エピローグ(2) 事後報告を済ませて、スリエの街を旅立ってみた。
添削を繰り返していたら短めになってしまった(汗)
俺と暴食竜の戦いは、こうして、誰にも知られないまま終わりを迎え……なかった。
スリエの街に戻ってみれば、深夜だというのに、大騒ぎになっていたのだ。
まあ、当たり前だよな。
今回の戦いを思い出してほしい。
俺はミサイルみたいな魔槍を連射し、結果、超ド級のクレーターを生み出した。
その轟音と震動はスリエの街まで届き、人々は驚いて飛び起きた。
いったい何が起こったのかと家の外に出てみれば、西のほうで、天を焦がすほどの爆炎が立ち上っている。
大騒ぎにならないほうがおかしい。
俺はすぐにメイヤード伯爵のもとに向かい、事情を説明した。
夜も遅い時間だったが、伯爵はパッチリと目を覚まし、興味深そうに俺の話を聞いていた。
「……つまり、コウ殿はまたしても竜退治を成し遂げたわけか! さすが《竜殺し》と呼ばれるだけのことはあるわい、ガハハハハ!」
俺の説明を聞き、メイヤード伯爵はとても痛快そうに笑い声をあげた。
「しかし、コウ殿がこの街にいてくれて本当によかった。もしその竜が暴れていれば、被害はとんでもないことになっていただろう。儂も死んでおったに違いない」
その可能性は、極めて高い。
もし暴食竜が暴れていれば、スリエの街など1時間もせずに壊滅していただろう。
「感謝するぞ。心から礼を言わせてくれ、ありがとう」
伯爵は、深く深く、頭を下げた。
「それにしても、コウ殿には世話になりっぱなしだな。今回も報奨金を出すが、しかし、それだけでは儂の気が済まん。……ううむ、どうしたものか」
「伯爵、気にしないでください。報奨金だけで十分です」
「なんと……! コウ殿は本当に無欲よな……!」
いや、ぜんぜん無欲じゃないぞ。
報奨金はきっちり貰おうとしてるわけだしな。
しかしメイヤード伯爵は、俺の返答にすっかり感動したらしく、熱っぽい口調でこう続けた。
「ならば今後、何か困ったことがあればいつでも儂を頼ってほしい。コウ殿のためならば、命を投げ出してでも助けになると誓おう」
別にそこまで気負わなくてもいいんだけどな。
ともあれ、今後、貴族がらみのトラブルに巻き込まれたときは遠慮なく頼らせてもらうとしよう。
* *
翌日からしばらくのあいだ、俺はスリエの街に留まることになった。
というのも、色々と片付けるべき案件が増えたからだ。
メビウスや暴食竜との戦いについて、冒険者ギルドに報告したり。
戦場の現場検証に立ちあったり。
街をあげての戦勝祝賀会が開かれ、その主賓として招かれたり。
まあ、なんというか、慌ただしい日々だった。
やがて人々が落ち着きを取り戻したころ、俺はアイリスを連れ、スリエの街を離れることにした。
本来の予定どおり、王都に向かうためだ。
リリィもリリィで王都に戻り、魔法学院に復帰するという。
どうせ行き先は同じだから、ということで、ここからは一緒に動かないか、と提案してみた。
「えっと、その……。わたし、邪魔じゃない、ですか……?」
「大丈夫よ、リリィちゃん。そうよね、コウ?」
「ああ」
俺は頷いた。
「わざわざ別行動する理由もないだろう。……それに、リリィが心配だしな」
リリィはまだ子供で、外見も可憐というか、気弱そうだ。
面倒な輩に目を付けられそうな雰囲気が漂っているし、実際、俺がリリィに初めて出会った時、彼女は2人組の魔術師に絡まれていた。
同じようなトラブルが王都への帰り道でも起こるかもしれない。
だったら、リリィも加えて3人で旅をしたほうがいい。
「わ、わかりました……! よ、よろしくお願いします……!」
「こちらこそよろしくね、リリィちゃん」
「よろしくな、リリィ」
そうして話がまとまったところで、俺たちは馬車に乗り込んだ。
メイヤード伯爵が手配してくれたもので、乗り心地もよく、俺たち3人だけの貸し切りだ。
ずいぶん贅沢をさせてもらっているが、それに見合う働きはしている……と思いたい。
馬車での旅は数日ほど続き、俺たちは港町に到着した。
ここからは船旅だ。
ファンタジー世界の船旅といえば、海賊やら海竜に出くわすのが定番だが、さて、どうなるだろうな。
願わくば、何事もなく王都に向かいたいものだ。
次回から3章、王都編になります。
これからも応援いただけると幸いです。よろしくお願いいたします!