第9話 冒険者ギルドのシステムが停止した。修理を申し出てみた。
王立アカデミーにオリハルコンゴーレムの残骸を引き渡したあと、俺は冒険者ギルド本部に向かった。
本部のロビーは、冒険者たちでごった返している。
そして、妙にざわついていた。
なんだか落ち着かない雰囲気だ。
俺はクエストの完了を報告するために窓口に向かおうとして……んん?
おかしいな。
「どうなっているんだ?」
窓口は12個も用意されているのに、すべて閉鎖されていた。
クエストボードに目を向ければ、クエストはひとつも貼り出されていない。
なんだかトラブルの気配を感じるな。
……そう思っていたら、奥からギルドの男性職員が出てきて、大声で説明を始めた。
「冒険者のみなさま、申し訳ありません! 現在、冒険者ギルドのシステムを管理している装置が故障し、すべての業務が停止しております!」
そういえば以前、スリエのギルドマスターが教えてくれたっけ。
冒険者ランクなどの管理は、王都地下の古代遺跡で見つかった装置が行っている、って。
その装置が故障したため、王都の冒険者ギルドは機能不全に陥っているようだ。
「全力で復旧作業に取り掛かっておりますが、本日中の再稼働は難しいと思われます! 対応を協議しておりますので、しばらくお待ちください!」
男性職員は、心から申し訳なさそうに頭を下げる。
冒険者たちは顔を見合わせ、やがて、口々にこんなことを言い始めた。
「職員さん、気にしなくていいぜ!」
「あんたらの頑張りはよく分かってる! あんまり無理すんじゃねえぞ!」
「10日かそこらクエストが受けられなくっても、食うには困らねえしな!」
「おいおい、新人は食えなくて困るかもしれねえぜ!」
「そのときはオレが奢ってやんよ! ガハハハハッ!」
前々から思ってたが、この世界の冒険者って、やけに心が暖かいよな。
ギルド職員に対してクレームのひとつも言わず、むしろ優しく励ましている。
俺がちょっと感動していると、また別の冒険者が声をあげた。
「そういや噂で聞いたけどよ、あの《竜殺し》が王都に来てるらしいぜ! 《竜殺し》は色々すげえって話だし、案外、装置も直してくれるんじゃねえのか?」
「いやいや、さすがにそれは無茶ってもんだろ」
「なんでもかんでも《竜殺し》に押し付けるのはよくないと思うぜ。つーか、今日はもうクエストもねえし、飲みにでも行かねえか? ここにいる全員でパーッとよ」
その会話がきっかけになって、冒険者たちはぞろぞろとギルドの外へ出ていく。
どうやら本当に飲みに行くようだ。
人数は……たぶん、百人を超えている。
かなりの大人数だが、店に入れるのだろうか?
もしかしたら途中で何グループかに分かれるのかもしれない。
さて、俺はどうしようか。
冒険者たちの飲み会に加わるか?
うーん。
微妙だな。
顔見知りが誰もいない飲み会とか、居心地の悪さを味わうだけだ。
アイリスかリリィを誘って、王都の観光でもしようか。
俺がそんなことを考えたとき……後ろから声をかけられた。
「あのあのっ! コウさん、ですよね?」
振り返ってみると、声の主は女性だった。
明るめの髪を短くまとめており、ニコニコと愛想のいい笑顔を浮かべている。
俺はこの女性を知っている。
オーネンの冒険者ギルドの受付嬢……ミリアさんだ。
どうして王都にいるのだろう?
ああ、思い出した。
そういえば、俺がオーネンを出るのと同じタイミングで、ミリアさんも王都への出張を命じられてたっけ。
「久しぶり、ミリアさん。なんだか大変そうだな」
「そうなんですよう。ようよう」
なんで急にラップ調なんだ。
……以前にも、似たようなやりとりをしたっけな。
ちょっと懐かしい気分だ。
ただ、ミリアさんは冗談めかした口調ではあるものの、表情には疲れの色が浮かんでいた。
「朝からずっとバタバタしてて、このままじゃお昼を食べるヒマもなさそうです。……コウさんは、ギルドにどんなご用事だったんですか?」
「俺はクエストの報告と、それから、ランクアップの処理かな」
「コウさんの功績なら、AランクどころかSランクになってもおかしくないですもんね……」
「でも、ギルドのシステムが動いてないんだろう? ランクアップはまだまだ先だろうな」
「そうなりそうです、ごめんなさい……」
ミリアさんは、しゅん、と肩を落として頭を下げる。
「冒険者ギルドのシステムって、ここの地下にある古代遺跡の装置を使って管理しているんです。今日まで大きなトラブルはなかったんですけど、まさか、いきなり動かなくなるなんて……」
「……遺跡、か」
俺は、古代遺跡に関するスキルをいくつか持っている。
これらをうまく使えば、冒険者ギルドのシステムを修復できるんじゃないか?
ものは試しだ、ミリアさんに提案してみよう。
「ミリアさん、もしよければ、その装置を見せてくれないか? 古代遺跡に関するものなら、俺のスキルが役立つかもしれない」
「そういえばコウさん、オーネンの遺跡のマスターですもんね……。わ、分かりましたっ! ちょっとギルドマスターに相談してきますっ!」
ミリアさんはそう言うと、大急ぎで奥の階段を登っていった。
それから五分くらい経ったころ、ミリアさんがギルドマスターを連れて戻ってきた。
ギルドマスターは禿頭のおじいさんで、穏やかそうな雰囲気を漂わせている。
「キミが《竜殺し》かね?」
「はい、コウ・コウサカです」
「いやいや、もっと気楽に喋ってくれて構わんぞい。冒険者は敬語を使わぬものじゃ」
「分かりました……いや、分かった」
「うむ、ワシはもう現役を退いて長い。お飾りのようなギルドマスターじゃが、それでも、自分の役割は分かっておる。……《竜殺し》殿、頼む。どうかその力を貸してほしい」
ギルドマスターは、深く深く、頭を下げた。
「ワシらも手を尽くしたが、装置は停止したままじゃ。頼む、《竜殺し》殿。報酬は望みのものを何でも用意する。どうか冒険者ギルドを救ってくれ……!」
もちろん断るつもりはない。
クエストの報酬も欲しいし、ランクアップもしたいからな。
俺はギルドマスターの頼みを引き受け、地下の古代遺跡とやらに向かった。
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