第30話(1) 暴食竜を倒しまくってみた。
長くなったので2分割します。
俺が暴食竜を指差すと、魔槍の付与効果……《持たずの魔槍EX》が発動した。
500本の魔槍が宙に浮かび上がり、その先端部を暴食竜に向ける。
「……行け」
俺がそう命じると、魔槍の群れ (?)は一気に暴食竜へと殺到した。
暴食竜の青白い身体のあちこちに、魔槍が深々と突き刺さる。
魔槍の先端はドリル状になっており、激しく回転しながら、暴食竜の身体を抉っていく。
暴食竜が、呻き声をあげた。
「グゥゥゥゥゥゥッ……! グァァァァァァァァァァァッ!」
魂を持たない存在らしいが、痛みはきちんと感じるようだ。
暴食竜の声は、ひどく苦しげに響いている。
だからといって、手加減するつもりはない。
俺は魔槍に命じる。
「爆ぜろ」
瞬間――
魔槍に込められた魔力が暴走し、暴食竜の体内深くで大爆発を起こす。
爆発したのは、1本だけではない。
500本の魔槍が、一斉に、炸裂した。
爆発の威力は、凄まじいものだった。
天を焦がすほどの爆炎が生まれ、衝撃波によって地面がめくれあがる。
俺は【器用の極意】のおかげで爆発の規模をあらかじめ理解していた。
アイリスの腕を掴むと【空間跳躍】を発動させ、爆発に巻き込まれないようその場から離脱する。
もちろん、その場にいたガーディアンゴーレムもアイテムボックスに回収した。
俺がワープしたのは、南に1kmほど離れた地点だ。
小高い丘になっており、北側の草原を見渡すことができる。
炎が晴れると、かつて草原だった場所は、巨大なクレーターと化していた。
中心部は深く、おそらく、50メートルを超えるだろう。
見渡すかぎり一面の地面が半球状に削れ、まるで溶岩のように赤熱している。
うっかり足を踏み入れれば、火傷どころでは済まないはずだ。
……被害の規模から推定すると、ディアボロス・アーマーを着てダーク・バーストを撃つより、魔槍500本を一斉発射するほうが強そうだ。
俺の隣で、アイリスが茫然と呟いた。
「すごい威力ね……。コウって、戦うたびに10倍くらい強くなってない……?」
「そんなわけ……あるかもな」
ここまでの戦いを振り返ってみると、アイリスの意見はわりと正しい。
戦うたびに新しいスキルが解放されるし、【創造】のレシピも増えていく。
その相乗効果により、俺は猛烈な勢いで強化されていた。
「これだけの爆発だし、さっきの竜もさすがに生きてないわよね……」
アイリスの発言は、アニメやマンガだったら、敵の生存フラグになっていただろう。
味方が「やったか!?」と叫んだ場合、大抵の場合、敵は生きているし、むしろ無傷のことが多い。
敵の逆襲によってピンチに陥るまでがテンプレだ。
だが、これはアニメでもマンガでもない。
現実だ。
きっちりと暴食竜は死んでいる。
なぜ分かるかと言えば、俺のアイテムボックスに暴食竜の死体が収納されているからだ。
ちなみに暴食竜の魂は回収されていない、というか、そもそも魂を持たない存在だ。
暴食竜の正しい名前は『虚ろなる暴食竜』、魂が欠けているために『虚ろ』なのだろう。
ともあれ、戦いは終わった。
俺はいつもどおり、最後の仕上げとして【エネミーレーダー】で周囲を警戒する。
念のため、他のゴーレムにも召集命令をかけておこう。
……ん?
【エネミーレーダー】に反応があった。
場所は、ちょうど、さっきまで暴食竜がいた場所だ。
どういうことだ?
