表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/95

第18話 異世界転移の真相を推測してみた。

「コウ様、傭兵ギルドの幹部が私を攫おうとしたのは、きっと、私が古代文明の生き残りだからです。

 だから、やっぱり、今日の出会いは運命だったと思います。

 ――5000年間、貴方を待ち続けていました、勇者様」


 シャルがそう告げたのと同時に【勇者】スキルが開放されたわけだが、さて、ここでちょっと昔を振り返ろう。

 俺が異世界に転移する直前のことを、覚えているだろうか?


『あなたはこれより異世界に召喚されます。

 以下の選択肢から、希望する役割を選んでください。


  1.勇者:大いなる宿命を背負った英雄

  2.賢者:常識外れの魔力ですべてを圧倒する者

  3.魔王:己が欲望のまますべてを塗り潰す暗黒の化身』


 当時、いきなり3つの選択肢を突き付けられた。

 俺はそのすべてを断ったわけだが、スリエの街では【賢者】を、そして今回は【勇者】を手に入れた。


 ……そのうち【魔王】も転がり込んできそうだな。


 勇者で賢者で魔王。

 ちょっと属性を盛りすぎじゃないか?


 ともあれ、せっかく新しいスキルが開放されたわけだし、効果をチェックしておこう。


 …………。


 なるほどな。

 だいたいわかった。


【勇者】とは、すごく簡単に言えば、一時的に大きなカリスマを得るスキルだ。

 発動中の言動に応じ、周囲の者たちに勇気を与えたり、熱狂させたり、あるいは心酔や崇拝などの感情を抱かせる。

 相手がもともと俺に対して敬意や尊敬を抱いている場合、その効果はさらに倍増するようだ。


【勇者】を悪用すれば、新興宗教でボロ儲けすることも、国を乗っ取ることも可能だろう。

 ヴィクトル王は【威風】 (堂々とした振る舞いで周囲に敬意を抱かせる)を持っていたが、【勇者】はその上位互換にあたるらしく、双方がぶつかった場合、【勇者】が優先されるらしい。

 

 ……まあ、面倒だから実行しないけどな。


 俺はいまの生活が気に入っているんだ。



 * *


 

 スキルの確認をサッと済ませると、俺はアイリスに声を掛けた。


「アイリスは昔、シャルと同じパーティだったんだよな。……古代文明の生き残りって話、知ってたのか?」

「ううん、初耳よ」


 アイリスは戸惑いの表情を浮かべていた。


「正直、かなりビックリしてるわ……。年上なのは分かってたけど、まさか千年単位だなんて……」

「ごめんなさい、アイリスちゃん。当時の長老様から、勇者様に出会うまで自分のことをあまり話すな、って言われてまして……」


 まあ、当然といえば当然だな。

 自分が古代文明の生き残りなんて公言したところで、頭のおかしい人として悪目立ちするだけだ。

 妙なトラブルに巻き込まれる可能性だってある。

 だったら、必要な時まで隠しておくのは賢い選択だろう。


「あっ、でも私、古代文明が滅びてから最近まではずっと眠っていたんです。起きたら5000年後ですごく驚きました。……その期間を除けば、コウ様よりちょっぴり年上くらいと思います。たぶん」

「そうなのか? ……アイリスと同い年くらいに見えるけどな」

「まぁ!」


 シャルは花のように可憐な微笑みを浮かべる。


「ふふ、コウ様ったら上手ですね。お世辞と分かっていても、嬉しくなってしまいます」


 お世辞じゃなくて素直な感想なのだが、まあ、いい。

 それよりも気になることがある。

 

「5000年間も眠っていたのか?」

「はい。エルフは長命とはいえ、寿命は200年ほどですから。私の場合、当時の長老様に《時間凍結の封印》を掛けていただきました。心と身体、両方の時間を止める秘術です。……だから眠っていたというより、眼を閉じて開いたら5000年後だった、という感覚でしょうか」

「驚かなかったのか?」

「驚きました。それに、最初はすごく心細かったです。……気付いたら遠い未来で、知り合いなんて誰もいませんでしたから」

「……大変だったな」

「ありがとうございます。でも、もう大丈夫です。だって、コウ様に出会えましたから」


 そういえばシャルは、俺を待ち続けていた、みたいなことも言ってたっけ。

 あれはどういう意味なのだろう。


「コウ様、当時の長老様からの伝言をお聞きください。勇者としての使命に関わるものです」


 シャルがそう言ったときのことだ。

 応接室には俺とアイリスとシャル、そしてラニング団長がいる。

 ラニング団長はずっと沈黙を保っていたが、ここで遠慮がちに手を上げた。


「《竜殺し》殿、これは自分が聞いてもいい話なのでしょうか? 必要でしたら席を外しますが……」


 さて、どうしたものか。

 シャルの話は、もはや事件の事情聴取から大きくかけ離れている。

 そういう意味じゃ、ラニング団長には申し訳ないが、退席してもらうべきだろう。


 ……俺がそう考えた矢先、ちょうどタイミングよく、リリィと近衛騎士が戻ってきた。

 どうやら冒険者ギルドで依頼の手続きを終えたらしい。

 

 結論として、ラニング団長と近衛騎士たちは傭兵ギルドの幹部3人を連れ、城に戻ることになった。

 

