第5話 クロムさんの屋敷に招待された。
俺はBランク傭兵のドクスを撃退し、ノリのいい野次馬から胴上げされまくったわけだが、いまは衛兵の詰め所で取り調べを受けていた。
まあ、当たり前か。
細かい事情を抜きにすれば、俺は衛兵の目の前でケンカをやらかしたわけだしな。
ただ幸いなことに、衛兵らは俺に対してかなり同情的な様子だった。
「コウさん、貴方のしたことが正当防衛なのは誰の目にも明らかです。そう身構えることはありません。あくまで行政上の手続きとして調書を取るだけですので、ご協力をお願いします」
取り調べは、取り調べという言葉の意味を忘れそうになるくらい和やかなものだった。
事実関係のチェックはそこそこに、最後はほとんど雑談のようになっていた。
「あまり大声では言えませんが、実は最近、傭兵ギルドがらみのトラブルが増えているんですよ……」
「はあ」
初対面の俺に愚痴られても困るが、逆に言えば、愚痴らずにいられないほどトラブルが多いようだ。
「冒険者ギルドのみなさんはマナーがいいんですけど、傭兵ギルドはちょっと……。コウさんも、気を付けてくださいね」
「まさかとは思いますけど、『ドクスの敵討ち!』みたいな感じで傭兵が襲ってきたりしませんよね」
「それは大丈夫です。ドクスは他の傭兵からも嫌われていましたから」
マジか、嫌われ者だったんだな、ドクス……。
ちなみにドクスは街中で剣を抜いたこともあり、犯罪者として収監されることになった。
同じパーティの2名も余罪の可能性があるとして、厳しい追及を受けているらしい。
たった3人のサンプルで判断するのは早計かもしれないが、傭兵ってクズしかいないのか……?
* *
取り調べが終わったころにはすっかり夜も更けていた。
本来、街に入るには何らかの身分証明書が必要だが、俺は何も持っていない。
けれどもクロムさんが身元引受人になってくれたおかげで、無事、オーネンの街に入ることができた。
「ありがとうございます、クロムさん」
「いえいえ、コウ様は命の恩人ですからな。これくらいは当然です。今日はぜひ、私の屋敷に来てください」
「ご迷惑ではありませんか?」
「いいえ、とんでもない! それに、この時間では宿を探すのも大変でしょう。どうか恩返しをさせてください」
ここまで言われたなら、断る方がかえって無礼だろう。
俺はクロムさんの屋敷に向かうことにした。
余談だが、俺が取り調べを受けているあいだに、クロムさんは傭兵ギルドに今回の事件をきっちり報告して「もう二度と傭兵ギルドには依頼しない」と伝えたらしい。
俺もそれがいいと思う。
詰め所を出ると、ちょうどそこには小奇麗な馬車が止まっていた。
執事服を着た初老の男性は、クロムさんを見ると丁寧にお辞儀をした。
「大旦那様、お迎えに上がりました」
「ご苦労だったな、コバル。……ああ、こちらは執事のコバルです。コウ様、屋敷までは馬車で行くとしましょう」
オーネンの街並みは中世風というより近代的で、魔法の灯が夜を明るく照らしていた。
夜も遅い時間だが人通りは多い。
人々はこの馬車を見るなり大慌てで道を空けているが、もしかするとクロムさんはかなりの有力者ではないだろうか?
思い返してみれば、衛兵たちもクロムさんに対してやけに丁寧な態度だったしな。
そんな有力者に貸しを作れたと考えるなら、俺の異世界生活は、わりあい順調な滑り出しかもしれない。ありがたい話だ。
馬車はやがて閑静な住宅街に入る。
大きな屋敷が立ち並ぶなか、ひときわ立派な建物の前で止まった。
「それでは参りましょうか、コウ様」
「ええと、お邪魔します……」
屋敷に入ってみれば、使用人と思しき男女がずらりと玄関に並んでいた。
やっぱりめちゃめちゃ金持ちだ、この人!
* *
預かっていた荷物と馬車を返したあと、夕食ということになった。
クロムさんの屋敷では専属のシェフを雇っているらしく、内容はかなり豪勢なものだった。
イメージとしては、フランスのコース料理に近い。
前菜とスープから始まり、魚料理、肉料理、デザート。
とくに肉料理の「オーネン地鶏のロースト」はやわらかな鶏肉を噛むたび、うまみを孕んだ肉汁があふれて非常に美味かった。
夜はそのまま屋敷に泊まることになる。
客間は高級ホテルのように豪華で広く、ベッドもフカフカだった。
のんびりと横になりながら、俺は脳内でアイテムボックスを開く。
現在、中身はこうなっている。
ヒキノのぼう ×10
ヒキノの木剣 ×10
ヒキノの木槍 ×9
ヒキノの木槍(血染め) ×1
ヒキノの木槌 ×10
ヒキノの食器一式 ×10
ヒキノのテーブル ×10
ヒキノの椅子 ×9
ヒキノの椅子(破損) ×1
アーマード・ベアの生首 ×1
アーマード・ベアの死体(首なし) ×1
アーマード・ベアの魂 ×1
「ヒキノの木槍(血染め)×1」はアーマード・ベアを仕留めたときのもの、「ヒキノの椅子(破損)」は傭兵のドクスを倒したときのものだ。
そちらに注意を向けると、すぐ横に「修復」という項目が現れた。
これは【創造】スキルに含まれる力のひとつで、魔力を消費することにより、アイテムを新品同然の状態に戻せるらしい。
必要魔力はごくわずかだったので、「修復」を発動させておいた。
次に、「アーマード・ベアの生首 ×1」と「アーマード・ベアの死体(首無し)×1」に対して【自動解体】スキルを発動させる。
その結果、いろいろな種類の素材が手に入った。
大きな骨 ×5
鎧熊の頭蓋骨 ×1
鎧熊の毛皮 ×10
鎧熊の外殻 ×10
鎧熊の剣爪 ×10
鎧熊の肉 ×12
新しい素材を手に入れたことで、それに応じたレシピが頭に浮かぶ。
それじゃあ、寝る前にちょっと【創造】で新装備を作ってみようか!