表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/95

第23話 なぜかアイリスに評価されていた。

前半、アイリス視点です。

「すごい……」


 あたしことアイリスノート・ファフニルは、目の前の光景に圧倒されていた。


 デストロイゴーレムの魔導レーザー砲は、一瞬にして、何千何万ものアンデッドを蒸発させた。

 大地は抉れ、焼け焦げ、ぶすぶすと白い蒸気をあげている。

 後には何も残っていない。

 ただ荒野が広がっているだけ。


 まるで、世界の破滅がいきなり訪れたかのような光景だった。


 それを引き起こしたのは、コウだ。

 コウ・コウサカ。

 あたしの……冒険者仲間。


 コウの実力が桁外れなのは知っていたけれど、まさか、こんな戦力まで隠し持っていたなんて。

 デストロイゴーレム4体、ガーディアンゴーレム12体。

 この16体があれば、どんな大軍が相手だろうと消し飛ばしてしまえるだろう。


 あたしの隣で、リリィちゃんが呟いた。


「コウさんって、いったい、何者なんですか……?」

「……何者なのかしらね」


 あたしにもよく分からない。


 コウは強い。

 規格外なレベルで強い。

 あれだけの強さを持つなら、すでに有名人になっていて当然のはずだ。

 それなのに、オーネンの街に現れるまで誰も「コウ・コウサカ」の名前を知らなかった。


 コウはあまり自分のことを語らないし、あたしも冒険者のマナーとして過去は詮索しないよう心掛けている。


 だから、あたしがコウについて知っているのは、ほんの僅かなことだけだ。


「とりあえず、29歳の男性、ってことは間違いないと思うわ」

「コウさん、よく、言ってます。自分は29歳のおっさんだ、って……」

「29歳っておっさんなの?」

「違う、と思います……。コウさんは、おっさんじゃなくって、大人の男性かな、って……」


 リリィちゃんは自分の言葉に照れてしまったのか、頬を赤くして俯いた。

 同性のあたしでも、きゅん、と来るほど可愛らしい。


 一方、コウはというと、あたしたちに背を向けたままだ。

 残りのアンデッドを殲滅するため、ゴーレムに指示を飛ばしている。


 やがてアンデッドの第二陣が攻め込んできた。

 その顔ぶれは、Aランク冒険者のあたしでも震え出しそうになるほど危険なものだった。


「デュラハンロードにエルダーリッチ、ワイバーンゾンビ……!?」


 あたしには【竜神の巫女】という特殊なスキルがあり、そのおかげで魔物たちを鑑定できる。

 敵はすべて、危険度Aランクを通り越し、Sランクに指定されるようなアンデッドばかり。

 この大軍勢なら、メイヤード伯爵領どころかこの国を滅ぼすことも可能だろう。


 ……けれど、Sランクアンデッドの大軍勢よりもずっと強大な存在が、ここにいる。


 コウは普段どおりの落ち着いた声で、ゴーレムたちに指示を下した。


「第二射準備。……撃て」


 デストロイゴーレムの魔導レーザー砲は、すべてを平等に消し飛ばした。

 デュラハンロードもエルダーリッチも、ワイバーンゾンビも、すべて、白い閃光のなかへ溶けていく。

 

 ……いま、コウはどんな表情を浮かべているのだろう?


 あたしは、ふと、そんなことが気になった。


 コウの横に並んで、その顔をチラリと見る。

 いつもと同じ表情だった。

 いつもと同じすぎて、あたしは驚いてしまう。


「ねえ、コウ」

「どうした?」

「……あなたって、大物よね」

「まったく意味がわからないんだが……」

「普通の人間がこれだけの力を手にしたら、まず間違いなく、道を踏み外すわ」


 ゴーレムたちの圧倒的な破壊力に酔いしれ、欲望のままに暴走するはずだ。

 竜人族の伝承には、そうやって身を滅ぼした者たちの物語が多く残っている。


「でも、コウはものすごく平然としているというか、落ち着いているというか……。とにかく冷静すぎてびっくりしたのよ。きっと規格外って言葉は、あなたのために用意されたんでしょうね」



 * *



「とにかく冷静すぎてびっくりしたのよ。きっと規格外って言葉は、あなたのために用意されたんでしょうね」

 

 なんだかよく分からないが、アイリスは俺のことを評価してくれているらしい。

 

 うーん。

 俺はわりと無表情なほうだが、そのせいで誤解を与えたようだ。


 俺だって男なので、巨大兵器を並べてレーザーで一掃、というシチュエーションには興奮している。

 アンデッドの大軍勢を吹っ飛ばしたときにはスカッとしたし、脳内の地図からアンデッドを示す光点がバババババッと減っていくのは爽快だった。




 なにより、「大賢者メビウスの復活」というトラブルに対して、きっちり早期対処できているのが気持ちいい。




 俺はかつてブラック企業で働いていたが、ブラック企業がブラック企業たる理由のひとつは、業務上のトラブルがほぼ確実に炎上するからだ。


 トラブルというのは早期に対処すればするほど解決の手間が少なく済む。

 だが、俺の会社では、上司や他部署の勝手な都合に振り回され、トラブルへの対処はいつも後手に回っていた。

 人手が足りなかったり、トラブルの存在が隠されていたり。

 当然ながら最後は大炎上し、すべての責任は現場に押し付けられる。




 だからこそ、大賢者メビウスの動きをすべて潰せている現状は、俺にとって満足のいくものだった。



 

 アンデッドの数はごくわずかだ。

 残敵の掃討はゴーレムに任せて、俺たちはメビウスのもとへ乗り込むとしよう。


 歩いていくのは面倒なので、乗り物を使うか。


 俺は無詠唱でネクロアースを発動させた。


「来い、極滅の黒竜」


 この五千年間、メビウスはひたすら黒竜の犠牲者たちの魂を集めてきたが、肝心の黒竜とはまったく顔を合わせていないようだ。


 せっかくなので、五千年越しの対面といこう。



お読みいただきありがとうございます!

「面白かった」「続きが気になる」「更新頑張れ!」と少しでも思っていただけましたら、ブクマ・評価いただけると励みになります。よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