「では《竜殺し》殿、失礼いたします。報酬は冒険者ギルドに預けてあるので、必ず受け取ってください。ご協力ありがとうございました!」

「「「「「ありがとうございました!」」」」」


 かくして部屋から騎士たちは去っていき、俺、アイリス、リリィ、そしてシャルが残される。

 リリィも古代文明の関係者だし、シャルの話を聞く資格はあるはずだ。


 俺はリリィにここまでの経緯を説明する。


「分かり、ました。……初めまして、シャルロッテさん。リリィ・ルーナリア、です」

「こちらこそよろしくお願いしますね、リリィさん。……あら? この雰囲気、なんだか覚えがあるような」

「わたし、メビウスの子孫、なんです。ご存知、ですか?」

「あの自称大賢者のメビウスさんですよね? はい、以前にお会いしたことがあります」


 どうやらメビウスは、同時代の相手からも「自称」扱いされていたらしい。

 

「でも、メビウスさんは独身で、そういうお相手もいなかったような……。お姉さんのほうは結婚されてましたし、そちらの血筋ではないでしょうか? リリィさんの雰囲気、お姉さんにそっくりですよ」

「そう、なんですか?」


 リリィはきょとんとした表情で訊き返す。

 もしかしてメビウスは、姉の子孫に対して「自分の直系の子孫」などと嘘を吹き込んでいたのだろうか。


「メビウスは、夢で、こう言ってました。自分には何人もの妻がいた。その血筋のひとつがおまえだ、って」

「ないです、ないです、ありえないです。メビウスさん、自分のお姉さんにものすごく執着してましたから……」


 ううむ。

 メビウスは悪い意味でのシスコンだったらしい。

 なんというか、後になればなるほどメビウスのダメっぷりが明らかになっていくな……。

 

「リリィさんはメビウスさんの直系じゃなく、そのお姉さんの血筋だと思いますよ」

「ありがとう、ござい、ます。……ちょっと、安心、しました」

 

 リリィの気持ちは分かる。

 改めて考えると、メビウスの子孫って、あんまり誇れるものじゃないしな。

 

 さて。

 リリィとシャルの挨拶も済んだし、本題に入るとしよう。

 勇者としての使命って、何だ?


「長老様はこう予言していました」


 シャルは語り始める。


「『世界には数多くの災厄が眠っておる。遠い未来、すべての災厄が集う時……《災厄祭》が訪れるじゃろう。それに先立ち、世界のどこかに【勇者】と【賢者】と【魔王】の3人が降り立つ。【勇者】よ、残る2人を打ち倒し、彼らの力を得るのじゃ。【勇者】【賢者】【魔王】の3つを揃えたとき、【災厄殺し】の力が目覚めるじゃろう』……と」

「……は?」


 思わず、間の抜けた声が出てしまう。

 勇者VS賢者VS魔王。

 なんだその異世界バトルロワイヤル。

 

「コウ様はすでに『極滅の黒竜』を討伐なさったそうですが、いずれ新たな災厄が現れます。【勇者】の力だけでは対抗しきれないでしょう。……私も及ばずながら助力します。どうか【災厄殺し】を手に入れてください」


 そんなことを言われてもな……。


「なあ、シャル」

「コウ様、何かお困りでしょうか? ずいぶん浮かない表情ですけれど……」

「実はもう【災厄殺し】を手に入れてるんだ」


 俺は【災厄殺し】を発動させる。

 銀色の粒子がサァッと凝縮し、神々しい弓となった。


「えっ……?」


 シャルは驚き、紫色の目を大きく見開いた。


「では、コウ様はすでに【賢者】と【魔王】をお持ちなのですか?」

「【賢者】は持っている。でも【魔王】はないな」

「3つが揃っていないのに【災厄殺し】があるなんて、長老様の予言と違い過ぎます……」


 これは俺の推測だが、たぶん、長老の予言とやらが「正規ルート」だったのだろう。

 本来ならば【勇者】【賢者】【魔王】の3人が異世界に転移するはずで、俺はその内の1人だった。

 けれど俺が隠し選択肢を選んだことで「正規ルート」とは異なる道筋……いわば「特殊ルート」が開放された。

 真相としては、そんなところか。

【勇者】も【賢者】もあっさり手に入っている点を考えるに、俺以外の転移者はいなさそうだな。

 

「コウ様は、いったい何者なのですか……?」

「俺にもよく分からない。ただ、やるべきことは分かった」


 面倒な使命やら運命やらはお断りだが、放っておけば《災厄祭》とやらで余計に面倒なことになる。

 だったら、早いうちから手を打って、効率的な早期解決を目指すべきだろう。

 俺としてはこの世界で暮らしていくつもりだしな。

 

 戦力の拡大はもちろんのこと、ヴィクトル王とも相談して、タダ働きにならないような体制を作っておきたい。

 少なくとも、災厄1体ごとに報酬いくら、みたいな相場は定める。

 ファンタジー系のゲームやマンガじゃ、世界の危機を救うのは無償労働として扱われがちだが、搾取されるのはブラック企業だけでたくさんだ。いざとなったら俺の全戦力を投入して、世界を相手に賃金交渉 (武力)を始めよう。

 

 ああ、そうだ。

 もうひとつ、やるべきことがある。

 傭兵ギルドの幹部たちは南東へと逃げていた。

 なぜ南東なんだ?

 適当に逃げていたのか、あるいは、南東に何らかの目的地があるのか。


 シャルに訊いてみると、こんな答えが返ってきた。


「5000年前、南東の海辺には地下都市がありました。……幹部たちは、そこに向かっていたのかもしれません」

 

(余談)コウが「特殊ルート」を選択したことで、本当なら異世界に転移するはずだった他の2人は現代日本に留まっています。今後のストーリーに関わる予定はありません。


いつもお読みくださりありがとうございます。「面白かった」「続きが気になる」「更新頑張れ」と思ってくださいましたら、ブクマ・評価などいただけると励みになります。よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