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第16話 幹部を捕まえてみた。ついでにエルフの女性を助けてみた。


【アイテムレーダー】のおかげで、傭兵ギルドの幹部たちの位置が分かった。

 幹部たちは「携帯型魔導端末」を持ったまま、王都の南東へと逃げているらしい。


【オートマッピング】で地図を確認すると、どうやらファイフという宿場町に入ったようだ。


 ファイフの街は、ちょうど王都と港町の中間地点にある。

 以前、俺が港町から王都へ向かったときも、ファイフの街を通過したっけ。


 幹部たちはこのまま港町を抜けて、船で逃亡を図るつもりかもしれない。

 

 もちろん、そんなことはさせないけどな。


 俺は傭兵ギルドの幹部らを捕まえるため、アイリスとラニング団長を連れて【空間跳躍】を発動させた。

 一瞬の浮遊感。

 あたりの景色がガラッと変わる。


 そこは薄暗い裏通りだった。

 幸い、周囲に人の姿はない。


「なっ……! こ、ここは……!? 《竜殺し》殿、これは一体……?」


 ラニング団長は驚きに目を丸くしながら、きょろきょろと周囲を見回している。

 どうやら初の【空間跳躍】に戸惑っているらしい。


「そうよね、ビックリするわよね。あたしも初めての時はそうだったわ……」


 アイリスが、どこか懐かしいものを見るような表情で呟いた。

 

「いまのはコウのスキルよ。行ったことのある場所なら、どこでも一瞬で移動できるの」

「なんと! 《竜殺し》殿は素晴らしいスキルをお持ちなのですね。羨ましい……!」

「本当にそうよね。冒険者として言わせてもらうなら、迷宮で迷子になっても平気だし、すごく羨ましいわ」


 アイリスはうんうん、と何度も頷いた。


「ところでコウ、ここはどこなの?」

「ファイフの宿場町だ。ほら、王都への行きに通っただろ?」

「そうだったかしら……? ごめんなさい、覚えてないわ」


 無理もないか。

 ファイフにはトイレ休憩に立ち寄っただけだし、そのときアイリスは高級馬車のソファに沈み込んで、くかーすぴーと気持ちよさそうに眠っていたような気がする。

 

 ともあれ、幹部を捕まえにいこう。

 

「団長さん、幹部たちの顔は分かるか?」

「もちろんです。何を隠そう私は【記憶術】スキルを持っています。一度見たものは二度と忘れません」


 なんだか騎士団の団長というより、捜査官っぽいスキルだな。

 ただ、近衛騎士団は国王直属の警察組織みたいな役割もあるようだし、【記憶術】が役に立つ機会は多そうだ。 


 俺は【アイテムレーダー】の反応に注意しながら、大通りへと移動した。

 夕方だけあって、周囲はとても混雑している。

 たくさんの人と馬車が、お互い、窮屈そうにすれちがっていた。

 道沿いには数多くの宿屋が立ち並び、店員たちが大声で呼び込みを行っている。


「すごい活気じゃない。前にあたしたちが来た時もこんな感じだったの?」

「いや、あのときは昼間だったからな。ここまで騒がしくはなかった」

「ファイフは宿場町ですからね。夕方から夜にかけてが、一番にぎやかな時間帯になります。……この人混みから幹部たちを探すのは、少し、苦労しそうですね」


 ラニング団長が心配そうに呟いた。

 幹部たちがそう簡単に古代文明の遺産 (携帯型魔導端末)を手放すとは思えないし、【アイテムレーダー】を発動させていれば、いずれ必ず居場所に辿り着くだろう。


 ……ん?


 どうやら幹部たちは足を止めたらしい。

 場所は、この先を何度か曲がって、裏通りをしばらく進んだあたりだ。


 いったい何があったのだろう。

 嫌な予感がして、俺は自然と早足になる。

 

 裏通りはひどく静かで、道はそれなりの広さだというのに、行き交う人はひどく少ない。

 地元の人間だけが使う脇道なのだろう。

 表の大通りとはまるで別世界だ。


 三番目の角を右に曲がったあたりで、前方から怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「いいから一緒に来い! おまえを連れて行けば、今回の失敗を取り返すには十分すぎる!」

「や、やめて! 離して!」


 おいおい。 

 なんだか物騒な気配がするぞ。

 

 怒鳴り声のほうを見れば、旅装束の中年男性が、若い女性の腕を掴んで連れ去ろうとしていた。

 誘拐にしては堂々としているというか、方法が乱暴すぎる。

 周囲には人の姿もあったが、誰もが突然のことに戸惑い、男性の凶行を眺めるばかりになっていた。


「おいベート! 転移の準備はいいか!?」


 旅装束の男性は、すぐ近くにいる小柄な男に声をかける。


「あ、あと30秒! 30秒だけ待ってくれ! クールタイムが終わっていない!」


 ベートと呼ばれた小柄な男は、その手に、スマートフォンのような銀色の装置を持っていた。

 俺はすぐさま【アイテムレーダー】を確認する。

 間違いない。

 あの銀色の装置は、携帯型魔導端末だ。


 ということは、あの男たちが傭兵ギルドの幹部なのだろうか。


 俺はラニング団長のほうを振り向いた。

 

「団長さん、あの男たちはもしかして……」

「間違いありません。我々が取り逃がした相手です。二人しかいないのが気になりますが……」

「分かった。とりあえず捕まえてくる」

 

