プロローグ 暴食竜を機械化してみた。
3章スタートです、よろしくお願いします!
メイヤード伯爵は、港町までの馬車だけでなく、そこからの船も手配してくれた。
王都への客船にはいろいろと種類があるが、今回、俺たちが乗り込むのは最高クラスの豪華客船だった。
内装はまるで高級ホテルのように上品で、船内施設としてはレストランやバー、そしてカジノまで用意されている。
「ねえ、ねえ、コウ」
アイリスが、少しはしゃいだ様子で話しかけてくる。
「あたし、こんなすごい船に乗るの、初めてかも。……ちょっと探検してきていい?」
「別に構わないぞ」
「やった!」
アイリスは、ぱあっ、と笑みを浮かべると、隣のリリィに声をかけた。
「リリィちゃんも一緒に行かない?」
「えっと……行ってきても、いいです、か?」
なぜ俺に訊くのだろう。
まあ、リリィにしてみれば、俺は保護者みたいな感覚なのかもしれない。
なにせ29歳のおっさんだしな。
「ああ、行ってこい」
「あ、ありがとう、ござい、ますっ」
リリィは嬉しそうに頷いた。
「もしアイリスが迷子になったら頼むぞ」
「は、はいっ!」
「……コウ、忘れてるかもしれないけど、あたしはAランク冒険者よ? 船なんかで迷子になるわけないでしょ?」
どうだろうな。
この船は、最高クラスだけあってかなり大きい。
アイリスはときどき抜けているし、うっかり道に迷ってしまう可能性も高そうだ。
「もしもあたしが迷子になったら……そうね、何でもひとつ、コウの言うことを聞いてあげるわ」
* *
アイリスは盛大にフラグを立てると、リリィを連れて船内探検に行ってしまった。
俺は……どうしようか。
とりあえず、デッキに出てみる。
空はどこまでも晴れ渡り、潮風が気持ちいい。
「このまま昼寝したら、ぐっすり眠れそうだな……」
だが、まだ寝るわけにはいかない。
俺にはやりたいことがあった。
……ほどなくして、【アイテム複製】のクールタイムが終わる。
朝に使ってから、ちょうど6時間が経過したのだ。
「よし、やるか」
俺はアイテムボックスを開き、「オリハルコンゴーレムの残骸」をひとつ増やす。
なぜガーディアンゴーレムやデストロイゴーレムではなく、残骸を増やすのかといえば、新しいレシピが脳内に浮かんでいるからだ。
『虚ろなる暴食竜の死体 ×1 + オリハルコンゴーレムの残骸 ×20 = 暴食の機械竜×1』
暴食の機械竜。
ものすごく気にならないだろうか。
レシピから推測するに、おそらく、暴食竜にオリハルコンゴーレムの部品を埋め込んで復活させるのだろう。
ばっさり言ってしまえば「メカ暴食竜」みたいなものか。
そしていま、オリハルコンゴーレムの残骸が21個になった。
20個は素材に使って、1個は残しておくつもりだ。
早速、【創造】してみよう。
『暴食の機械竜
説明:機械化により蘇った暴食竜。
災厄としての性質は、付与効果という形に変換された。
特定の災厄を喰らうことで、その力を取り込むことが可能となっている。
付与効果:《演算能力A+》《オンリーワンEX》《融合捕食B+》』
おお。
これはなんだか強そうな気配が漂っている。
暴食の機械竜……ちょっと名前が長いので、機械竜、と略しておく。
付与効果だが、《演算能力A+》は解説の必要もないだろう。
ガーディアンゴーレムやデストロイゴーレムと同様、自分なりに状況を判断し、適切な行動を取ってくれる。
残り2つは、次のような効果だ。
《オンリーワンEX》――活動状態の「暴食の機械竜」が2体以上の場合、ステータスが大きく低下する。
1体のみであれば、ステータスが爆発的に向上する。
《融合捕食B+》――魔物を喰らうことでエネルギーに変換する。また、特定の災厄を喰らい、その力を取り込む。
災厄としての暴食竜は、この世界に1匹しか存在できなかった。
それが付与効果に変換されたのが《オンリーワンEX》なのだろう。
ただ、「活動状態」という言葉がすこし曖昧なので、今後、細かく検証していきたい。
しかし何より気になるのは、もう1つの付与効果……《融合捕食B+》だ。
「特定の災厄を喰らい」とあるが、いったいどんな災厄を指しているのやら。
あえて推測するなら……ポイントは「暴食」の二文字だろうか。
