第11話 犯人を捕まえてみた。やっぱり傭兵ギルドの関係者だった。
冒険者ギルドのシステムに干渉してきたのは、いったい何者なのか。
ほどなくして逆探知が完了した。
『アクセス元の位置情報を特定しました。ウィンドウに表示します』
俺のすぐ目の前に、大きな半透明のウィンドウが現れる。
それは王都全体のマップだった。
不正アクセスが行われた場所が、赤色の矢印で記されている。
犯人は、どうやら、ここから少し離れた大きめの建物にいるらしい。
「《竜殺し》殿、これはいったい……?」
ギルドマスターが、ウィンドウを眺めながら問い掛けてくる。
俺はひとつひとつ順を追って説明する。
今回、冒険者ギルド本部のシステムが停止したのは、悪意ある何者かの不正アクセスが原因であること。
不正アクセスを遮断し、逆探知をかけた結果が、このウィンドウに表示されていること。
俺が説明を終えると、ギルドマスターは納得顔で頷いた。
「なるほど……。《竜殺し》殿、丁寧な説明、感謝するぞい。つまり、ワシら冒険者ギルドに喧嘩を売ってきた犯人が、ここにいるというわけじゃな」
ギルドマスターは、地図をピッと指差した。
「このまま見逃すわけにはいかん。《竜殺し》殿、もしよければ、この犯人を確保してもらえんだろうか」
「俺でいいのか?」
「《竜殺し》殿以上の実力者など、この王都に存在せん。どうか頼む」
「……それは過大評価と思うけどな」
まあいい。
俺はすぐに出発しようとして……その直前、冒険者ギルドの職員がひとり、部屋のなかに駆け込んできた。
「ぎ、ギルドマスター、大変です! 傭兵ギルドのマスターがやってきて、至急の面会を求めています!」
「ほう。こんなときに、いったい何の用事じゃ……?」
「なんでも、冒険者ギルドのシステムを元通りにする手段を知っているとか……。ただ、交換条件として5000億コムサと、高ランク冒険者の傭兵ギルドへの移籍を求めています」
「5000億コムサというと……ちょうど、傭兵ギルドが抱えておる負債と同じ額じゃの。なるほど、なるほど」
ギルドマスターは少し考え込むと、俺に声をかけてきた。
「《竜殺し》殿、どう思う?」
「……怪しいな」
冒険者ギルドのシステムが停止したその日のうちに、商売敵であるはずの傭兵ギルドが対応策を持ってくる。
どう考えても、傭兵ギルドが黒幕だろ、これ。
いわゆるマッチポンプというやつだ。
とはいえ、明確な証拠がなければ話が始まらない。
まずは犯人を捕まえるとしよう。
「とりあえず、俺は犯人を確保してくる。ギルドマスターは、適当に交渉を引き延ばしてくれ」
「任せておけ。冒険者ギルドのシステムが直ったことは伏せておけばよいかの?」
「ああ、頼む」
俺はギルドマスターとの打ち合わせを済ませると、すぐに冒険者ギルド本部を出た。
大通りを駆け抜け、薄暗い裏路地に入る。
犯人の居場所は、取り壊し前の古びた大きな宿屋だった。
俺はアイテムボックスを開き、久しぶりにアーマード・ベア・アーマーを装着した。
付与効果のひとつ……《聴覚強化C》を発動させ、宿屋のほうへと注意を向ける。
すると、二階のあたりから、誰かのヒステリックな怒鳴り声が聞こえてきた。
「くそっ! どうなってやがる! 冒険者ギルドのシステムに繋がらねえぞ!」
おいおい。
ずいぶんと迂闊だな。
どこで誰が聞いてるかわからないのに、よく大声を出せるものだ。
俺は宿屋のなかへと足を踏み入れた。
物音を立てないよう、慎重に、一歩一歩、奥へと進んでいく。
階段を登り、二階に向かう。
再び、怒鳴り声が聞こえてきた。
「ああもう! このままだとオレがオヤジに叱られるだろうが! 冒険者ギルドごときがオレに逆らってんじゃねえ!」
オヤジとやらが誰だか知らないが、犯人はずいぶん感情的なタイプらしい。
俺は、犯人がいると思しき部屋まで辿り着くと、《怪力C+》を発動させてドアを殴りつけた。
ドゴン!
