第12話 傭兵ギルドのギルドマスターを追い詰めてみた。
俺は不正アクセスの犯人……傭兵ギルドのギルドマスターの息子を捕まえると、外に出た。
もちろん不正アクセスに使われた道具も回収してある。
【鑑定】すると、こんな説明文になっていた。
『魔導コンピューター (携帯型・改造品)
古代文明の遺産のひとつ。
手ごろなサイズの魔導コンピューター。
5日ほど前に発掘され、特殊な改造を施された。
起動させると自動的に冒険者ギルドのシステムへの攻撃を開始する。
※ただし、冒険者ギルド本部から500m以内の地点で起動させねばならない』
『5日ほど前に発掘』という文面が気になるものの、そのあたりの経緯は後で調べればいいだろう。
俺は【空間跳躍】を発動させ、冒険者ギルド本部に戻った。
もちろん傭兵ギルドのギルドマスターの息子も一緒だ。
……いちいち「傭兵ギルドのギルドマスターの息子」と呼ぶのも面倒だな。
【鑑定】によれば「ドラムス・コーウェン」という名前らしいので、ドラムスでいいか。
さて、俺は冒険者ギルド本部のロビーにワープしたわけだが、そこにはちょうどミリアさんがいた。
「おかえりなさい、コウさん。……もしかして、もう、犯人を捕まえてきたんですか?」
「ああ」
「すごい、めちゃくちゃスピード解決じゃないですか! まだ出発して10分も経ってませんよ!?」
「犯人があんまり強くなかったからな。おかげで、すぐに無力化できた」
俺はこのとき、右手でドラムスの首根っこを掴んでいた。
アーマード・ベア・アーマーを装着したままだったので、《怪力C+》を発動させ、ドラムスを担ぎ上げる。
「犯人はこいつだ。ドラムス・コーウェン。傭兵ギルドのギルドマスターの息子らしい」
「ええええええええええええええええっ!? も、もしかして、《荒ぶる氷槍》のドラムスですか!?」
《荒ぶる氷槍》?
なんだそのネーミング、やたら中二っぽいな。
「ドラムスは、王都でもトップクラスの実力者なんです! それなのに、こんな短時間で捕まえてくるなんて……やっぱりコウさん、めちゃくちゃ強いですよね……! 規格外というか、桁外れというか」
それからミリアさんは、ドラムスについて教えてくれた。
どうやらドラムスは父親の立場をいいことに、酔って暴れたり、駆け出しの冒険者に絡んだりといった問題行動を繰り返していたという。
まさにドラ息子だな……。
「ところでミリアさん、傭兵ギルドのギルドマスターはどこにいるんだ?」
「2階の応接室です。いま、うちのギルドマスターが応対しているはずですよ」
「分かった。案内してもらっていいか?」
「もちろんです。行きましょう、コウさん」
俺はミリアさんに連れられて、冒険者ギルド本部の2階に上がる。
応接室の近くまで来ると、アーマード・ベア・アーマーの《聴覚強化C》のおかげか、室内の会話が聞こえてきた。
「――わたしはねぇ、冒険者ギルドさんのために、わざわざ手を差し伸べているわけですよ。条件を呑んでくれるなら、故障したシステムを元通りにしてあげましょう」
発言内容から推測するに、おそらく、傭兵ギルドのギルドマスターだろう。
「まったく、商売敵に塩を送るなんて、わたしほどの人格者はいませんよ。条件はたったの5000億コムサと、Bランク以上の冒険者の移籍です。それだけで冒険者ギルドのシステムが直るなら、安い買い物だと思いませんか? このまま冒険者ギルドが潰れてしまってもいいんですか?」
「ううむ、そう言われてものう……。ヨギル殿、こんな重大な決断事をのう、すぐに決めるのはのう……」
よし。
こっちのギルドマスターは、俺との打ち合わせ通り、交渉を長引かせているようだ。
「なにを悩んでいるのですか! さあ、さっさと条件を呑んで、わたしを地下の古代遺跡に案内しなさい! そうすれば冒険者ギルドは完全におしまいなんですから! ……コホン。失礼。言い間違えました。……わたしを古代遺跡に案内しなければ、システムは壊れたまま、冒険者ギルドは完全におしまいなんですよ?」
おいおい。
いま、この男、「条件を呑んだら冒険者ギルドはおしまい」って言わなかったか?