俺が首を傾げたのと、異変が起こったのはほぼ同時だった。
暴食竜がいたあたりの空間がグニャリと歪み、青白い閃光がはじけた。
……次の瞬間、そこには予想外のものが出現していた。
巨大なクリスタルドラゴン。
さっき倒したはずの、暴食竜だ。
隣のアイリスが、驚きの声をあげる。
「うそ……! まさか、復活したの……!?」
「……どうだろうな」
俺のアイテムボックスには「虚ろなる暴食竜の死体×1」が収納されたままだ。
よって、死体が蘇ったとは考えにくい。
もしかすると「虚ろなる暴食竜」は種族名のようなもので、これは別の個体なのかもしれない。
暴食竜は激しい咆哮とともに、その全身を震わせた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
竜の背中あたりでパチパチと火花が散り、稲妻が迸った。
稲妻は10本以上、いずれもジグザグの軌道を描きながら、こちらへと迫ってくる。
直撃すれば、間違いなく黒焦げになるだろう。
俺はアイテムボックスから、さっき回収したばかりのガーディアンゴーレムを出撃させる。
「バリア展開だ。全力で防げ」
ガーディアンゴーレムは返答代わりに駆動音を響かせ、両手を高く掲げた。
俺たちを守るように魔力の壁が展開され、そこに稲妻が激突した。
バリアが白く染まり、激しく振動した。
だが、稲妻はバリアを突破できない。
俺の【指揮効果EX】によってガーディアンゴーレムの性能が上がっているからだろう。
稲妻が消え去ると同時に、バリアが解除される。
暴食竜は接近戦を挑むつもりらしく、鋭く牙をむいて前傾姿勢になると、こちらに向けて走り出そうとした。
……悪いが、相手の思惑に乗るつもりはない。
俺はアイテムボックスから「月光の大剣アルテミス」を取り出す。
魔力を込めて、一気にフルパワーに持っていく。
「はあああああああああああああああああああああああああっ!」
左から右へ、大きく薙ぎ払った。
その軌道をなぞるように光の刃が生まれ、暴食竜へと襲い掛かる。
命中した。
暴食竜の両足を切断し、地面に転ばせる。
「……もらった」
俺は大剣を掲げ、《月の祝福EX》を発動させた。
空の満月はいつのまにか雲に隠れていたが、「月光の大剣アルテミス」にとっては問題にならない。
月の力を完全解放する。
大剣が、輝きを放つ。
黄金色の光だ。
大剣を振り下ろすと、黄金の輝きが激流となって放たれ、暴食竜を呑み込んだ。
それどころか大地までも切り裂き、深い地割れを作っていた。
アイテムボックスを確認すると「虚ろなる暴食竜の死体×2」になっている。
経験値もしっかり入っており、1体目のぶんと合わせて、俺はレベル72に上がっていた。
だが達成感を味わう暇はない。
3体目の暴食竜が現れたのだ。
「まるで無限ループだな……!」
俺はボヤきつつ、大剣を再び構えた。
……だが、剣の力を解き放つより先に、予想外の増援がやってくる。
それは空から、大きな唸り声とともに現れた。
「ガウウウウウウウウウッ!」
極滅の黒竜だ。
メビウスとの戦いが終わったあともネクロアースを維持し、周辺の警戒を命じていた。
きっと俺と暴食竜の戦いに気付いて駆けつけたのだろう。
黒竜はものすごい速度で急降下し、暴食竜に体当たりした。
いちおう補足しておくと、この黒竜はアンデッドだ。
闇魔法のネクロアースで復活させており、その身体は土でできている。
黒竜の身体は、暴食竜に体当たりした反動で、左半分がボロッと欠けてしまった。
にもかかわらず、黒竜は戦闘を続けようとする。
暴食竜に食らいつくと、自分自身が巻き込まれるのも承知で、ゼロ距離から火炎弾を放った。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「グゥゥゥゥゥゥゥッ……! グァッ……!」
黒竜のほとんど自爆のような攻撃により、3匹目の暴食竜は息絶えた。
死体はやはり俺のアイテムボックスに収納される。
黒竜の身体はついに限界を迎えたのか、ボロボロと崩れてしまった。
黒竜の魂は【魂吸収】の効果で俺のもとに戻ってくる。
「ありがとな、黒竜」
俺が呟くと、黒竜の魂が嬉しそうに小躍りした、ような気がした。
メビウスと戦ったときから感じていたが、なんとなく、俺は黒竜から慕われてるというか、忠誠心を向けられているように思える。
……それはさておき、ひとつ、気になることがあった。
アイリスの様子がおかしいのだ。
虚空を見つめ、ぼうっとしている。
「アイリス、どうした?」
「あ、ああっ……!」
アイリスは両手で頭を抱える。
「わかった。わかったの……! あたしのスキルが……【竜神の巫女】が教えてくれた……! 暴食竜を止めるには、別の、正しい方法がある、って……!」
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