第14話 ギルド本部におせわスライムをリクルートしてみた。
冒険者ギルドからの報酬は10億コムサと、Sランクへのランクアップとなった。
続いては、国からの報酬だ。
ヴィクトル王は最初にこう言った。
「君は今回、冒険者ギルド本部のシステムを修復し、さらには犯人逮捕にも尽力してくれた。これはとても大きな功績だ。……本部のシステムが停止していれば、各地のギルド支部にも大きな混乱が生じていただろう。それを考えると、コウくんは国家規模の危機を救ってくれた、と言ってもいい」
「えっと……それはさすがに過大評価じゃないですか?」
俺がそう指摘すると、ヴィクトル王は首を大きく横に振った。
「いや、過大評価ではない。各地のギルド支部は、周辺の治安維持にも大きな役割を果たしている。これらが一斉に機能不全を起こしたなら、グランギア王国が揺らぐほどのパニックが起きていたかもしれん。コウくんはそれを未然に防いでくれたのだ。……本来ならば大々的に表彰し、領地と爵位を与えるところだ」
「正直、そういうのは面倒そうなので遠慮したいのですが……」
「分かっているとも。昨日の夕食でも話したが、コウくんのような規格外の英雄にとっては、領地や爵位など足枷にしかならんだろう」
「じゃあ、昨日と同じように保留というのですか?」
「……それは難しいな」
ヴィクトル王は困ったように呟いた。
「今回、コウくんは我が王都で大きな功績を残した。にもかかわらず、国として何も返礼をしない、というのは民に対して示しがつかん。……もしよければ報奨金と勲章を贈らせてほしい。君としてはあまり目立ちたくないだろうし、勲章の授与式は私と伯爵以上の貴族だけの小規模なものにしよう。これでどうだろうか?」
ヴィクトル王としては、これが最大限の譲歩なのだろう。
ここにNOを突き付けるのは大人のやることじゃない。
ただ、ひとつだけ心配なことがあった。
それは、貴族たちと顔見知りになった結果、面倒な派閥争いに巻き込まれないか、ということだ。
偏見かもしれないが、貴族って裏側でドロドロの権力闘争をやってるイメージなんだよな。
……失礼かもしれないが、ここは妥協せずに質問すべきだろう。
「ヴィクトル王、少し、よろしいですか?」
「何かね?」
「俺としては、ええと、政治とか派閥とか、そういう面倒な関係からは距離を置きたいと思っています。もちろん報奨金や勲章を断るつもりはありませんが、ただ――」
「ふむ、なるほどな」
ヴィクトル王は深く頷いた。
どうやら俺の言いたいことが伝わったらしい。
「コウくん、心配することはない。他の国ならばともかく、我が国において派閥抗争のようなものは存在せんよ。……私には【威風】スキルがあるからな」
【威風】。
それは代々の国王が持つというスキルのひとつだ。
「堂々とした振る舞いをすることで、周囲の者に自然と敬意を抱かせる」という効果を持つ。
まあ、俺は【異世界人】の精神耐性で【威風】を無効化しているけどな。
「【威風】のおかげで貴族たちは常に万全の結束を保っている。君に面倒をかけることはない、と約束しよう」
それなら、まあ、問題はないだろう。
もしもトラブルが起きたら、別の国へと移住する、という手もあるしな。
俺は報奨金と勲章、そしてその授与式について了承の意を伝えた。
* *
王様との話を終えたあと、俺は仕事をひとつ片付けることにした。
俺はギルドマスターのボルドさんに頼まれ、冒険者ギルドのシステム管理を請け負った。
まあ、実際に管理するのはおせわスライムだけどな。
そういうわけで、早速、おせわスライムを連れてこよう。
後回しにする理由はないし、ボルドさんからも「可能なら今日からシステムを任せたい」と言われている。
俺は【空間跳躍】を発動させると、オーネン遺跡へとワープした。
「……また大きくなってるな」
遺跡の居住区は、以前よりもさらに発展していた。
洗練された街並みは、はっきり言って、王都よりもずっと美しい。
住民ゼロなのが、ちょっともったいないな。
それはともかく、おせわスライムはどこだろう。
俺は【遺跡掌握】を発動させ、この場にスライムを招集した。
30秒もしないうちに、あちこちからスライムが押し寄せてくる。
「マスターさん! マスターさんだ!」
「わーい! おひさしぶり!」
「街を、もっともっと、素敵にしてみたよ!」
「まいにち、ピカピカにお掃除しているよ!」
「もしかして、冒険者ギルドのシステム管理のおしごとかな!?」
「ぼくやりたーい!」
「ぼくもー!」
「がんばるよー!」
「はたらくよー!」
スライムたちはシステム管理の仕事に対しても、やる気まんまんのようだった。
何匹かのスライムは、左右の触手をにゅっと伸ばして、ちからこぶ(?)を作っている。
とりあえず、手前にいた5匹を連れていくことにする。
あとは様子を見つつ、必要に応じてスライムを追加すればいいだろう。
俺は5匹のスライムを抱えると【空間跳躍】を使い、冒険者ギルド本部地下の遺跡に向かった。
ワープ先は、遺跡の廊下だ。
奥のドアは開けっ放しになっていた。
ドアをくぐり、システムの管理ルームに入る。
そこではギルド職員が何やら作業をしており、ミリアさんの姿もあった。
すでにボルドさんから話が来ていたらしく、事情の説明はさほど時間がかからなかった。
「わかりました! つまり、そのポヨポヨした子たちが、システム管理をしてくれるんですね!」
