表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/95

プロローグ 暴食竜を機械化してみた。

3章スタートです、よろしくお願いします!

 メイヤード伯爵は、港町までの馬車だけでなく、そこからの船も手配してくれた。

 王都への客船にはいろいろと種類があるが、今回、俺たちが乗り込むのは最高クラスの豪華客船だった。


 内装はまるで高級ホテルのように上品で、船内施設としてはレストランやバー、そしてカジノまで用意されている。


「ねえ、ねえ、コウ」


 アイリスが、少しはしゃいだ様子で話しかけてくる。


「あたし、こんなすごい船に乗るの、初めてかも。……ちょっと探検してきていい?」

「別に構わないぞ」

「やった!」


 アイリスは、ぱあっ、と笑みを浮かべると、隣のリリィに声をかけた。


「リリィちゃんも一緒に行かない?」

「えっと……行ってきても、いいです、か?」


 なぜ俺に訊くのだろう。

 まあ、リリィにしてみれば、俺は保護者みたいな感覚なのかもしれない。

 なにせ29歳のおっさんだしな。


「ああ、行ってこい」

「あ、ありがとう、ござい、ますっ」


 リリィは嬉しそうに頷いた。

 

「もしアイリスが迷子になったら頼むぞ」

「は、はいっ!」

「……コウ、忘れてるかもしれないけど、あたしはAランク冒険者よ? 船なんかで迷子になるわけないでしょ?」


 どうだろうな。

 この船は、最高クラスだけあってかなり大きい。

 アイリスはときどき抜けているし、うっかり道に迷ってしまう可能性も高そうだ。


「もしもあたしが迷子になったら……そうね、何でもひとつ、コウの言うことを聞いてあげるわ」


 

 * *



 アイリスは盛大にフラグを立てると、リリィを連れて船内探検に行ってしまった。

 俺は……どうしようか。


 とりあえず、デッキに出てみる。

 空はどこまでも晴れ渡り、潮風が気持ちいい。


「このまま昼寝したら、ぐっすり眠れそうだな……」


 だが、まだ寝るわけにはいかない。

 俺にはやりたいことがあった。


 ……ほどなくして、【アイテム複製】のクールタイムが終わる。


 朝に使ってから、ちょうど6時間が経過したのだ。

 

「よし、やるか」


 俺はアイテムボックスを開き、「オリハルコンゴーレムの残骸」をひとつ増やす。

 なぜガーディアンゴーレムやデストロイゴーレムではなく、残骸を増やすのかといえば、新しいレシピが脳内に浮かんでいるからだ。


『虚ろなる暴食竜の死体 ×1 + オリハルコンゴーレムの残骸 ×20 = 暴食の機械竜×1』


 暴食の機械竜。

 ものすごく気にならないだろうか。

 レシピから推測するに、おそらく、暴食竜にオリハルコンゴーレムの部品を埋め込んで復活させるのだろう。

 ばっさり言ってしまえば「メカ暴食竜」みたいなものか。


 そしていま、オリハルコンゴーレムの残骸が21個になった。

 20個は素材に使って、1個は残しておくつもりだ。


 早速、【創造】してみよう。



『暴食の機械竜

 説明:機械化により蘇った暴食竜。

    災厄としての性質は、付与効果という形に変換された。

    特定の災厄を喰らうことで、その力を取り込むことが可能となっている。


 付与効果:《演算能力A+》《オンリーワンEX》《融合捕食B+》』

 


 おお。

 これはなんだか強そうな気配が漂っている。


 暴食の機械竜……ちょっと名前が長いので、機械竜、と略しておく。


 付与効果だが、《演算能力A+》は解説の必要もないだろう。

 ガーディアンゴーレムやデストロイゴーレムと同様、自分なりに状況を判断し、適切な行動を取ってくれる。


 残り2つは、次のような効果だ。



《オンリーワンEX》――活動状態の「暴食の機械竜」が2体以上の場合、ステータスが大きく低下する。

            1体のみであれば、ステータスが爆発的に向上する。


《融合捕食B+》――魔物を喰らうことでエネルギーに変換する。また、特定の災厄を喰らい、その力を取り込む。


 

 災厄としての暴食竜は、この世界に1匹しか存在できなかった。

 それが付与効果に変換されたのが《オンリーワンEX》なのだろう。

 ただ、「活動状態」という言葉がすこし曖昧なので、今後、細かく検証していきたい。

 

