第29話 ミサイルみたいな魔槍を作ってみた。真の災厄が現れた。
というわけで、毎晩恒例(?)の【創造】タイムだ。
その前に少しだけ整理しておきたいことがある。
メビウスとの戦いで俺はレベル65となり、【創造】のサブスキルとして【覚醒進化】を手に入れた。
そして【覚醒進化】により「英雄殺しの大剣」を「月光の大剣アルテミス」に進化させたわけだが、その際、どういうわけか【創造】のランクが13に上がっていた。
どうやらサブスキル (【覚醒進化】)の経験値は、その“親”にあたるメインスキル (【創造】)にも加算されるようだ。
……なんだかややこしい話になってしまったが、要するに、【創造】がランクアップしたということだ。
ランクアップに伴い、レシピが増えていた。
新たに追加されたレシピは、ニードルタートルに関係するものだった。
ニードルタートルの死体を【アイテム複製】で2つに増やしたあと、片方を【自動解体】にかける。
すると、以下のアイテムが手に入った。
ニードルタートルの大トゲ ×2000
ニードルタートルの甲羅 ×1
「トゲ、多すぎじゃないか……?」
俺は、そう呟かずにいられなかった。
とはいえ、ハリネズミなどは背中に5000本以上のトゲがあるというし、トゲ業界 (?)では少ない方かもしれない。
この大トゲだが、どうやら【素材錬成】で上位の素材へと変換できるようだ。
レシピとしては次のようになっている。
『ニードルタートルの大トゲ ×20 → タラスクの大トゲ ×1』
タラスク。
その名前は、昔、RPGなどで見た覚えがある。
元ネタは中世ヨーロッパの伝承で、亀の甲羅を持つドラゴンだ。
「タラスクの甲羅って、たしか、トゲが何本も生えてるんだよな」
そういう意味じゃ、ニードルタートルの上位素材としてタラスクが出てくるのは決して間違いじゃないだろう。
俺は【素材錬成】を実行した。
ニードルタートルの大トゲ2000本を、すべて、タラスクの大トゲに変換する。
2000÷20=100
タラスクの大トゲが、ちょうど100本手に入った。
【鑑定】してみると、こんな説明文が頭に浮かぶ。
『タラスクの大トゲ
説明:亀竜タラスクの甲羅から取れた、鋭いトゲ。
タラスクの主な攻撃手段は、魔力によってこのトゲを飛ばすことである。
トゲは灼熱の炎を宿しており、敵を貫いたあとに大爆発を起こす。
神話の時代、タラスクはこのトゲを全世界に放ち、地上のほとんどを焦土に変えた』
ええと。
どうやらこの世界のタラスクは、ずいぶん物騒な存在らしい。
しかもこのトゲ、鋭いだけじゃなく、爆発もするという。
「……要するに、ミサイルみたいなものか?」
魔力でトゲを飛ばす点では、ニードルタートルと共通している。
もしかすると、ニードルタートルの祖先がタラスクなのかもしれない。
このトゲを素材として【創造】することで、新たな武器が作れるようだ。
レシピを確認してみよう。
『タラスクの大トゲ ×1 → タラスクの魔槍 ×5』
1本のトゲから5本の槍が作れるらしい。
トゲは大きいようなので、そこから複数の槍を削り出してくるようなイメージだろうか。
早速、【創造】を発動させてみる。
『タラスクの魔槍
説明:タラスクの大トゲから削り出された魔槍。
この槍は“持たずの魔槍”である。
敵を指差せば、魔槍はそれに反応し、ひとりでに宙を舞う。
音よりも速くその敵を貫き、粉々に吹き飛ばすだろう。
【創造】時に付与された効果により、一定時間で再生してアイテムボックスに戻る。
付与効果:《持たずの魔槍EX》《自己修復A+》《自動帰還A+》』
ほほう。
持たずの魔槍か。
タラスクの大トゲの性質がそのまま武器になったような感じだな。
敵を指定すれば、自動的に飛んでいき、命中時に爆発するという。
「……完全にミサイルだよな、これ」
果たしてどれだけの威力なのだろう。
明日以降、魔物と遭遇することがあれば、実験台になってもらおうか。
とりあえず、残りの大トゲをすべて魔槍にしておこう。
合計、500本。
ものすごい数だ。
さて。
他に【創造】で作れそうなものは……ないな。
普段だったら寝るところだが、なぜだか目が冴えている。
緊張感のスイッチがOFFにならないのだ。
今夜はもう一波乱あるような、悪い予感がずっと付き纏っていた。
それもあって、俺はゴーレムたちをアイテムボックスに戻していない。
街の周辺を巡回させ、少しでも異変があれば連絡するように命じていた。
「……とりあえず、本でも読むか」
眠気を呼び起こすには、本を読むのが一番だ。
俺は【書籍情報処理】を起動した。
大賢者メビウスの研究室にあった本をまとめて取り込んだものの、内容のすべてを把握したわけじゃない。
事件の早期解決に必要な部分だけを抽出して、パパッと目を通しただけだ。
眠くなるまでのあいだ、どんな本があるのかチェックしておこう。
俺は「それぞれの本の概要を教えてくれ」と念じる。
すると1秒ほどの間をおき、各書物のタイトルと紹介が、パパパッ! と脳内でリスト化された。
本当に便利だよな、このスキル。
俺はあらためて【書籍情報処理】に感謝しながら、リストを読んでいく。
「……ん?」
ひとつ、気になる本があった。
タイトルは『黒竜の伝承について』というもので、五千年前、当時の考古学者が記したものだ。
俺はアイテムボックスから『黒竜の伝承について』を取り出し、直接、読むことにした。
【言語習得】のおかげで、古代語だろうがスラスラと読める。
パラパラと飛ばし読みをしていくと、後半の章に、こんなことが書いてあった。
――我々はいま、黒竜に立ち向かおうとしている。
――だが、災厄は黒竜だけなのだろうか?