キリスト教には「七つの大罪」という考え方がある。
アニメやゲームに出てくることも多いし、有名といえば有名かもしれない。
七つの大罪には「暴食」のほかに、「怠惰」「色欲」「嫉妬」「強欲」「傲慢」「憤怒」といった項目が並んでいたはずだ。
もしかすると今後、怠惰竜や色欲竜が出てきて、《融合捕食B+》の対象になるのかもしれない。
……暴食竜に比べると、なんだか弱そうだ。
怠惰竜とか、名前からしてやる気が感じられない。
色欲竜はやる気マンマンかもしれないが、それはたぶん別方向の“やる気”だろう。
そんな連中を取り込んだら、むしろ機械竜が弱くなりそうだな……。
まあ、現時点では推測に過ぎないし、実際はその場その場で対処していけばいい。
暴食竜がらみのアイテムは他にもあり、ここまでの道中でちょくちょく【創造】しておいた。
たとえば暴食竜の牙と骨を使った「グラットンアックス」。
グラットンは英語で暴食を意味し、武器名を日本語に直すなら「暴食の斧」だろうか。
【鑑定】での説明文はこうなっている。
『グラットンアックス
説明:暴食竜の力を宿した青白い大斧。
その刃は美しく、見る者を魅了する。
魔法を喰らい、その効果を刃に宿すことが可能である。
使い手の精神を狂わせ、死に至らしめる性質を持つ。
付与効果:《魔法喰いA+》《精神汚染S》《魅了B+》』
《魔法喰いA+》は面白そうなので、今後、魔法使いと戦うことがあれば試してみたい。
ただし《精神汚染S》は物騒なので、【付与効果除去】で消しておいた。
また、暴食竜の鱗からは「稲妻の籠手」という防具が作成できた。
こちらはただの防具ではなく、雷を発生させての攻撃もできる。
威力を調節すれば、敵を気絶させることも、黒コゲにすることも簡単だ。
機械竜。
グラットンアックス。
稲妻の籠手。
どれもまだ使う機会は訪れていないが、まあ、武器なんて使わなくていいのが一番だよな。
……そんなことを考えていたら、急に、船がグラッと大きく揺れた。
「きゃっ!」
少し離れたところで、ひとりの女性が声をあげた。
船の揺れのせいでバランスを崩し、転びそうになっている。
俺はこのときフェンリル生地のスーツを着ていたので《神速の加護S+》を発動させた。
サッと女性に駆け寄って、その身体を支える。
「大丈夫か?」
「え、あっ……ありが、とう……」
女性は金髪で、白い肌をしていた。
両耳はピンと尖っており、顔立ちはとても整っている。
種族としてはエルフになるのだろう。
この世界にも存在することは知っていたが、間近で見るのは初めてだ。
女性は紫色の瞳で、俺の顔をまじまじと眺めていた。
いったいどうしたというのだろう。
俺が首を傾げていると、ひとりの船員がデッキに出てこう叫んだ。
「お騒がせしてすみません! この先の海域で、スカーレット商会の船が海賊に襲われているとの連絡がありました! 安全のため、この船はひとまず近くの港に避難します!」
この世界では魔導技術により、初歩的ではあるが無線通信が実用化されつつある。
まだ一般には普及していないが、船同士の連絡には使われているようだ。
イメージとしては、モールス信号に近い。
そのおかげで、海賊の情報も手に入ったのだろう。
しかし、スカーレット商会、か。
どこかで聞いたことのある名前だ。
……思い出した。
クロムさんの商会じゃないか。
クロムさんというのは、俺がこの世界でいちばん最初に出会った、小太りの商人だ。
ここでスカーレット商会の名前を聞くとは思っていなかった。
まさかとは思うが、その船にクロムさんが乗ってたりしないよな?
クロムさん、海賊に殺されかかってないよな?
ううむ。
考え始めると、どうしても気になってしまうのが俺という人間だ。
このところ悪い予感は当たりがちだし、もしクロムさんが死んでしまったら、俺はずっと後悔するだろう。
やらない後悔より、やる後悔……という言葉もある。
「行くか」
俺は心を決めた。
機械竜などなどのテストもしたかったところだ。
ここは渡りに船ということで、海賊で試すとしよう。
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