第30話(2) 【災厄殺し】を手に入れた。
本日2回目の更新です。
アイリスは言う。
「わかった。わかったの……! あたしのスキルが……【竜神の巫女】が教えてくれた……! 暴食竜を止めるには、別の、正しい方法がある、って……!」
正しい方法?
つまり、いまのやりかたは間違っているのだろうか?
話を詳しく聞こうとしたところで、4体目の暴食竜が現れる。
俺は少し考えて【タクティカルサポート】を発動させた。
脳内のマップには、ゴーレムたちの位置情報が表示されている。
さきほど召集命令をかけたおかげで、全機、すでに近くまで来ている。
俺は意識を集中させ、ゴーレムたちに命令を下した。
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コウ:俺はアイリスから話を聞く。
そのあいだ、暴食竜を任せていいか?
ガーディアンゴーレムA~L:大丈夫デス!
デストロイゴーレムA~D:デストロイするデス!
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頼もしい返事だ。
ゴーレムたちはすぐに俺の命令を実行してくれた。
……時間でも稼いでくれれば上出来と思っていたが、ゴーレムたちは誰に似たのだか、やたらと殺意が高かった。
まず、ガーディアンゴーレムが魔導バリアを使い、暴食竜を拘束する。
そのうえで、デストロイゴーレムがレーザーの集中砲火を浴びせるのだ。
どちらも、本来の性能ならば暴食竜には太刀打ちできなかっただろう。
だが、いずれも【創造】時の付与効果によってパワーアップしたおかげか、1分もせずに暴食竜を仕留めていた。
これで4匹目だ。
俺はあらためてアイリスに向き直る。
「アイリス、暴食竜を止める方法があるのか?」
「……ええ」
アイリスは、さっきまでの動揺ぶりなど忘れたかのように、険しい顔つきで頷いた。
どこか悲壮な空気すら漂わせている。
「【竜神の巫女】が教えてくれたわ。このスキルを持つ者は、みんな、災厄を鎮めるための生贄なの。生まれながらにして、そういう役割を背負っているの」
それは本当だろうか?
俺はアイリスを【鑑定】する。
……スキル欄の【竜神の巫女】に意識を向けると、そこにサブスキルの表記があった。
『災厄の生贄:ランクEX
このサブスキルは災厄に遭遇したときのみ解放される。
遭遇した災厄を鎮めるための力および知識を得る』
なるほど。
【災厄の生贄】が解放されたことで、アイリスは暴食竜を止める方法を知ったのだろう。
「暴食竜は一種の現象みたいなものよ。殺してもすぐに代わりが現れる。……それを止めるには、あたしが生贄になるしかないの」
「……アイリスが生贄になれば、もう、暴食竜は出てこないのか?」
「たぶん、きっと。……ううん、絶対に大丈夫。だって、そういうスキルだもの。信じてちょうだい」
アイリスはまっすぐ俺を見つめると、小さく頷いた。
赤色の瞳は潤み、その身体は震えていた。
「あはは。あたし、いちおうAランク冒険者なんだけどなぁ……。さすがに、死んじゃうのは、恐いかも」
「誰だって死ぬのは恐い。当たり前だ」
「そう、だよね。……ねえ、コウ」
アイリスが、ふっ、と微笑んだ。
俺の耳元に顔を寄せてくる。
「恐いから、あたしに勇気をちょうだい。人生最後の思い出に、えっと、死ぬ前に一度くらい、キ、キ、キ……」
「話を遮って悪いが、死ぬ必要はない」
俺はアイリスから少し身体を離すと、暴食竜のほうを指差した。
「あれを見ろ、アイリス」
暴食竜は、現在進行形でゴーレムに狩られつつあった。
俺が初めに倒した3匹を含め、これで6匹目だ。
ここまでの経験値で俺はレベル75となっている。
ゴーレムたちも慣れてきたのか、流れるような動きで暴食竜を処理していく。
暴食竜は【鑑定】によると「真の災厄」らしいが、そんな威厳はすっかり消え去っていた。
「少なくとも俺は、あの程度の雑魚のために、アイリスを差し出すつもりはない」