 しかし何より気になるのは、もう1つの付与効果……《融合捕食B+》だ。

「特定の災厄を喰らい」とあるが、いったいどんな災厄を指しているのやら。


 あえて推測するなら……ポイントは「暴食」の二文字だろうか。


 キリスト教には「七つの大罪」という考え方がある。

 アニメやゲームに出てくることも多いし、有名といえば有名かもしれない。


 七つの大罪には「暴食」のほかに、「怠惰」「色欲」「嫉妬」「強欲」「傲慢」「憤怒」といった項目が並んでいたはずだ。

 

 もしかすると今後、怠惰竜や色欲竜が出てきて、《融合捕食B+》の対象になるのかもしれない。


 ……暴食竜に比べると、なんだか弱そうだ。


 怠惰竜とか、名前からしてやる気が感じられない。

 色欲竜はやる気マンマンかもしれないが、それはたぶん別方向の“やる気”だろう。


 そんな連中を取り込んだら、むしろ機械竜が弱くなりそうだな……。

 まあ、現時点では推測に過ぎないし、実際はその場その場で対処していけばいい。


 

 暴食竜がらみのアイテムは他にもあり、ここまでの道中でちょくちょく【創造】しておいた。


 たとえば暴食竜の牙と骨を使った「グラットンアックス」。

 グラットンは英語で暴食を意味し、武器名を日本語に直すなら「暴食の斧」だろうか。

【鑑定】での説明文はこうなっている。



『グラットンアックス

 説明:暴食竜の力を宿した青白い大斧。

    その刃は美しく、見る者を魅了する。

    魔法を喰らい、その効果を刃に宿すことが可能である。

    使い手の精神を狂わせ、死に至らしめる性質を持つ。

 付与効果:《魔法喰いA+》《精神汚染S》《魅了B+》』



《魔法喰いA+》は面白そうなので、今後、魔法使いと戦うことがあれば試してみたい。

 ただし《精神汚染S》は物騒なので、【付与効果除去】で消しておいた。


 また、暴食竜の鱗からは「稲妻の籠手」という防具が作成できた。

 こちらはただの防具ではなく、雷を発生させての攻撃もできる。

 威力を調節すれば、敵を気絶させることも、黒コゲにすることも簡単だ。


 

 

 機械竜。

 グラットンアックス。

 稲妻の籠手。




 どれもまだ使う機会は訪れていないが、まあ、武器なんて使わなくていいのが一番だよな。


 ……そんなことを考えていたら、急に、船がグラッと大きく揺れた。


「きゃっ!」


 少し離れたところで、ひとりの女性が声をあげた。

 船の揺れのせいでバランスを崩し、転びそうになっている。

 

 俺はこのときフェンリル生地のスーツを着ていたので《神速の加護S+》を発動させた。

 サッと女性に駆け寄って、その身体を支える。


「大丈夫か?」

「え、あっ……ありが、とう……」


 女性は金髪で、白い肌をしていた。

 両耳はピンと尖っており、顔立ちはとても整っている。


 種族としてはエルフになるのだろう。

 この世界にも存在することは知っていたが、間近で見るのは初めてだ。


 女性は紫色の瞳で、俺の顔をまじまじと眺めていた。


 いったいどうしたというのだろう。


 俺が首を傾げていると、ひとりの船員がデッキに出てこう叫んだ。


「お騒がせしてすみません! この先の海域で、スカーレット商会の船が海賊に襲われているとの連絡がありました! 安全のため、この船はひとまず近くの港に避難します!」


 この世界では魔導技術により、初歩的ではあるが無線通信が実用化されつつある。

 まだ一般には普及していないが、船同士の連絡には使われているようだ。

 イメージとしては、モールス信号に近い。

 そのおかげで、海賊の情報も手に入ったのだろう。

 

 しかし、スカーレット商会、か。

 どこかで聞いたことのある名前だ。


 ……思い出した。


 クロムさんの商会じゃないか。

 クロムさんというのは、俺がこの世界でいちばん最初に出会った、小太りの商人だ。


 ここでスカーレット商会の名前を聞くとは思っていなかった。

 

 まさかとは思うが、その船にクロムさんが乗ってたりしないよな?

 クロムさん、海賊に殺されかかってないよな?


 ううむ。

 考え始めると、どうしても気になってしまうのが俺という人間だ。

 このところ悪い予感は当たりがちだし、もしクロムさんが死んでしまったら、俺はずっと後悔するだろう。


 やらない後悔より、やる後悔……という言葉もある。

 


「行くか」


 

 俺は心を決めた。

 機械竜などなどのテストもしたかったところだ。

 ここは渡りに船ということで、海賊で試すとしよう。

 


 

いつもお読みくださりありがとうございます。

「面白かった」「続きが気になる」「3章も頑張れ!」と少しでも思っていただけましたら、ブクマ・評価などいただけると大変励みになります。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