第22話 ゴーレムの軍勢で焼き払ってみた。
メビウスは魔法で衛兵のひとりを操り、こちらに宣戦布告を吹っかけてきた。
俺はその魔力を逆探知して乗っ取ることで、メビウスの体内で攻撃魔法を炸裂させた。
インターネットにたとえるなら、こちらのパソコンにハッキングをかけてきた相手を突き止め、逆にハッキングをかけた感じだろうか。
俺が発動させたのはダーク・バースト。
最下級の攻撃魔法だが、俺が使うと、地面に大きなクレーターを生み出すほどの威力になる。
……遠くから爆発音が響き、地面が激しく揺れる。
詰所の衛兵たちは、いきなりのことに動揺していた。
「じ、地震だっ!?」
「な、なんだ!? 何が起こったんだ!?」
これは説明が必要だろう。
俺が口を開こうとすると、それより先に、リリィが言葉を発した。
「コウさん……、まさか、メビウスの魔力を……?」
「その通りだ」
俺はリリィのほうを向いて頷く。
「メビウスの魔力を乗っ取って、ついでにダーク・バーストを発動させておいた。向こうはしばらく動けないはずだ」
「すごい、です……! 魔力のコントロールを奪えるのは、相手がすごく格下の時だけ、なのに……!」
「いや、今のはメビウスが油断していたおかげだ。次はうまくいくかどうか分からない」
だからこそ、ここで一気に畳みかける。
スポーツなら全力の相手と戦ってこそ価値があるのだろうが、これは一種の戦争だ。
俺がヘマをすれば誰かが死ぬかもしれない。
相手に全力を出すチャンスを与えないまま、容赦なく圧殺すべきだろう。
* *
俺は【空間跳躍】で街の外に出る。
アイリスとリリィも連れてきた。
「あたしたち、いる意味ってあるのかしら……?」
「コウさんだけで、十分な気が、します……」
なぜ2人を連れてきたかというと、俺なりに理由がある。
悪い予感がするのだ。
リリィが土壇場でメビウスに操られて裏切るとか。
メビウスを倒したと思ったら、リリィの身体に逃げ込まれるとか。
リリィはメビウスの末裔なわけだし、そういう展開も起こりうる。
もしもの場合を考えるなら、すぐに対応できるよう、リリィを同行させるべきだ。
アイリスにはリリィの護衛を頼みたい。
……俺は2人に対し、そう説明した。
「コウって、いろんなことを考えてるのね……!」
「ほんとうに優秀な魔術師は、たくさんの可能性を先読みして、動くもの……。魔法学院でも、そう、言ってました……」
どうやらアイリスもリリィも、俺の説明に納得してくれたようだ。
余談だが、予感の根拠はアニメやマンガだったりする。
悪役がその子孫を操るとか、子孫の身体に逃げ込むとか、ありがちなテンプレ展開だしな。
俺の予感は(悪いものに限って)よく当たるし、備えておくのは間違いじゃないはずだ。
さて。
話はここまでにして、そろそろ始めようか。
俺はアイテムボックスを開き、ゴーレムたちをすべて出撃させた。
中央にはデストロイゴーレムを4体、左右両翼にガーディアンゴーレムを6体ずつ配置する。
合計で16体。
機械の巨人たちが横一列に並んだ姿は、なかなかに壮観だ。
「前進しろ」
俺が号令を下すと、ゴーレムたちの両眼が青く光った。
16体の機械巨人はヴィィィィィィィィィンという駆動音を立て、北の古戦場へと歩き始める。
俺はゴーレムを追いかけつつ、【エネミーレーダー・収束】を発動させた。
脳内の地図に、アンデッドたちの位置が赤い点で表示される。
北の古戦場は、赤色に塗り潰されていた。
……俺はオーネンにおいて1万匹もの魔物を相手にしたが、そのときよりずっと多い。
大雑把に言って、倍以上。
たぶん3万匹から4万匹くらいはいるだろう。
アンデッドの大軍勢は、すでに南下を始めていた。
このまま行けば、街と古戦場の中間地点でゴーレムとぶつかることになるだろう。
「デストロイゴーレムは前進速度を緩めろ。ガーディアンゴーレムはバリアを展開、アンデッドたちを左右から包み込め」
ガーディアンゴーレムのバリアは、1体だけでもかなりの広範囲をカバーできる。
左右それぞれに6体ずつ配置されたガーディアンゴーレムは、互いに距離を取りながら、バリアを展開した。
やがて、草原の向こうからアンデッドの軍勢が押し寄せてきた。
かつて人だったもの、かつて猪だったもの、かつて狼だったもの……。
メビウスによって操られた死者たちが、まるで洪水のような勢いでこちらへと襲い掛かってくる。
だが、無駄だ。
どれだけ数を揃えようとも、ガーディアンゴーレムのバリアは突破できない。
アンデッドたちはデストロイゴーレムの正面へと押し込まれる。
準備は完了した。
「焼き払え」
俺の命令とともに、デストロイゴーレムは腰を低く落として構えを取った。
腹部装甲が展開され、内部の高出力魔導レーザー砲が露わになる。
やがて、ヴォォォォォォォォォン! と雄叫びのような駆動音が鳴り響き――。
紅蓮の閃光が、はじけた。
すでに太陽は沈んで夜が訪れていたが、宵闇を吹き飛ばすほどの輝きがすべてを塗り潰した。
やがて光が消え去ったあと、アンデッドたちは1匹も残っていなかった。
灰すら残さず蒸発していた。
地面は抉れ、焼け焦げ、ぶすぶすと白い蒸気をあげている。
これにて戦闘終了……と言いたいところだが、【エネミーレーダー・収束】で確認すると、敵はまだ40%ほど残っている。
アンデッドの軍勢のうち、足が遅くて遅れ気味になっていた集団だ。
デストロイゴーレムから遠く離れていたため、レーザーが届かなかったのだろう。
もちろん逃すつもりはない。
俺はゴーレムたちに前進を命じた。
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