第15話 団長から事情を聞いてみた。
【お知らせ】前回ラストをちょっと訂正して「近衛騎士団の団長とその部下たちがやってきた」としています。(細かい訂正ですので、前話を読み直す必要はありません)
俺は近衛騎士団の団長とその部下たちを部屋に招くと、事情を聞くことにした。
団長は大柄で声にハリのある中年男性で、名前はラニングというらしい。
幸い、宿の部屋はかなり広く、応接室まで用意されている。
他人に盗み聞きされる心配もないし、ゆっくり話をするには最適だろう。
ちなみに、アイリスとリリィも同席している。
これはラニング団長が「《竜殺し》殿のお仲間を邪険にするつもりはありませんので……」とやたら遠慮がちな態度を取ったためだ。
全員が応接室のソファに座ると、ラニング団長がここまでの経緯を話し始めた。
* *
ヨギルとドラムスの身柄を押さえたあと、近衛騎士団はすぐさま傭兵ギルド本部に対して強制捜査を行ったらしい。
これに対し、傭兵ギルド本部は抵抗を試みる。
王都の傭兵たちに呼びかけ、近衛騎士団への妨害を命じたのだ。
……だが、傭兵は誰ひとりとして集まらなかった。
まあ、当然と言えば当然だよな。
傭兵ギルドはどう考えてもおしまいだし、味方するメリットはどこにもない。
傭兵たちはさっさと傭兵ギルドに見切りをつけ、それどころか、次々と近衛騎士団に協力を申し出たという。
結果として、傭兵ギルドはあっけなく近衛騎士団に制圧された。
ギルドの幹部たちは王都から逃げ出そうとしていたが、傭兵たちの裏切りもあって、そのほとんどが逮捕された。
ただ、幹部のうち三名だけは捕まえることができなかった。
その理由について、ラニング団長は次のように説明した。
「三名の幹部は、古代文明の遺産らしきアイテムを使い、その場から逃走しました。……銀色の板のようなものを取り出したかと思うと、霧のように消えてしまったのです」
「古代文明の遺産だって?」
「はい。同じものが傭兵ギルド本部にひとつだけ残されていたので、こちらに持ってきています」
そう言うと、ラニング団長は部下に持たせていた小袋から四角い物体を取り出した。
大きさとしては、手のひらに収まるほどだ。
……ぶっちゃけたことを言うと、古代文明の遺産とやらはスマートフォンみたいな形状だった。
そういえば、冒険者ギルドのシステムに攻撃を行っていたのは、ノートパソコンっぽい装置だったな。
なんだか少しだけ日本が懐かしくなる。
それはさておき、ラニング団長はこう言った。
「この銀色の板がどんなアイテムなのか、我々では突き止めることができませんでした。《竜殺し》殿は古代文明に詳しいと伺っております。どうか知恵を貸していただけないでしょうか?」
いや、俺は古代文明に詳しくないぞ。
【遺跡掌握】と【マスターコード】のおかげで、古代遺跡を好き勝手に動かせるだけだ。
とはいえ、銀色の板がどんなアイテムなのかは、俺もちょっと気になる。
【鑑定】を使ってみようか。
『携帯型魔導端末(改造品)
古代文明の遺産のひとつ。
手のひらサイズの魔導コンピューターであり、特殊な改造が施されている。
2km以内の地図を閲覧でき、魔力を消費することにより、1kmの範囲内で空間転移が可能となる。転移は連続して使用できず、3時間のクールタイムが必要となる』
なるほど。
要するにこれは、俺のスキル……【オートマッピング】と【空間跳躍】の劣化版みたいなものだろう。
周囲の地図しか閲覧できず、ワープの距離が制限されている。
しかもワープを1回発動させると3時間のクールタイムが必要になるのは、ちょっと不便すぎないか?
……いや、俺のスキルがチートすぎるだけか。
ともあれ、謎がひとつ解けた。
幹部たちは魔導端末を使い、どこか遠くに逃げてしまったのだろう。
もはや追跡は不可能……というわけでもない。
以前の話になるが、暴食竜を倒した時、サブスキルがいくつか解放されたのを覚えているだろうか?
