第24話 メビウスの居場所に乗り込んでみた。
アンデッドの群れは壊滅した。
あとはメビウスと決着をつけるだけだ。
ただ、北の洞窟まではかなり遠い。
俺はネクロアースを発動させ、極滅の黒竜を呼び出した。
「ガウ」
黒竜は長い首をくるりと回し、俺のほうを向いた。
「ガウウウ」
「……『油断するな、気を引き締めろ』って言いたいのか?」
それは完全なあてずっぽうだった。
だが、どうやら正解だったらしく、黒竜は深く頷いた。
「ガウガウ」
黒竜はどこか嬉しそうだ。
機嫌よさそうに身体をかがめ、背に乗るよう促してくる。
黒竜の背はでこぼこしており、ささくれた鱗のなかには座席代わりになる部分も多い。
俺たちがほどよい場所に腰掛けると、黒竜はゆっくりと翼を動かした。
黒竜の背にはなにか不思議な力が働いているらしく、揺れを感じることもなく、のんびり座ることができた。
鱗がゴツゴツしてる点さえ除けば、現代の飛行機と変わらない。
……黒竜が飛行を始めてほどなく、頭のなかに声が聞こえた。
『レベルが64になりました』
アンデッドの大群を焼き払ったことで、俺はすでにレベル64となっていた。
現在、ゴーレムたちは残敵の掃討にあたっているが、その経験値が俺に入り、レベルアップしたのだろう。
『【異世界人】スキル内サブスキルの取得条件を満たしました。【タクティクスサポート】が解放されます』
どうやら俺は新しいスキルを獲得したらしい。
いったいどんな効果だろうか?
……なるほど。
簡単にまとめると、【タクティクスサポート】は「古代兵器を率いての戦闘を補助するスキル」のようだ。
イメージとしては最近の『三国○』や『信長○野望』みたいな、リアルタイム要素のある戦略シミュレーションゲームに近い。
【タクティクスサポート】を発動させると、【オートマッピング】の脳内地図に、ゴーレムたちの位置情報が表示された。
個々のゴーレムに意識を向ければ、視界を共有することも可能らしい。
さらにはテレパシーめいた機能もついており、念じるだけで命令が可能なようだ
試しに使ってみようとしたら、頭の中で、チャットみたいなウィンドウが開いた。
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コウ:全員、聞こえるか?
ガーディアンゴーレムA:アッ、マスターから連絡ダ!
ガーディアンゴーレムB:スゴイ、マスターと話せるゾ!
ガーディアンゴーレムC:アンデッドを撃破しまシタ!
デストロイゴーレムA:ボクもやっつけたゾ! ホメテほしいゾ!
コウ:よくやったな。各自、そのまま戦闘を続行してくれ。
ガーディアンゴーレムA~L:了解デス!
デストロイゴーレムA~D:ワカッタゾ!
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どうやら向こうからの報告も受け取れるらしい。
これは便利だな。
もうすぐアンデッドの駆逐も終わるが、そのあとは念のため、ゴーレムたちに周辺を監視させておこう。
黒竜からも「気を引き締めろ」ってアドバイスがあったし、世の中、なにが起こるか分からない。
メビウスを倒したと思ったら予想外の伏兵に襲われました、油断していたせいで大ピンチ!
そんな展開は絶対にお断りだからな。
* *
やがて俺たちは、北の洞窟に辿り着いた。
辿り着いたんだが……奇妙なことになっていた。
アイリスが、茫然としながら呟く。
「洞窟が、消えてる……?」
そう。
北の洞窟とやらは消滅しており、代わりに、巨大なクレーターが生まれていた。
まるで隕石が落ちてきたあとみたいな光景だった。
……リリィが、俺のほうを向いて呟いた。
「コウさん……『メビウスの魔力を逆探知して攻撃魔法を炸裂させた』って、言ってました、よね……?」
「ああ、その通りだ」
俺は頷く。
「メビウスの体内に、ダーク・バーストを撃ち込んでおいた」
「たぶん、そのせいです、よね……?」
俺はまったくの手加減なしにダーク・バーストを発動させた。
その結果、洞窟ごとメビウスを吹き飛ばしてしまったのかもしれない。
隣で、アイリスが驚いたように声をあげた。
「ダーク・バーストって最下級の攻撃魔法よね……? あたしの知ってるダーク・バーストと違い過ぎるんだけど……」
「魔術師の、実力によって、魔法の威力は変わる。魔法学院では、そう、習いました……」
「コウが敵じゃなくって、ほんとうによかったわ。剣も魔法も超一流だし、人間の枠を飛び出してるわよね……」
アイリスは感嘆のため息をつくと、さらに言葉を続けた。
「突っ込むかどうか迷ってたけど、この竜って、オーネンの黒竜よね……。黒竜を当然のように復活させてるのも驚きだし、竜人のあたしとしては竜の背中に乗せてもらうとか恐れ多すぎて心臓が爆発しそうなんだけど、いまはメビウスを退治するのが先だから細かい話はあとでいいわ、聞いてくれてありがと」
お、おう?
なんだかよく分からないが、アイリスなりに心の整理をつけたようだ。
「というか、メビウスってまだ生きてるのかしら……。この爆発じゃ、いくら古代の大賢者でも……」
「いいや、生きてるぞ」
俺は先程から【エネミーレーダー】を発動させているが、ちょうど爆心地のあたりに反応があった。
黒竜に命じ、高度を下げながら爆心地に近付いていく。
そこには、ボロボロの衣服を着たスケルトンが倒れていた。
骨はところどころ焼け焦げ、白い蒸気をあげている。
これが、おそらく、メビウスだ。
確認のために【鑑定】を使っておこう。
『メビウス・メギストリス(種族:ノーライフキング)
説明:禁呪により最高位のアンデッドとなった古代の魔術師。
五千年の永きに渡って数多くの魂を喰らい、強大な力を手に入れた。
数万匹を超えるアンデッドを従える姿は、さながら、神話時代の魔王そのもの。
生贄が足りなかったため骨だけの肉体となっているが、物理防御・魔法防御ともに高い。
たとえ身体を破壊しても、魂だけで半永久的に生き続けることが可能である』
どうやらメビウスで間違いないようだ。
説明文だけ見れば、ものすごく強そうな雰囲気が漂っている。
魂だけで半永久的に生き続けられる……というのは厄介だが、俺はすでに対策を考えている。
考えている、というか、とあるスキルが教えてくれた。
【書籍情報処理】だ。
俺がメビウスの研究室から本を回収したあと、何をしたか覚えているだろうか?
「大賢者メビウスが何をしようとしているのか」で検索をかけ、いろいろと情報を手に入れた。
そこには、メビウスへの対処法も含まれていた。
メビウスを完全消滅させるには、次の3条件を満たせばいい。
1.肉体を破壊し、魂だけの状態に戻す。
2.精神的に大きなダメージを与え、魂に揺さぶりをかける。
3.「闇を照らす光」……月の加護を得た武器によって浄化する。
最後の条件はちょっと難易度が高そうだが、実はすでにクリアしていた。
英雄殺しの大剣。
スキル封じばかり目立っているが、他にも付与効果がある。
――《月の加護S+》。
幸い、今夜は満月だ。
どれほどの威力を発揮するのか、俺でさえも予想がつかない。
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