第21話 宣戦布告に来た大賢者を、返り討ちにしてみた。
巨大なロボットを並べて進撃させるのは男のロマン……というのはさておき、真面目な話をしよう。
『古代賢者の息吹』のメンバーは北の洞窟に集まっているわけだが、確実に叩き潰すことを考えるなら、ガーディアンゴーレムで包囲するのが手っ取り早い。
なにせ、ガーディアンゴーレムには強力なバリアがある。
黒竜との戦いを覚えているだろうか?
あのとき、ガーディアンゴーレムのバリアは黒竜の火炎を防ぐばかりか、俺が空中で戦うときの足場になってくれた。物理的な壁として扱うことも可能なのだ。
このバリアを張りながら包囲を狭めていけば、『古代賢者の息吹』のメンバーを取り逃がすことはないだろう。
俺はメイヤード伯爵に、ガーディアンゴーレムを使った包囲作戦を提案してみた。
反応はというと、想像以上の好感触だった。
「ガハハハハ! 古代の魔術師を崇拝する連中に、古代兵器をぶつけるわけか! コウ殿はなかなか面白いことを考える! さすがじゃわい!」
領主じきじきの許可も下りたことだし、遠慮なくやらせてもらおう。
……ああ、そうだ。
メビウスの遺跡を守っていたオリハルコンゴーレムたちも、修理して実戦投入しようか。
幸い、どれもこれも【創造】の素材にできるみたいだしな。
頭の中にはこんなレシピが浮かんでいる。
『オリハルコンゴーレム(メビウスカスタム)の残骸×3 = デストロイゴーレム』
イメージとしては、戦闘機などの「共食い整備」に近いだろうか。
複数の故障機から無事なパーツを取り出して、ひとつの機体を組み上げる。
早速、【創造】してみよう。
『デストロイゴーレム
説明:オリハルコン製の装甲に身を包んだゴーレム。
魔導レーザー砲は腹部に搭載され、通常の10倍以上の出力を誇る。
広範囲を長時間に渡って焼き払うことが可能であり、包囲・殲滅戦を得意とする。
その姿はまるで神話時代の破壊神が蘇ったかのようである。
【創造】時に付与された効果により、本来よりも性能が大きく向上している。
付与効果:《魔導レーザー強化A》《演算能力A+》』
これはまた、なかなか頼もしそうなゴーレムだ。
今後、魔物の群れと戦うようなことがあれば、デストロイゴーレムが心強い味方になってくれるだろう。
ただ、まあ、今回はそこまで大群を相手にするわけじゃない。
せっかく【創造】してみたけど、デストロイゴーレムが活躍するのは別の機会になりそうだ。
……と、思っていたが、ここで事態が急変する。
俺たちが食堂を出ようとしたタイミングで、衛兵のひとりが大慌てで駆け込んできたのだ。
「は、伯爵! それに《竜殺し》殿! 大変です! あ、あ、アンデッドが! アンデッドの大群が、街の北部に現れたそうです!」
* *
衛兵の話によると、最初にアンデッドを発見したのは、行商人の一団だったという。
行商人たちは事件続きのスリエを離れ、別の街で商売をしようと街道を北に進んでいた。
だが、古戦場のあたりでアンデッドの大群に出くわし、慌てて引き返してきたらしい。
俺と伯爵はすぐに衛兵の詰所に向かった。
アイリスとリリィも付いてきた。
詰所では、衛兵たちがテーブルの上に地図を広げ、その周りで難しい表情を浮かべている。
俺は、すぐ近くの衛兵に声を掛けた。
「状況はどうなってる?」
「いまのところは落ち着いています。アンデッドの群れに動きはありません」
現在、衛兵たちは交代で古戦場に向かい、アンデッドの動向を見張っているらしい。
もし街に攻め込んでくる気配があれば、すぐに連絡が来るそうだ。
アンデッドの規模はかなりのもので、古戦場を埋め尽くすほどという。
少なくとも1000匹は超えるだろう、という話だ。
「ねえ、コウ」
アイリスが声をかけてくる。
「これもやっぱり『古代賢者の息吹』が犯人かしら」
「どうだろうな」
もし『古代賢者の息吹』が1000匹も2000匹もアンデッドを操れるというのなら、真正面からスリエを襲撃して、メビウス復活のための生贄を集めればよかったはずだ。
俺が首を傾げていると、リリィが隣で呟いた。
「もしかしたら、メビウスが復活したのかもしれません」
「でも、生贄はまだ集めている途中だろう。……いや、待てよ」
俺はひとつの可能性に思い当たる。
たとえば『古代賢者の息吹』のメンバー自身が、計画の失敗を補うため、自分たちの魂を差し出したとしたら?
