第2話 海賊を一掃してみた。
騒ぎを聞きつけ、他の海賊たちがやってくる。
海賊たちはいかにも狂暴そうな顔つきだ。
そのなかの1人が俺に向かって叫ぶ。
「な、なんだ、テメエ! いったいどこから入ってきやがった!」
「空だ」
俺は天井を指差した。
そこには大きな穴がポッカリと空いている。
「本当なら、船のデッキに着地するつもりだったんだ」
だが、落下の勢いが強すぎたらしく、デッキをぶち破っての突入になってしまった。
我ながら、ダイナミックすぎるエントリーと思う。
「ところで、この男はお前たちのリーダーか?」
俺は、さっき《雷撃麻痺S+》を食らわせた相手……ダサンを指差す。
ダサンはいまだに床に倒れたまま、ピクピクと身体を震わせている。
「お、おやぶん!? そんな、ダサンの親分は、元Aランクの傭兵だってのに……!」
海賊は驚き、震えあがる。
その動揺はすぐに他の海賊たちにも広がっていく。
「ど、ど、どうする……?」
「お、お、親分がやられちまうなんて……」
「こ、降参したほうがいいんじゃねえか……」
うん。
コウさんに降参したほうがいいぞ。
ごめん、今のなし。
さすがにギャグとして寒すぎる。
あまりにつまらないギャグを思いついてしまったことへの天罰……というわけではないだろうが、後からやってきた隻眼の男が大声を張り上げた。
「ビビってんじゃねえ! どんなに強かろうが相手は1人だ! 囲め! 囲んで叩け!」
「へ、へいっ! 了解っす、アリオの兄貴!」
「兄貴がいるなら百人力だ! 野郎ども、囲め囲め!」
アリオという男が怒鳴りつけただけで、海賊たちはすぐに戦意を取り戻した。
……何かスキルでも持っているのだろうか?
アリオを【鑑定】してみると、スキル欄には【戦意向上】と書いてある。
意識を集中させると、脳内にスキルの説明が浮かぶ。
【戦意向上】というのは、文字通り、「言葉や行動によって仲間を戦う気にさせる」スキルらしい。
軍隊ではものすごく歓迎されそうなスキルだが、どうしてこんなところで海賊をしているのやら。
まあいい。
そのあたりは倒したあとに訊くとしよう。
海賊たちは俺を取り囲み、剣を抜く。
「へへっ、オレたちは全員、元Cランク以上の傭兵だ。勝てると思うなよ」
「降参するならいまのうちだぜ? まあ、降参してもタダじゃ済まさねえけどよ」
「つーかよ、素手でやるつもりか? 舐められたもんだぜ」
先程までの弱気はどこへやら、海賊たちはニヤニヤと見下すような笑みを浮かべていた。
自分たちが負ける可能性などまったく考えていなさそうだ。
「死ねやオラァ!」
「ぶっ殺してやらぁ!」
「命よこせやコラァ!」
海賊たちは一斉に斬りかかってくる。
ひとつひとつに対応するのは面倒なので、まとめて片付けよう。
俺は、右手を高く掲げる。
もちろん、稲妻の籠手は着けたままだ。
「広がれ」
右手の籠手から、青白い稲妻が放たれる。
稲妻は空中で弾け、四方八方に飛び散り……まわりの海賊たちに直撃した。
「「「「「「「「ぐがっ! ぐががががががっ! ぐえええっ……!」」」」」」」」
8名の海賊が、ほぼ同時に気絶する。
その光景に、他の海賊たちは驚いて足を止める……が、その後ろでアリオがまたも怒鳴り声をあげた。
「ビビんじゃねえ! 全員、突撃だ!」
「へいっ!」
「行くぞオラァ!」
【戦意向上】の効果により、海賊たちは戦意を取り戻したらしい。
再び、俺のほうへと向かってくる。
さて、どうするかな。
稲妻ばっかり使っていたらテストにならないし、他の機能も試してみよう。
俺は両手を組み、胸の前あたりに掲げた、
稲妻の籠手には《雷撃麻痺S+》のほかにも付与効果がある。
そのうちのひとつが《磁力操作S》だ。