――ある伝承は語る。
――黒竜亡きあと、真の災厄が現れる。
――名を、虚ろなる暴食竜、という。
――竜神の巫女を生贄として捧げよ。
――さもなくば、暴食竜は多くの生者と死者の魂を喰らいながら大きな破壊をもたらすだろう
俺の脳裏に、ふと、メビウスの言葉がよぎった。
――黒竜が討伐された以上、我の復活をこれ以上遅らせることはできなかった。
メビウスは、なぜ、今日を選んで復活したのか。
どうして明日以降にしなかったのか。
「……明日以降にできない事情があったのか?」
たとえば、黒竜以上の災厄によって計画を滅茶苦茶にされる可能性があったから、とか。
虚ろなる暴食竜。
多くの生者と死者の魂を喰らいながら、大きな破壊をもたらす存在。
それが、近いうちに現れるのだろうか。
……などと考えていたら、急に、ドアが激しくノックされた。
トントン! トントントントン!
さらに、リリィの声が聞こえてくる。
「コ、コウさん……! 大変、です……! アイリスさんが、アイリスさんが……!」
* *
……リリィの話によると、どうやら不可解な事態が起こっているらしい。
この日、アイリスとリリィは同じ部屋に泊まっていた。
2人は色々と語り合っていたようだが、夜も遅いしそろそろ寝よう……となったころ、リリィの目の前で異変が起こった。
アイリスの姿が、突然、消えてしまったのだ。
「アイリスさんの身体が、青白い光に包まれたかと思ったら、急に、その場から、消えてしまったんです。まるで、転移魔法みたい、でした……」
リリィは驚き、大慌てで俺のところに駆け込んできた、というわけだ。
俺が話を聞き終えたのと同じタイミングで、脳内に、チャットめいたウィンドウが開く。
【タクティカルサポート】が持つ機能のひとつ、ゴーレムとの通信だ。
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ガーディアンゴーレムA:マスター、緊急事態デス!
西の草原に、竜が現れまシタ!
赤毛の女性もいマス!
___________________________
赤毛の女性とは、アイリスのことだろう。
俺はすぐさま【空間跳躍】を発動させた。
ガーディアンゴーレムAのいる場所へとワープする。
そこは草原だった。
風はなく、それどころか、物音ひとつしない。
不気味なくらいに静まり返っている。
満月を背にして、巨大な竜が、二本足で立っていた。
竜の身体は青白くキラキラと輝いている。
クリスタルドラゴン。
そんな単語が頭をよぎる。
俺は【鑑定】を発動させる。
『虚ろなる暴食竜
黒竜の死によって地上に解き放たれる真の災厄。
その肉体には魂を宿していない。
竜神の巫女を生贄として捧げよ。
さもなくば、暴食竜は多くの生者と死者の魂を喰らいながら大きな破壊をもたらすだろう』
黒竜の死によって解き放たれる真の災厄、か。
どうやら『黒竜の伝承について』の内容は正しかったらしい。
竜神の巫女というのも気になるフレーズだ。
アイリスが、ちょうど、そんな名前のスキルを持っていた。
ただの偶然とは思えないし、事情を聞きたいところだが、いまはそれどころじゃない。
アイリスは、ちょうど、暴食竜のすぐ近くにいた。
おそらく、暴食竜の力か何かにより、ここに転移させられたのだろう。
アイリスはその場から動けないでいる。
暴食竜の威圧感に呑まれているのかもしれない。
「グォォォォォォ……!」
暴食竜は低い唸り声を発すると、前脚を伸ばしてアイリスを捕まえようとした。
……悪いが、仲間を奪われるわけにはいかない。
以前、俺はアイリスに腕輪を贈っている。
竜の腕輪。
その効果のひとつに《緊急召喚EX》というものがある。
腕輪の装着者……この場合はアイリスを、俺の居場所へとワープさせる。
「……来い、アイリス」
《緊急召喚EX》を発動させた。
アイリスはふだん、竜の腕輪を肌身離さず持ち歩いていた。
風呂の中まで付けたままと聞いたときは呆れたが、まさかここで役に立つとは思っていなかった。
目の前で光が弾けたかと思うと、そこに、アイリスが現れた。
「コ、コウ!? ええと、その、あたし、全然状況が把握できてないんだけど……」
「説明は後でする。俺の後ろにいろ」
俺は、アイリスを庇うように前へ出る。
暴食竜は、無機質な視線をこちらに向けていた。
【鑑定】によれば、魂がないとかなんとか。
たしかにその眼からは、感情めいたものがまったく伝わってこない。
まるで監視カメラのレンズのようだ。
まあいい。
暴食竜が何者であろうと、こちらに害を及ぼすなら、排除する。
俺はアイテムボックスを開く。
使う武器は、さっき【創造】したものだ。
タラスクの魔槍。
1本だけ、なんてケチなマネはしない。
500本、すべて出現させる。
俺は、暴食竜を指差す。
「行け」
500本の魔槍は、ゆらり、と空中に浮かび上がったかと思うと、一斉に暴食竜へと殺到した。