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第17話 エルフの女性に話を聞いてみた。


 俺はアイリスとラニング団長を連れ、ファイフという宿場町に向かった。

 そして薄暗い路地裏で、傭兵ギルドの幹部3人を捕まえた。

 

 その際にエルフの女性がひとり巻き込まれてしまったが、どうやらアイリスの知り合いだったらしい。


「アイリス、さん……?」

「シャル? シャルよね、あなた」


 二人がどんな関係なのか訊いてみたいところだが……それは後回しにしておこう。

 というのも、ここでの騒ぎを聞きつけ、街の衛兵たちがやってきたからだ。

 


 * *



 衛兵たちは「誰かが路地裏でケンカしている」との通報を受けて駆け付けたらしい。

 そのせいで俺たちは逮捕されかけたものの、幸い、ラニング団長が事情を説明してくれた。


 結果、衛兵たちはものすごい勢いで謝罪を始めた。


「申し訳ありません! 本当に申し訳ありません!」

「まさか近衛騎士団の団長殿とは知らず、ご無礼を……!」

「し、し、しかも、かの有名な《竜殺し》殿までいらっしゃるとは……!」


 さらには、この街の衛兵長までもが大慌てでやってくる。


「こ、このたびは誠に申し訳ございませんでした……。傭兵ギルドの幹部を街に入れてしまったこと、そればかりか、《竜殺し》殿や団長殿にご迷惑をおかけしてしまったこと。すべてわたしの監督不行き届きです。心から謝罪させていただきます……」


 そういえば、この街にも城門があるはずだよな。

 傭兵ギルドの幹部はどうやって衛兵のチェックを潜り抜けたのだろう。

 身分証を偽造していたのかもしれないな。


 そのあたりの細かい経緯は、街の衛兵長が責任をもって調べてくれるようだ。

 おそらく、俺たちに迷惑をかけたことへの罪滅ぼしも兼ねているのだろう。

 街の警備体制の見直しを行うとも言っていた。

 

 ともあれ、傭兵ギルドの幹部は捕まえたので、王都に戻るとしよう。

 もちろん移動には【空間跳躍】を使う。 

 行き先は王都の宿屋……俺の部屋だ。


 部屋には誰もいなかった。

 リリィや近衛騎士たちは、いまごろ冒険者ギルドで依頼の手続きをしているのだろう。


 傭兵ギルドの幹部たちは、ひとまず、部屋のすみっこに転がしておく。

《雷撃麻痺S+》の効果で身動きはできないはずだ。

 近衛騎士たちが戻ってきたら、連れて行ってもらおう。


 俺たちは応接室のソファに座った。

 エルフの女性にも、一緒に来てもらっている。


 というのも、巻き込まれたときの状況について、詳しく事情を訊くためだ。


「まずは自己紹介からでしょうか……?」


 控えめな調子でエルフの女性が言う。


「私はシャルロッテ・ヒーリィ、シャル、とお呼びください。ちょっと長生きのエルフです。元々はAランクの冒険者でしたが、事情があって引退しています。一年前までアイリスちゃんとパーティを組んでいまして……《姫騎士の舞踏会》という名前に、聞き覚えはありませんか?」


 もちろんある。

 以前にアイリスが所属していたパーティで、Aランクの女性冒険者だけで構成されていたとか。


 ……ちなみにアイリスはというと、《姫騎士の舞踏会》というフレーズを聞いたとたんに頭を抱えていた。


「ううっ、どうしてあんな恥ずかしい名前にしちゃったのよ……。過去のあたしを消し飛ばしたい……」

 

 どうやら《姫騎士の舞踏会》の命名者はアイリスだったらしい。

 

「アイリスちゃん、落ち込まないでください。《姫騎士の舞踏会》って名前、わたしは素敵だと思います」

「い、言わないで……。いまのあたしに、その言葉は即死魔法よ……」


 がっくりとアイリスはうなだれる。

 このままだと延々と思い出話が続きそうなので、口を挟むことにする。


「シャル、少しいいか?」

「はい。何でしょうか、コウ様」

「さっきのことについて詳しく教えてほしいんだが……」

「承知しました。それはですね――」


 シャルは小さく頷くと、傭兵ギルドの幹部に出くわすまでの経緯を話してくれた。

 といっても、あまり特別な内容ではなかった。


 あのときシャルは今夜の宿を探して、街のあちこちを歩いていたそうだ。

 だが、途中で迷子になって裏路地に迷い込み……そこで傭兵ギルドの幹部3人に出くわしたという。


「幹部に出会ったのは、たまたま、ということですか?」


 ラニング団長が問いかけると、シャルロッテは頷いた。


「はい。いきなり腕を掴まれて、すごく驚きました。もしコウ様が来てくださらなかったら、今頃どうなっていたことか……」


 シャルは小さく俯くと、身体をぶるる、と震わせた。

 

「コウ様。本当にありがとうございました。この恩はかならずお返ししますね」

「当然のことをしただけだ。別にそこまで気にしなくていい」


 それよりも、と俺は続ける。


「『おまえを連れて行けば、今回の失敗を取り返すには十分すぎる!』……幹部の1人はそんなことを言っていた。小さなことでもいい、心当たりはないか?」

「ええと、ですね……」


 シャルはしばらく考え込むと、やがてこう問い掛けてきた。


「コウ様は、オーネンの古代遺跡を所有なさっていると聞きました。これは真実ですか?」

「ああ。その通りだ」

「ありがとうございます。もうひとつ教えてください。コウ様は《竜殺し》の異名をお持ちですが、もしや『極滅の黒竜』を討伐なさったのですか?」


 んん?

 どうしてシャルが『極滅の黒竜』の名前を知っているんだ?

 

 俺は疑問を覚えつつ、首を縦に振る。

 すると、シャルは紫色の瞳でこちらを見据えながら告げた。


「コウ様、傭兵ギルドの幹部が私を攫おうとしたのは、きっと、私が古代文明の生き残りだからです」


 ……はい?

 …………古代文明の生き残り?

 いきなり何を言ってるんだ。


「だから、やっぱり、今日の出会いは運命だったと思います。

 ――5000年間、貴方を待ち続けていました、【勇者】様」




 そのとき。

 頭の中に、声が聞こえた。


『特定条件を満たしました。【異世界人】内サブスキル【勇者】が解放されます』




いつもお読みくださりありがとうございます。

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