轟音をとともにドアが倒れる。
部屋は、もともとは団体客向けだったのだろう。かなり広い。
その隅に、目つきの悪い男が立っていた。
すぐ近くにテーブルがあり、その上に、ノートパソコンみたいな銀色の機械が置いてある。
この装置を使って、冒険者ギルドのシステムに不正アクセスを仕掛けていたのだろう。
「だ、だ、誰だ、テメエ!」
男はパニック気味に声を上げる。
「く、く、クマの被りものなんかしやがって、な、何者だ!」
クマの被りもの?
ああ、アーマード・ベア・アーマーのことか。
たしかにこの鎧は、アーマード・ベアの剥製をすっぽり被っているように見えなくはない。
「だ、誰だか知らねえが、見られたからには生かしちゃおけねえ。――永久凍土の氷よ、我が敵を刺し貫け、アイスランス! 乱れうちだぁ!」
男の周囲に、氷の槍が十二本、次々に現れた。
男が笑い声をあげた。
「ヒャハハハハハ! オレの魔法を食らって生き残ったやつはいねえ! 残念だったなぁ!」
「それはどうだろうな」
アイスランスが12本、それぞれ時間差で俺のところへと飛来する。
さて、どう対応するか。
選択肢はいろいろとあるが、せっかくなので、新しい装備を試すとしよう。
俺はアイテムボックスからグラットンアックスを取り出した。
その刃は赤黒く、禍々しい雰囲気を放っている。
グラットンアックスは暴食竜を素材にして【創造】した武器だ。
《魔法喰いA+》という効果が付与されており、魔法を吸収し、その効果を刃に宿すことができる。
俺はグラットンアックスを振るう。
赤黒い刃がアイスランスに触れると、アイスランスはキラキラとした魔力の粒子に変わり、グラットンアックスへと吸い込まれた。
その光景に、男はひどく驚いていた。
「な、な、何だと!? オレの魔法が効かない、だと……!?」
「その通りだ。……残念だったな」
「ひ、ひ、ひいいいいいっ!」
男は大慌てで逃げ出そうとした。
窓から外に飛び出すつもりらしい。
「逃がすわけがないだろう」
俺はグラットンアックスに蓄えられた、アイスランスの力を解放する。
刃を振り下ろすと、凍えるような冷気が放たれ、男を足元から氷漬けにした。
「う、動かねえ! オレの足が、凍ってやがる!」
「悪いが、冒険者ギルドまで一緒に来てもらうぞ」
「く、くそっ! 近寄るんじゃねえ! オレのオヤジはなぁ、傭兵ギルドのギルドマスターなんだぞ!」
なるほど。
やっぱり犯人は、傭兵ギルドの関係者だったか。
しかもギルドマスターの子供なら、向こうに揺さぶりをかけるのに最高の材料といえる。
「オレに何かあったら、傭兵どもが黙っちゃいねえぞ! それでもいいのか!」
「……傭兵がそんな義理堅い連中とは思えないけどな」
「そ、それは……」
おいおい。
身内にすら信用されてないのか、傭兵ギルド。
本当にどうしようもない組織なんだな……。
ともあれ、無駄話はここまでにしよう。
俺はアイテムボックスから「稲妻の籠手」を取り出すと、付与効果の《雷撃麻痺S+》を使い、男を完全に無力化した。
それじゃあ帰ろうか。
この男を突き出したら、傭兵ギルドのギルドマスターはどんな顔をするだろうか。
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