「で、でもっ、暴食竜を封印するには、あたしが生贄になるしかない、よね……?」
「どうだろうな」
暴食竜を殺しても、新たな暴食竜が現れる。
だったら、殺さなければいいだけだ。
「古代遺跡に閉じ込めるなり何なり、方法はいくらでもある」
細かい手段は後で検討するが、いずれにせよ、アイリスが犠牲になる必要性はゼロだ。
「それに、俺の力はまだまだ伸びしろがある。災厄を消し去るスキルが備わったらどうする? ……可能性がある限り、諦める必要はない」
……俺がアイリスにそう告げた直後のことだった。
頭の中に、いつもの声が響く。
『特定条件の達成を確認しました。
条件1:災厄の竜を5回以上討伐する。
コウ・コウサカの討伐回数は7回です。
うち1回が“極滅の黒竜”、うち6回が“虚ろなる暴食竜”です。
条件2:【災厄の生贄】を災厄に捧げない。
コウ・コウサカはアイリスノート・ファフニルの提案を断りました。
条件3:レベル70以上
現在、コウ・コウサカはレベル75です。
評価判定……EX。
規格外の存在と認定します。
グランドスキル【災厄殺し】が解放されます。
また、【鑑定】スキル内サブスキル【災厄分析】が解放されます』
どうやら延々と暴食竜を倒してきたことで、新たなスキルの取得条件を満たしたらしい。
まずは【災厄分析】を発動させる。
すると、暴食竜の【鑑定】結果に新たな文章が追加された。
『虚ろなる暴食竜
黒竜の死によって地上に解き放たれる真の災厄。
その肉体には魂を宿していない。
竜神の巫女を生贄として捧げよ。
さもなくば、暴食竜は多くの生者と死者の魂を喰らいながら大きな破壊をもたらすだろう。
* *
規定1 黒竜が討伐された場合、そこから最も近い満月の夜に「虚ろなる暴食竜」が出現する。
(討伐後、黒竜が蘇生されたとしても、規定1を満たしたものとする)
規定2 「虚ろなる暴食竜」が討伐された場合、すぐに新たな「虚ろなる暴食竜」が出現する。
(出現回数に上限はなく、この処理を無限に繰り返す)
規定3 【災厄の生贄】を持つ者を喰らった場合、「虚ろなる暴食竜」は地下で1万年の眠りにつく』
ふむふむ。
まるで仕様書の下書きみたいな文章だな。
ブラック企業でコンピューター関連の仕事をやっていた俺としては、どんなふうにプログラムを組むか考えたくなるが、そこは後回しだ。
厄介なのは規定2で、このせいで暴食竜との戦いが終わらない。
本来なら【災厄の生贄】持ちを捧げて、一万年後に問題を先送りするところなんだろう。
だが、俺には【災厄殺し】がある。
これは【災厄分析】を済ませた災厄に対し、そのルールを完全無視して消滅に追い込むスキルだ。
要するに、強制終了および削除、といったところか。
今後、災厄の竜やら何やらに遭遇しても、あっという間に片付けることができるだろう。
「……やるか」
ゴーレムたちは、いま、ちょうど12匹目の暴食竜を仕留めたところだ。
経験値は俺に入ってくるものの、そろそろレベルも上がらなくなってきた。
13匹目の暴食竜が現れるタイミングで、俺は【災厄殺し】を発動させる。
俺の右手に、銀色の弓矢が現れた。
使い方は【器用の極意】が教えてくれる。
弓を構え、矢の先を暴食竜に向ける。
暴食竜は、この弓矢が何なのか、本能的に理解したのだろう。
まるで対抗するかのように大きく咆哮した。
「グオオオオオオオオオオオオオオッ!」
暴食竜は口を開き、雷撃のブレスを放つ。
だが、それよりも早く、俺は矢を放っていた。
「……行けっ!」
矢はきらめくような輝きを纏い、大きな銀色の流星となった。
雷撃のブレスを吹き飛ばし、暴食竜に激突する。
閃光が弾けた。
まばゆい光のなかで、暴食竜が銀色の粒子へと分解されてゆく。
数秒もしないうちに跡形もなく消え去り、再び現れることはなかった。
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