブルの気配には敏感なんだ」

「……コウ、あなたって、いままで一体どんな修羅場を潜ってきたの?」

「さあな」


 ここでブラック企業の闇について延々と語ってもいいが、俺の気分が落ち込みそうなのでやめておく。

 昔は昔、今は今、だ。

 切り替えていこう。

 

「とりあえず、夕食を手早く済ませたら出発だ。三人とも、それでいいか?」

「もちろんです。コウ様の命とあらば、いつでも、どこでも、お供いたします」

「あたしも大丈夫よ。食事はどうしましょうか」

「宿の、向かいに、パン屋さんが、あったはず、です」


 俺は窓の外へと目を向ける。

 すでに日は沈んでしまったが、宿の向かいのパン屋はまだ営業しているようだ。

 よし、行ってみるか。


 パン屋はかなりの老舗で、王都に店を構えて八十年目らしい。

 イチオシの商品は、創業以来ずっと変わらぬ味のビーフカツサンド。

 甘辛い特製ソースが染み込んだ肉厚のビーフカツは、歯ごたえがたっぷりで、噛むたびに味わいが舌に広がる。

 あまりの美味さに手が止まらず、あっというまに二人前を食べ終わってしまった。


 ……余分に買っておいてよかった。


 ちなみにシャルはクリームパンを5つも6つも抱えており、幸せそうな表情でかぶりついていた。

 どうやらかなりの甘党らしい。


 アイリスとリリィはいろんな種類のパンを買って、2人で半分こしている。

 本当に仲良しだな。


 そうして30分ほどで食事を済ませたあと、シャルはテーブルに地図を広げ、地下都市の場所について説明してくれた。


「地下都市そのものは南東の海辺ですが、出入口はもう少し内陸側にあります」


 そう言って指差したのは『サイドス洞窟』と呼ばれる場所だった。

 位置としては、ファイフの宿場町(傭兵ギルドの幹部を捕まえた場所)からしばらく東に進んだ先、そこに広がる森の中になる。


「ねえシャル、ちょっと待って」


 疑問の声をあげたのは、アイリスだった。


「サイドス洞窟ならソロで探索したことがあるけど、低ランクの魔物がうろうろしているだけで、地下都市なんてどこにもなかったわ」

「アイリスちゃん、実はあの洞窟って隠し通路があるんです」

「そうなの!?」

「はい。特殊な方法で隠されているから、普通は分からないと思いますよ」

「シャルは分かるの?」

「もちろんです。わたしにまかせてください」

 

 シャルはちょっと頼もしげに胸を張る。

 ともあれ、地下都市への入口も分かったので出発しよう。


 俺は【空間跳躍】を発動させた。

 周囲の風景が歪み、ファイフの宿場町へとワープする。

【空間跳躍】は行ったことのある場所しか指定できないので、ここから徒歩でサイドス洞窟に向かえばいいだろう。


 俺はアイリス、リリィ、シャルの三人を連れて、街の表通りを歩く。

 

 時刻は午後8時を回ったところで、魔導灯の光が街を明るく照らしていた。

 表通りに面した酒場はどこも満員になっており、ときどき、陽気な笑い声がワハハハハハッと響いてくる。

 地下都市の探索が終わったら、パーッと飲みに行くのもアリかもな。


 そんなことを考えているうちに、俺たちは街の城門に辿り着く。

 城門のところには、数人の衛兵と衛兵長の姿があった。

 やけに深刻そうな表情で話し合いをしているが、何があったのだろう。


 俺が首を傾げていると、衛兵長がこちらに気付き、大慌てで駆け寄ってきた。


「おお! 《竜殺し》殿ではないですか! もしや、さっそく応援に来てくださったのですか!?」

「応援?」


 いったい何のことだろう。

 詳しく話を聞いてみると、つい30分ほど前に「東のサイドス洞窟から魔物が溢れている」という複数の通報があったらしい。

 現在、数名の衛兵らが確認に向かっているものの、もし魔物の大発生が起こっているなら一大事なので、王都にも通信系の魔道具を使って連絡を入れたという。


「王都からはすぐに応援を送る、という返事がありました。それで《竜殺し》殿がいらっしゃったのかと……」

「いや、たぶん応援は別に来るはずだ。俺は個人的な用事でここにいるだけだよ」


 まあ、ちょうどサイドス洞窟に行くつもりだったんだけどな。

 このタイミングで魔物の大発生が起こるなんて、偶然とは思えない。

 やっぱり、今回の事件はまだ終わっていないんだろうな。


 ……俺がそんなことを考えている横では、アイリスとシャルが小声で何かを囁き合っていた。


「シャル、あたしの言った通りでしょ? コウが急に行動を起こす時って、ほぼ間違いなく何かがあるのよ」

「そうですね……。正直、びっくりしています」


 シャルは感嘆のため息を漏らすと、そのまま言葉を続けた。


「コウ様みたいな人が5000年前にいれば、私たちの文明は滅びずに済んだのかもしれませんね……」


 いや、さすがにそれは過大評価だろう。

 俺はいろいろと規格外のスキルを持っているが、それを除けば、ただの人間に過ぎない。

 世界を救うとか守るとか、そんな壮大な使命を背負わされたって、果たせるとは思えないぞ。


 俺に出来るのは、目の前のトラブルに対して、できるだけ早期に手を打つことだけだ。

 

 

 * *



 ほどなくして、サイドス洞窟に向かっていた衛兵たちが戻ってくる。

 衛兵たちは大慌てで、全身に滝のような汗をかいていた。


「た、大変です! た、蛸です! 蛸のようなバケモノが洞窟から溢れて、この街に向かっています!」


 その言葉を聞いて、シャルが息を呑んだ。


「……まさか」

「どうしたんだ?」


 俺が問いかけると、シャルは青白い顔でこう答えた。


「5000年前の話ですけれど、サイドス洞窟の奥……地下都市では、魔導生物の研究が行われていました。人工的に魔物を生み出して、災厄と戦わせる計画だったんです」

「じゃあ、蛸のようなバケモノってのは――」

「古代文明の魔導生物です。……おそらく、誰かが地下都市の施設を再稼働させたのでしょう」


 つまりこの状況は、人為的に引き起こされた、ということか。

 犯人が誰だか知らないが、傭兵ギルドの事件に関係しているかもしれないし、さっさと地下都市に乗り込むべきだろうな。

いつもお読みくださりありがとうございます。「面白かった」「続きが気になる」「更新頑張れ!」と思っていただけましたら、ブクマ・評価いただけると励みになります。よろしくお願いいたします。!

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