第10話 冒険者ギルドのシステムを修復してみた。
俺はミリアさんとギルドマスターに案内され、冒険者ギルド本部の地下へと向かった。
地下の古代遺跡は全体として古びた雰囲気だったが、綺麗に掃除されている。
普段から人の出入りがあるのだろう。
しばらく廊下を進むと、一番奥のところに大きなドアがあった。
「コウさん、この向こうが冒険者ギルドの中枢部分です。心の準備はよろしいですか?」
「……心の準備が必要なシロモノなのか?」
「うーん、どうでしょう。普通の人ならビックリするかもしれませんけど、コウさんはいろいろ特別ですし……。まあ、とりあえず中に入りましょうか。いいですよね、ギルドマスター」
「もちろんじゃ。《竜殺し》殿、よろしく頼む……!」
俺たちは部屋の中に入った。
そこには不思議な光景が広がっていた。
半透明のメッセージウィンドウが、ひとつ、ふたつ、みっつ……数えきれないほど、空中に浮かんでいる。
ただし、メッセージウィンドウには何も表示されていない。
まるで故障したパソコンのモニターのようだ。
部屋の中央には洗濯機ほどのサイズの四角い装置が置いてあり、そのまわりでギルドの職員たちが頭を抱えていた。
「ダメだ……。どうやっても復旧しない……」
「いったい何が起こってるんだ?」
「原因も不明、対処法も不明……。このままじゃ手の打ちようがないぞ……!」
どうやら復旧作業はまったく進んでいないらしい。
やがてギルド職員のひとりが、俺の存在に気付いた。
「ん? そこにいるのはミリアさんにギルドマスターと……ええと、誰かな? うちの職員ではなさそうだけど……」
さて、どう自己紹介したものだろうか。
俺が迷っていると、代わりにミリアさんが口を開いた。
「みなさん! 殺伐とした復旧作業に、救世主かもしれない人が現れましたよ! ……《竜殺し》にしてオーネンの古代遺跡のマスター、コウ・コウサカさんです! 拍手でお迎えくださいませー! ぱちぱちー」
ぱちぱちー。
ミリアさんが大きく拍手すると、ギルド職員たちも釣られてパチパチと拍手した。
「……《竜殺し》って、このごろ話題の新人冒険者だよな」
「救世主ってことは、装置を修理してくれるのか?」
「頼む、何とかしてくれ! このままじゃ冒険者ギルドはおしまいだ!」
どうやらギルド職員たちはかなり追い詰められていたらしく、すんなり俺の存在を受け入れてくれた。
ちょっと意外だ。
部外者は黙ってろ、くらいのことは言われる気がしてたんだけどな。
きっと藁にもすがりたい状況なのだろう。
さて。
それじゃあ始めようか。
俺はまず、ギルドマスターに話しかけた。
「この遺跡のマスターって、どなたになってますか? ……誰になってるんだ?」
おっと。
クセで敬語が出てしまったので、慌てて言い直す。
ギルドマスターは深く頷いてから答えた。
「代々のギルドマスターが引き継ぐことになっておるが、それがどうかしたかの」
「遺跡のマスター権を、一時的に書き換えてもいいか?」
「それは構わんが……そもそも装置が停止しておるのだから、マスター権の移譲は難しいと思うぞ」
「いや、たぶん大丈夫だ」
大賢者メビウスの研究室を奪い取った時のことを覚えているだろうか?
あの時、俺は【マスターコード】というスキルを使った。
その効果は「古代遺跡のマスターを書き換える」というものだ。
俺は装置に手を触れると、【マスターコード】を発動させた。
頭の中に声が聞こえてくる。
『【マスターコード】発動、遺跡のマスター権を強制的に奪取します。
……処理終了。この遺跡のマスターは、コウ・コウサカになりました』
よし。
ここまでは順調だな。
続いて【遺跡掌握】を発動させると、俺の脳内にこの遺跡の情報が流れ込んできた。
……なるほど。
どうして冒険者ギルドの装置が停止したのか、その理由が分かった。
簡単に言うなら、ハッキングを受けたせいだ。
* *
これは【遺跡掌握】によって分かったことだが、遠い昔……5000年前にも「冒険者」という職業が存在していたらしい。
当時の人々も、遺跡の装置を使い、冒険者ギルドを運営していたようだ。
やがて古代文明は災厄によって滅んでしまったわけだが、200年ほど前、偶然にもこの遺跡が発見され、現在の冒険者ギルドが設立された。
遺跡のシステムは今日まで正常に稼働していたが、つい数時間前、何者かによって不正なアクセスを受け、システムエラーを起こしてしまったらしい。
誰がどうやってシステムに干渉したのか気になるが、犯人捜しよりも、まずはシステムの修復が先だろう。
『本遺跡とオーネン遺跡とのあいだに魔導ネットワークを構築しますか?
オーネン遺跡には、本遺跡のバックアップデータが保存されています。
バックアップデータを用いることで、本遺跡のシステムを復旧させることが可能です』
魔導ネットワークというのがよくわからないが、インターネットみたいなものだろうか?
悪いものではなさそうだし、実行を命じる。
その数秒後、さらに声が聞こえてきた。
『ネットワークの構築が完了しました。続いてシステムの復旧を開始します。
…………システムの復旧が完了しました。本遺跡は正常稼働に復帰します』
ずいぶん早いな。
まだ1分も経ってないぞ。
ともあれ、目の前の問題は解決したようだ。
俺はギルドマスターに向かって告げた。
「終わった。これで冒険者ギルドのシステムも元通りのはずだ」
「なんと……! 装置に手を置いただけで直ったというのか? 信じられん……!」
ギルドマスターは疑問の表情を浮かべていた。
周囲の職員たちも首を傾げていたが、やがて、部屋のあちこちに浮かぶウィンドウに文字や記号が表示され始めると、驚きの声をあげた。
「本当だ! 復旧したぞ!」
「よかった……! 《竜殺し》さん、あんたは冒険者ギルドの救世主だよ!」
「ありがとう! ありがとう!」
ギルド職員たちはよほど嬉しいらしく、感激の涙まで流していた。
これにて一件落着……と言いたいところだが、俺にはまだひとつ仕事が残っている。
冒険者ギルドのシステムに干渉してきたのは誰なのか。
この事件の犯人を捕まえないとな。
頭の中にふたたび声が聞こえた。
『本遺跡への不正なアクセスを確認しました。遮断および逆探知を行いますか?』
当然、答えはYESだ。
どうやら思ったよりも早く、犯人と対面できそうだ。
これはほとんどカンみたいなものだが、犯人は傭兵ギルドの関係者じゃないだろうか。
傭兵ギルドにとって冒険者ギルドは商売敵だから……というのもあるが、そもそも俺のなかで、傭兵ギルドのイメージは非常に悪い。
傭兵たちはあちこちでトラブルを起こしているし、スリエの支部長に至っては『古代賢者の息吹』という秘密結社の一員で、他人の命を何とも思ってなかったしな。
……そんなことを考えているうちに、逆探知が完了した。
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