そんなことを考えてると、衛兵数名が街の外から戻ってきた。
アンデッドの見張りが交代になったのだろう。
彼らはみな虚ろな表情を浮かべていたが、そのうちの1人が妙なことを言い出した。
「聞こえるか、無知で愚かな凡人ども。我が名は大賢者メビウス、はるか古代において最強と呼ばれていた魔術師である。我はついに復活を果たした、恐れ慄くがいい」
それは地獄の底から響くような、低くおどろおどろしい声だった。
隣で、リリィが呟いた。
「この声……夢で聞いたのと同じ、です……!」
なるほどな。
細かい原理はよく分からないが、メビウスは魔法かなにかで衛兵の意識を乗っ取り、スピーカー代わりに使っているのだろう。
メビウスに操られた衛兵は、リリィのほうを向くと、忌々しそうに舌打ちした。
「誰かと思えば、我が末裔ではないか。我が復活に力を貸そうともせず、それどころか邪魔をする。お前のような存在は許しておけん。四肢をバラバラに引き裂き、アンデッドどもの餌にしてやる」
続いてメビウスは、衛兵の眼を通して、俺をギョロリと睨みつけた。
「貴様も覚悟しておけ、《竜殺し》。我が計画を邪魔した報いを受けさせてやる」
「……ひとつ、気になることがあるんだが」
俺は、話の流れを完全に無視して、こう言った。
重箱の隅をつつくような疑問で申し訳ないのだが、指摘せずにいられなかった。
「古代において最強って、嘘だろう」
「……嘘ではない。我は古代最強の大賢者である」
「遺跡のおせわスライムが言ってたぞ。『おかーさんに魔法勝負を挑んで、いつも負けてたひと』って」
「ぐっ……」
「言葉に詰まるってことは、真実らしいな」
「……っ」
メビウス(に乗っ取られた衛兵)はそのまま黙り込んでしまう。
もしかするとこのメビウスという男、メンタルはさほど強くないのかもしれない。
やがてメビウスは、焦ったように声を張り上げた。
「な、舐めるな! 我はこの5000年で幾千万もの魂を集め、かつてない強さを得た! 肉体はいまだ不完全だが、それでも貴様のような若造を葬るには十分すぎる!」
「肉体が不完全? 生贄が足りなかったからか?」
俺はその場の思いつきでカマをかけてみる。
すると、メビウスは面白いように引っ掛かってくれた。
「その通りだ、《竜殺し》。頭の回転はいいようだな。『古代賢者の息吹』どもは計画の失敗を恥じ、自分の魂を生贄として捧げた。……完全復活には程遠いが、この街の住民を食らえば問題あるまい」
うーん。
メビウス、ちょっと迂闊すぎないか。
敵に情報を明かしすぎだし、とても大“賢”者とは思えない。
俺がちょっと冷ややかな視線を向けているのにも気付かず、メビウスは得意げに続ける。
「我が力はすでに黒竜など超えている! 覚悟することだな、《竜殺し》! クハハハハハハハハ! ……んん? 貴様、何をしている?」
俺はアイテムボックスを開くと、ディアボロス・アーマーに着替えていた。
《暗黒の王S+》により、俺はこの瞬間、最高位の闇魔法使いとなる。
右手を伸ばし、衛兵の手に触れた。
メビウスは闇魔法によって衛兵の意識を乗っ取っているようだ。
闇魔法なら、いまの俺にとって最強の得意分野だ。
メビウスの魔力を逆探知し、コントロールを奪い取る。
「な、なんだと!? 《竜殺し》! 貴様は、我以上の魔術師だというのか!? ……ぬわあああああああああああああああっ!」
はるか遠くから爆発音が響いてきた。
大地が激しく揺れ、詰所の天井から砂粒がパラパラと落ちる。
同時に、メビウスの魔法は解除されていた。
俺が何をしたかといえば、わりと単純な話だ。
メビウスの魔力を逆探知して乗っ取り、向こうの体内でダーク・バーストを炸裂させた。
手応えからすると一撃必殺とはいかなかったようだが、それなりのダメージは与えたはずだ。
さて。
このまま見逃す理由もない。
メビウスが復活したのなら、むしろ好都合だ。
全力で叩き潰して、将来への禍根を断っておこう。
荒事も厄介事も嫌いだが、ここで放置する方が、もっと面倒なことになるからな。
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