「武装解除させてもらう」
左右の籠手がバチバチと雷撃を纏うのと同時に、磁力が発生した。
ターゲットは、海賊たちの武器だ。
いずれも金属製の剣だったので、磁力で絡めとるのは容易だった。
海賊たちの手から、一斉に、剣がすっぽ抜けて床に落ちた。
「なあっ!?」
「剣が、勝手に……!?」
「どうなってやがる!?」
今だ。
俺は駆ける。
一番近くにいた海賊の頭を掴み、《雷撃麻痺S+》を発動させる。
「あがががががっ! ぐがっ!」
これで1人。
そのまま立ち止まらず、2人、3人、4人と気絶させてゆく。
だが、海賊たちは立ち止まらなかった。
仲間が1人、また1人と倒れていくにも関わらず、アリオの【戦意向上】に操られ、鉄砲玉のように襲い掛かってくる。
やがて海賊たちを全滅させたとき……アリオの姿はどこかに消えていた。
うん。
そんな気はしてたよ。
他人を煽って鉄砲玉に使うようなヤツは、絶対に自分の手を汚さない。
後ろから高見の見物を決め込んで、いざというとき、逃げ出すんだ。
だから、この事態を見越して、アリオには【パーソナルマーカー】を付けておいた。
【オートマッピング】の脳内地図には、アリオの居場所がきっちり表示されている。
船の後方にいるらしい。
俺はアイテムボックスを開くと、フェンリル生地のスーツに着替えた。
《神速の加護S》を発動させ、アリオを追う。
すぐに追いついた。
アリオは、ちょうど、脱出用の小舟に乗り込もうとしていた。
そうはさせるか。
俺は右手から全力で雷撃を放つ。
雷撃は小舟へと直撃し、爆発を起こした。
小舟は跡形もなく砕け散り、その破片がパシャンパシャンと水面に落ちる。
……アリオは小舟の爆発に驚き、バランスを崩し、その場に尻餅をついた。
こちらを振り返る。
「き、貴様……! い、いったい、何者だ……!?」
「通りすがりのFランク冒険者だよ」
「貴様のようなFランク冒険者などいるわけが……、いや、まさか」
アリオはカッと右目を見開いた。
「《竜殺し》、なのか……!?」
「……よく知ってるな」
まさか海賊にまで知られているとは、本当に俺も有名人になったものだ。
「く、くははははっ! 《竜殺し》が相手だったか! ああ、納得だ。こんなクズ海賊が勝てるはずがない」
「……自分の仲間に対して、ずいぶんな言いようだな」
「仲間? バカバカしい。あいつらはタダの手駒だよ。オレが大海賊として成り上がるためのな」
アリオは喋っているうちに気分が盛り上がってきたらしく、得意げな笑みを浮かべていた。
どうやら自分で自分の言葉に酔うタイプのようだ。
「なあ、《竜殺し》。オレと組まねえか? アンタとオレだったら、どこまでだって成り上がれる。【戦意向上】を使って、アンタのために兵隊を揃えてやってもいい。なあ、どうだ?」
「断る」
俺は即答した。
他人を手駒扱いするようなヤツと組みたくないし、そもそも兵隊なんてものはいらない。
「けっ、そうかよ。だったら仕方ねえ。……死んじまいな!」
アリオとしては不意打ちのつもりだったのだろう。
隠し持っていたナイフを抜くと、俺へと飛び掛かってきた。
だが、無駄だ。
俺はナイフを避けると、アリオの顔にカウンターパンチを叩きこんだ。
「が、はっ……!」
「おまけだ。持っていけ」
さらに、電撃を放つ。
「がっ! ぐがががががががっ!」
アリオは白目を剥き、その場に倒れた。
これで制圧完了、だろうか。
念のため船内をざっとチェックしたら、スカーレット商会の船に向かおう。
もう大丈夫だ、ってことを伝える必要があるしな。
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