言い間違えたというより、口を滑らせた、って感じだな。
……ミリアさんが応接室のドアをノックしたのは、ちょうどそのタイミングだった。
「ギルドマスター、コウさんが戻りました」
「おお、そうかそうか。入ってもらってくれ」
「というわけで、コウさん、こちらへどうぞ」
ミリアさんがドアを開けてくれる。
俺は少し考えて、ドラムスを廊下に置いてから応接室に入った。
最初に声をかけてきたのは、目つきの悪い細身の中年だった。
おそらくこの男が傭兵ギルドのギルドマスターだろう。
【鑑定】を掛けると、名前のところには「ヨギル・コーウェン」と書いてある。
「コウ? ……もしや《竜殺し》のコウ・コウサカですか?」
「その通りだ」
「おお、これはちょうどいい。彼が傭兵ギルドに移籍してくれるというなら、他の冒険者の移籍については免除しても構いませんよ。どうですか、ボルド殿?」
「そうじゃのう……」
冒険者ギルドのギルドマスターは言葉を濁した。
……どうでもいいが、この部屋には両組織のギルドマスターが揃っているせいで、呼び名がややこしい。
ここまでの会話から察するに、冒険者ギルドのほうは「ボルド」、傭兵ギルドのほうは「ヨギル」という名前らしいので、そちらで呼ばせてもらおう。
ボルドさんは俺に向かってアイコンタクトを飛ばしてくる。
俺が頷くと、ボルドさんは小さく笑みを浮かべた。
「ヨギル殿、実はまだ話していないことがあるんじゃが……」
「なんですか?」
「すでに冒険者ギルドのシステムは正常に戻っておる。コウ殿に直してもらったのじゃ」
「は、はははっ。ボルド殿はご冗談が下手なようで……。冒険者ギルドのシステムが、そう簡単にも元通りになるわけがないでしょう。はっ、ははっ、はっ……」
ヨギルは笑い声をあげたものの、明らかに動揺していた。
おいおい。
ここで動揺を見せたらダメだろう。
敵ながら心配になってくる。
ポーカーフェイスが下手というか、腹芸が下手と言うか……。
いち組織のトップとは思えない。
実のところヨギルは操り人形で、本当の黒幕が裏に隠れてたりしないよな?
まあ、そのへんの背後関係はあとで探ればいい。
ひとまず、ヨギルをすこし揺さぶってみるか。
「疑問なんだが」
俺はヨギルのほうを向いて、こう言った。
「『冒険者ギルドのシステムが、そう簡単に元通りになるわけがない』なんて、どうしてあんたが知ってるんだ?」
「そ、そ、それは……」
「今回の一件、あんたが犯人じゃないのか?」
「ば、ば、ば、馬鹿な! 言いがかりはやめてもらいましょうか、そこまで言うなら証拠を、証拠を出しなさい!」
「証拠はない」
「なんだと! わ、わたしは傭兵ギルドのトップですよ!? しゃ、謝罪しなさい! そこに膝をついて靴を舐めろ!」
「だが、証人はいる」
「……なっ」
俺は廊下に戻ると、《雷撃麻痺S+》で動けないままのドラムスを担いで応接室に戻った。
すると、ヨギルが大声を上げた。
「ど、ドラムス! どうして、ここに……!?」
「……こいつはあんたの息子らしいな。ちょっと締め上げたら、何もかも白状してくれたよ」
俺はここでサラッと嘘を吐いた。
ドラムスに対しては、まだ、尋問も何も行っていない。
……だが、ヨギルは面白いくらいにコロッと引っ掛かってくれた。
「こ、こ、このドラ息子め! せっかく冒険者ギルドを完全に潰せるチャンスだったというのに……!」
なるほどな。
やはり今回の事件、犯人はヨギルだったらしい。
息子のドラムスに対して冒険者ギルドのシステムを攻撃するように指示し、自分自身はその解決策を冒険者ギルドに売り込む。
……いや、今となっては本当に解決策を持っていたのか怪しいな。
むしろ、冒険者ギルドのシステムにトドメを刺すつもりだったんじゃないかと思える。
「く、くそっ、《竜殺し》! キサマさえいなければ!」
ヨギルはそう叫ぶと、応接室のソファから立ち上がり、俺へと殴りかかってきた。
それは後先を考えない、破れかぶれの一撃だったのだろう。
もちろん、殴られてやる義理はない。
俺は紙一重で回避すると、ポン、とヨギルの肩に手を置いた。
稲妻の籠手はずっと装備したままだ。
……《雷撃麻痺S+》を発動させる。
「ぐがっ! がぎぎぎっ! がががががっ!」
全身をビクンビクンと痙攣させ、ヨギルは床に倒れた。
そのあと、事態を重く見たボルドさんが緊急時の連絡網を使い、ヴィクトル王に一報を入れた。
近衛騎士団がやってくるそうなので、ヨギルとドラムスを引き渡せば、ひとまず事件解決だろうか。
もともと傭兵ギルドは国のあちこちでトラブルを起こしているけれど、今回、トップがついに大事をやらかしたわけだし、完全に終わりかもしれないな。
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