「まあ、そういうことだ」
俺は頷くと、スライムたちを地面に降ろした。
「みんな、挨拶してくれ」
「はーい!」
「ぼくたち、おせわスライムです!」
「システム管理のおしごとにきました!」
「なかよくしてね!」
「ともだちになってね!」
「「「「「よろしくね!」」」」」
スライムたちは器用に身体を折り曲げると、ぺこり、とお辞儀をした。
その姿に、ミリアさんは目をうるうると潤ませた。
「か、可愛い……! コウさん、この子たち、すっごく可愛いです……!」
他の職員たちの反応も、上々だった。
「すげえ……こいつら、めっちゃぷにぷにしてる……」
「無機質な職場に、こんな癒しキャラが現れるなんて……」
「やべえ、めっちゃ人懐っこいぞ……。連れて帰りたい……」
管理ルームは、とても和やかな空気に包まれた。
ミリアさんはスライムのほっぺたをツンツンツンツンと連打しては、うっとりとした表情を浮かべている。
「すごく、ぷるぷるしてます……!」
「それだけじゃないぞ。ギルドのシステム管理のプロだ。……たぶん」
「えっ、そうなんですか!?」
ミリアさんは驚きの表情を浮かべた。
すると、すぐ近くのスライムがキランと目を輝かせる。
「ふふん! いまからぼくの実力を見せるよ! えいっ!」
スライムが声をあげると、その周囲に透明なウィンドウとキーボードが浮かんだ。
「冒険者さんの功績処理がぜんぜん終わってないね! いまからぼくが全部片づけるよ!」
スライムは左右から触手を伸ばすと、キーボードをものすごい勢いでタッチし始める。
なんだかよくわからないが、ものすごく働いているっぽい雰囲気だ。
やがて30秒ほどすると、手を止めて、俺のほうを向いた。
「功績処理は終わったよ! マスターさんのランクアップも完了したから安心してね!」
マジか。
めちゃくちゃ早いな、おい。
「マスターさんのギルドカードを書き換えるよ! ぼくの頭のうえに、ギルドカードを置いてね!」
「こうか?」
俺はギルドカードを取り出すと、スライムの額(?)に置いた。
「ありがとう! えいやー!」
スライムは左右の触手で、ギルドカードをぺちぺちと叩いた。
「できたよ!」
「お、おう……」
こんなことで書き換えができるのだろうか。
疑わしく思いながらギルドカードを見ると、たしかに「Sランク」と書かれていた。
他の4匹のスライムたちも、それぞれ、何らかの作業を行っていた。
その手際は見事なものらしく、職員たちから拍手喝采を浴びていた。
「《竜殺し》さん、ありがとう! こいつら、すっげえ優秀だな!」
「これで徹夜仕事から解放される……」
「システムを直してくれるどころか、こんな優秀なヤツを連れてきてくれるなんて……! アンタは俺たちの救世主だ!」
ふう。
喜んでもらえて何よりだ。
スライムたちの働きぶりも悪くないし、職場にもきっちり馴染んでいる。
俺としても安心だ。
しばらくスライムたちの仕事を眺めていたが、追加の人員は必要なさそうだ。
* *
そのあと、俺は宿に戻ってアイリスやリリィと合流した。
冒険者ギルドでのことを話すと、アイリスは目を丸くしていた。
「待って、待って。情報量が多すぎるわ。……ええっと、まず、冒険者ギルドのシステムを修復したのよね」
「ああ。そのあと、犯人のヨギルとドラムスを捕まえたんだ」
「で、冒険者ギルドのシステム管理を請け負った、と。……ねえコウ、もしかしてこれ、実質的に冒険者ギルドを手に入れたようなものじゃないの?」
「……言われてみれば、そうかもしれないな」
俺がおせわスライムに命じれば、システムを書き換えて、冒険者ギルドを思いのままに動かすことも可能だろう。
まあ、面倒だからやらないけどな。
「昨日まではFランク冒険者だったのに、すごい出世ね……」
「わたしも、驚き、ました……」
リリィが呟く。
「そういえば、傭兵ギルドは、どう、なるんですか?」
「……どうなるんだろうな」
ヴィクトル王の言葉を借りるなら、俺は国家規模の危機を救ったらしい。
逆に言えば、犯人のヨギルとドラムスは、国家規模の危機を引き起こしたわけだ。
当然、二人への処分は厳しいものになるだろうし、傭兵ギルドも無事ではいられないはずだ。
ああ、そういえば、ヴィクトル王が言ってたっけ。
今日のうちに近衛騎士団に命じて、傭兵ギルド本部への強制捜査を行う、って。
可能なら、その結果を教えてもらいたいものだ。
……もしかしたら、背後で糸を引いている黒幕がいるかもしれないしな。
話が終わったあと、しばらくして、俺たち3人は出かけることにした。
時計は午後6時を回っているし、王都をふらつきながら、どこかで夕食にするつもりだった。
だが――
宿を出ようとしたところで、たまたま、近衛騎士団の団長と、部下の騎士たちに出くわした。
「《竜殺し》殿! 申し訳ございません、お力を貸していただきたい!」
「どうしたんだ、急に。……とりあえず、事情を話してくれ」
「す、すみません……」
俺は騎士たちを宿の部屋に招くと、そこで事情を聞くことにした。
結論から言えば――
傭兵ギルド本部への強制捜査を行った際、幹部数名が逃げてしまったらしい。
幹部らは今回の事件について重要な情報を握っていると考えられるので、捕縛のために手を貸してほしい……とのことだった。
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