たとえば【パーソナルマーカー】、これは任意の人物の居場所をマップに表示するものだ。
最近だと、船の中で迷子になったアイリスを探すのに使っている。
これと似たようなサブスキルとして、【アイテムレーダー】というのも解放されていた。
手持ちのアイテムと同じものが周辺にあれば、その場所をマップに表示してくれる。
有効範囲は「現在地からレベル×200m」、いまの俺はレベル91だ。
91×200=18200
なんと、半径18.2kmもの範囲をカバーできる。
さっそく【アイテムレーダー】を発動させてみる。
探索対象に魔導端末を指定して……よし。
反応があった。
脳内の地図に、端末の位置が青い点で表示される。
青い点は、王都の南東あたりに表示されていた。
いまも王都から遠ざかるように移動を続けている。
幹部たちは端末を持ったまま逃走している、と考えていいだろう。
【空間跳躍】の範囲内なので、その気になればすぐに追いつけそうだ。
俺はラニング団長に告げる。
「アイテムの効果が分かった。ついでに、幹部たちの居場所も突き止めたぞ」
「なんと……!」
ラニング団長は驚きの表情を浮かべると、テーブルごしに身を乗り出してきた。
「りゅ、《竜殺し》殿! か、幹部は、幹部たちはどこにいるのですか!?」
「王都の南東だ。……俺のスキルを使えば、すぐに捕まえられるだろう。どうすればいい?」
「どう、と言いますと……?」
「客観的に考えてくれ。近衛騎士団が取り逃がした相手を《竜殺し》が捕まえる。そんなことになったら、近衛騎士団のメンツが丸潰れだと思うんだが……」
「《竜殺し》殿、我々のことはお気になさらず。いまは幹部を捕まえることが最優先です。……我々には何らかの処分が下されるでしょうが、団員一同、それは覚悟の上です。どうか、よろしくお願いします」
ラニング団長はソファから立ち上がると、深く頭を下げた。
部下の騎士たちも、それに続いて頭を下げる。
「わかった」
俺は頷いた。
「ただ、後で自作自演だとか何だとか疑われたら面倒だ。ラニング団長、一緒に来てくれるか?」
「しょ、承知しました。で、ではすぐに馬を……」
「それには及ばない。俺のスキルで行く。……念のため、アイリスも同行してほしい」
「わかったわ」
アイリスはここまで静かに話を聞いていたが、俺が声をかけると、スッとソファから立ち上がった。
「このところあんまり活躍できてないし、今回くらいはコウの役に立ちたいところね」
「ああ、期待してるぞ」
俺は次に、リリィのほうに視線を向けた。
……リリィもリリィで黙っていたが、こちらはペンを持ち、ノートに何やら文字を書き連ねていた。
「リリィ、何をしてるんだ?」
「ここでの話を、記録、していました。……あとで、トラブルになったら、大変ですから」
どうやらリリィは自分から書記をやってくれていたらしい。
その様子を見て、ラニング団長が何かを思いついたように「ふむ」と声をあげた。
部下の一人を呼び、こう指示した。
「いまから冒険者ギルドに行って、私の名前で《竜殺し》殿に依頼を出しておいてくれ。そのお嬢さんの記録があれば、やや変則的だが、《竜殺し》殿が依頼を受けて幹部の逮捕に向かった、という形にできるはずだ。……考えてみれば、《竜殺し》殿は冒険者ギルドの所属だ。頼みごとをするのなら、冒険者ギルドを通すのが筋だったな。なにより、こうしておけば騎士団の予算から《竜殺し》殿に報酬が出せる。冒険者としての功績にもなるはずだ」
へえ。
冒険者ギルドに行かなくても、記録があれば、ギルドを通して依頼を受けたことにできるのか。
なんだか裏技みたいな話だな。
あとで本部のおせわスライムたちに、詳しいことを教えてもらおう。
まあ、それはさておき。
傭兵ギルドの幹部を捕まえるとしようか。
俺は【空間跳躍】を発動させた。
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