 俺はすぐに《神速の加護S》を発動させた。

 一瞬にして、小柄な男……ベートに接近する。

 あと30秒とかクールタイムとか言っていたが、おそらく、転移機能を使うつもりなのだろう。

 もちろん、逃がすつもりはない。


「悪いが、それは奪わせてもらう」

「えっ……? うわっ!?」


 俺はベートの手から端末をひったくる。

 ひとまずアイテムボックスに押収し、続いて「稲妻の籠手」を選択、両腕に装着する。


「な、なんだっ、キサマ!」

「《竜殺し》だ。悪い子はもう寝る時間だぞ」


 俺は右腕を伸ばし、ベートの頭を掴んだ。

《雷撃麻痺S+》を発動させる。


「りゅ、《竜殺し》!? キサマが、あの――ぐがっ! がががががっ! ぎっ!」


 稲妻の籠手から電流が流れ、ベートが全身をビクンビクンと震わせる。

 まずはひとり。


 次は、旅装束の男だ。

 男は女性から手を離すと、パッと後ろに飛び退き、首元のペンダントを掲げた。


「まさか《竜殺し》が追いかけてくるなんてよ……! 念のため、こいつを持ってきてよかったぜ」


 パアアアアッ、とペンダントが激しく輝いたかと思うと、不思議なことが起こった。

 男の身体が黄色い光に包まれたかと思うと、だんだんと地面に沈み始めたのだ。


 俺はすぐに【鑑定】を発動させる。


『黄竜のペンダント:

 災厄“極震の黄竜”の鱗から作られたペンダント。その所持者は、地面の中を泳ぐことができる。

 効果時間は5分、太陽が昇ってから沈むまでに1回しか使えない』


 古代文明の次は、災厄がらみのアイテムか。

 一体、どこから手に入れたんだ?


 まあいい。

 とにかく捕まえて、あとで吐かせればいい。


 男の身体は、すでに首から下まで地面に埋まりつつあった。


「はははははっ! いくら《竜殺し》でも、地面までは手が出せねえだろう! あばよ!」


 そんな捨て台詞を残し、男は地中に姿を消す……よりも先に、俺は左手で地面に触れ、稲妻を放った。

 青白いスパークが地面を走り、男に直撃する。


「な、なんだと!? ぐあああああああああっ!」


 男はブルブルと震え、白目を剥いて気絶した。

 なお、首から下はすべて埋まったままだ。

 地面から生首が生えているようにも見えるので、ちょっとスプラッタだ。


 これで一件落着、かな。















 ……いいや、まだだ。

 



 これまでの激戦のおかげで俺も戦いのカンというものが身についていたらしい。

 殺気を感じて振り返ると、物陰から黒装束の男が飛び出してきた。


 もしや、こいつが三人目の幹部だろうか。

 

 男はナイフを構え、こちらへ一直線に向かってくる。

 

「死ね! 《竜殺し》!」


 俺は何もしない。

 避ける必要がなかったからだ。


 ナイフが目前に迫ったとき、真横から走り込んできたアイリスの飛び蹴りが、男の身体に炸裂した。

 勢いの乗ったキックは、男を遠くへと弾き飛ばしていた。


「コウ、大丈夫!?」

「ナイスフォローだ。助かったよ」

「あたしが何もしなくても、コウなら切り抜けられたんじゃない?」

「どうだろうな」


 俺は黒装束の男へと歩み寄ると、その首を掴んで《雷撃麻痺S+》を発動させた。

 今度こそ、一件落着だ。


 俺はラニング団長を呼ぶと、男の顔を確認してもらった。


「団長さん、こいつも傭兵ギルドの幹部か?」

「……そうですね。間違いありません」


 ラニング団長は深く頷いた。


「《竜殺し》殿、ありがとうございます。おかげで幹部を全員捕まえることができました。まさか、こんなに早く解決できるとは……! いかがでしょう、近衛騎士団に入りませんか? いまなら団長の座をお譲りしますよ」


 おいおい、そんな簡単に団長の座を明け渡していいのか?

 まあ、たぶん冗談だろう。

 ……冗談だよな?


 ともあれ、評価されているのは確かだし、そこは喜んでいいと思う。


 幹部たちのことはラニング団長に任せ、俺は、連れ去られそうになっていた女性のほうへと向かった。


 女性はその場に力なく座り込んでいた。

 無理もないよな。

 いきなり腕を掴まれて、誘拐されかかっていたんだから。


「大丈夫か?」

「は、はい。あれ、貴方は……?」


 女性は紫の瞳で、俺の顔をまじまじと眺めていた。

 いったいどうしたというのだろう。


 女性は金髪で、白い肌をしている。

 両耳はピンと尖っており、顔立ちはとても整っていた。

 種族としてはエルフになるのだろう。


 前にどこかで会ったような気がするが、気のせいだろうか。

 いいや、気のせいじゃない。

 思い出したぞ。


 あれはたしか、王都へ向かう船の中でのことだった。

 船が揺れたとき、転びかけた女性を咄嗟に受け止めたが……たぶん、この人に間違いない。


 女性も同じことに思い当たったらしく、ハッとした表情を浮かべた。


「以前、船でお会いしたことがありますよね?」

「ああ。……すごい偶然だな」

「そうですね、すごい偶然ですね。……まるで、運命みたい」


 女性は何事かを小声で呟いたが、よく聞こえなかった。


「立てるか?」


 俺は女性に手を差し伸べる。


「は、はい……」


 女性はおずおずと俺の手を掴むと、ゆっくりと立ち上がった。

 建物の隙間から夕陽が差して、女性の頬を赤く染めている。


 女性は立ち上がったあとも俺の手を握っていたが、ふと、俺の背後に視線を向け……驚いたような表情を浮かべた。


 俺の後ろには、ちょうど、アイリスが立っていた。

 アイリスもアイリスで、目を丸くしていた。


「アイリス、さん……?」

「シャル? シャルよね、あなた」


 二人は、お互いに名前を呼び合った。

 もしかして知り合いなのだろうか。


 たとえば、昔、同じ冒険者パーティだったとか?


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