第7話 王都で王様と握手をしてみた。予想外の変化が起こった。
王都の外周部は頑丈そうな城壁に囲まれており、その向こうには、壁よりもずっと高い建物がいくつも並んでいる。
この国の中心部だけあって、なかなか発展しているようだ。
俺たちは馬車に乗ったまま、王都の城門へと向かう。
城門のところには門番が立っており、丁寧な物腰で話しかけてきた。
「王都へようこそ。身分証はお持ちですか?」
「どうぞ」
俺はギルドカードを差し出した。
「ありがとうございます。えっと、コウ・コウサカ……? もしや、噂の《竜殺し》殿ですか?」
「噂かどうかは知らないが、いちおう、竜を倒したことはあるぞ」
「おお……!」
門番は驚いたように声をあげた。
「《竜殺し》殿の活躍はかねがね耳にしておりました! お会いできて光栄です!」
「……俺のこと、王都にまで伝わってるのか?」
「もちろんです! オーネンでの黒竜退治、トゥーエでの古代賢者討伐、それから、最近では海賊団を壊滅させたとか! いやあ、まさしく現代の英雄ですね! ぜひぜひ、王都を楽しんでいってください!」
「お、おう」
やたらテンションの高い衛兵に見送られ、俺たちは王都に入る。
馬車を降りたところで、見知った顔に出くわした。
「やあ、コウ殿! 久しぶり!」
クロムさんの息子にして、スカーレット商会の商会長 (予定)のニコルだ。
あいかわらず、ニコニコと爽やかな笑みを浮かべている。
「ニコル、迎えに来てくれたのか?」
「当然じゃないか! コウ殿は、なんといっても僕の大切な友人だからね!」
大切な友人、か。
そんなことを真正面から言われると、少し、気恥ずかしいな。
「コウ殿、約束どおり、王都でも最高の宿を押さえているよ。我が家の馬車で送っていくから、さあ、乗ってくれ」
というわけで、ここからはニコルの馬車に乗り換えて宿へと向かうことになる。
王都の街並みは洗練されていて、道の幅もかなり広い。
馬車道は左右2車線ずつ舗装されており、歩道も歩道できっちり整備されている。
通りのあちこちで魔導灯がキラキラと輝き、夕暮れの街を明るく照らしていた。
ニコルの馬車はやがて『眠れる月亭』という宿の前で止まった。
建物は五階建てで大きく、玄関はまるでお城のような雰囲気を漂わせている。
さて。
ニコルは気前のいいことに、俺たち3人にそれぞれ部屋を用意してくれていた。
ありがたい話だ。
なお、リリィはもともと王都の魔法学院に通っており、平民向けの学生寮で暮らしていたらしい。
だが、いまはちょうど冬期休暇で寮が閉鎖されているため、そのまま『眠れる月亭』に泊まることになった。
「わたし、こんな贅沢して、いいん、でしょうか……?」
リリィは部屋のドアの前で、戸惑い気味に立ち止まっていた。
俺はそんなリリィに声をかける。
「いいんじゃないか? 若いうちは何事も経験だしな」
「わ、分かりました。……ありがとうござい、ます。コウ、さん」
「いや、礼を言うならニコルに言ってくれ」
宿を押さえてくれたのはニコルだしな。
「それは、あとで、言います」
リリィはまっすぐ俺のほうを見て、言葉を続けた。
「コウさんがいてくれたから、わたし、無事に王都まで帰ってこれました。ひとりだったら、メビウスのこと、絶対に解決できなかったと思います。しかも、こんな贅沢までさせてもらって……本当に、ありがとう、ございます」
ぺこり。
リリィは深く頭を下げた。
「別に、そこまで恩に感じなくてもいいんだけどな」
俺は苦笑しながら言う。
「リリィが大人になって、もしも子供が困っているところを見かけたら、手を差し伸べてやってくれ」
「はい。わたし、コウさんみたいに素敵な大人になりたいです。……でも、それ以上に、コウさんに意識してもらえるような、大人の女になりたいです」
「……ん?」
「なんでもありません」
リリィは部屋の鍵を開けると、まるで逃げるように中へと入ってしまった。
* *
部屋で身支度を整えたあと、俺たち3人は宿を出た。
再び、ニコルの馬車に乗り込む。
なんでも、夕食はとっておきのレストランに連れていってくれるらしい。
「実は今日、コウ殿に会わせたい人がいるんだ」
「クロムさんか?」
「まあ、会ってみてのお楽しみ、ってことで」
それからニコルは、なぜか、この国の王様について教えてくれた。
この国……グランギア王国の国王は、かつてこの地に栄えた古代文明の末裔であり、代々、2つのスキルを継承しているという。
「ひとつは【守護者】、もうひとつは【威風】だね」
「どんな効果なんだ?」
「【守護者】の効果は公表されていないけれど、国を守るためのスキルだろう、って言われているよ。【威風】は……まあ、一度、会ってみれば分かるんじゃないかな?」
「会ってみれば、って言われてもな」
いち冒険者が、王様に会う機会なんてそうそうあるとは思えないぞ。
「いまの国王陛下は、フットワークが軽いことで有名だからね。コウ殿の活躍は知っているだろうし、案外、向こうから会いに来たりするかもしれないよ」
「……なあ、ニコル」
俺は、ふと思いついたことがあったので、冗談っぽく言ってみた。
「もしかして、『会わせたい人』が王様だったりしないよな?」
「……さすがコウ殿、察しがいいね。その通りだよ」
おい。
マジか。
適当に言ってみたら的中してしまった。
ニコルは感心したように頷くと、さらに言葉を続けた。
「陛下はコウ殿にとても興味があるみたいでね。ぜひ紹介してくれ、って頼まれたんだ」
「……だからって、向こうから会いに来ることはないだろう。王様なんだし、俺を城に呼びつければいいんじゃないのか?」
「僕もそう思ったんだけどね。陛下なりに考えがあるみたいなんだ」
そんな話をしているうちに、馬車は目的地へと辿り着いた。
レストランは三階建てで、三階の個室に通される。
個室には、引き締まった身体つきの中年男性がいた。
両腕も太く、なかなか強そうな雰囲気だ。
服装はラフなもので、現代で言うところのシャツとスラックスに似ている。
もしかして、国王のボディーガードかなにかだろうか?
男性は椅子から立ち上がると、俺のほうに近付いてきた。
「私がグランギア王国国王、ヴィクトル・ディ・グランギアだ。よろしく頼む」
ヴィクトルと名乗った男は、ニッ、と笑みを浮かべると右手を差し出してきた。
ええと。
意外なことに、この男性が国王らしい。
王様にしては態度がフランクすぎやしないだろうか。
【威風】という、なんだか威圧感を漂わせそうなスキルを持っているはずだが、むしろ気さくで付き合いやすい人に感じられる。
もしかすると【威風】を発動させていないのかもしれない。
俺は少し戸惑いつつ、握手に応じた。
手と手が触れる。
そのとき、頭の中で声が響いた。
『特定条件の達成を確認しました。ヴィクトル・ディ・グランギアの【守護者】が消滅し、【災厄殺しの守護者】が解放されます』
おいおい。
なんだか最近、似たようなイベントがあったような気がするぞ。
国王は自分のスキルの変化に気付いたらしく、「スキルチェック」と呟いた。
それから数秒ほどの間をおいて、うんうんと頷いた後、こんなことを言い出した。
「やはり、君に会いに来たのは正解だったらしい。……改めて名乗らせてもらおう。私はヴィクトル・ディ・グランギア。グランギア王国の国王であり、災厄と呼ばれるものについて知る一族の末裔だ」
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