表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/95

第21話 宣戦布告に来た大賢者を、返り討ちにしてみた。

 巨大なロボットを並べて進撃させるのは男のロマン……というのはさておき、真面目な話をしよう。

 

『古代賢者の息吹』のメンバーは北の洞窟に集まっているわけだが、確実に叩き潰すことを考えるなら、ガーディアンゴーレムで包囲するのが手っ取り早い。

 なにせ、ガーディアンゴーレムには強力なバリアがある。


 黒竜との戦いを覚えているだろうか?

 あのとき、ガーディアンゴーレムのバリアは黒竜の火炎を防ぐばかりか、俺が空中で戦うときの足場になってくれた。物理的な壁として扱うことも可能なのだ。


 このバリアを張りながら包囲を狭めていけば、『古代賢者の息吹』のメンバーを取り逃がすことはないだろう。

 

 俺はメイヤード伯爵に、ガーディアンゴーレムを使った包囲作戦を提案してみた。

 反応はというと、想像以上の好感触だった。


「ガハハハハ! 古代の魔術師を崇拝する連中に、古代兵器をぶつけるわけか! コウ殿はなかなか面白いことを考える! さすがじゃわい!」


 領主じきじきの許可も下りたことだし、遠慮なくやらせてもらおう。

 


 ……ああ、そうだ。


 メビウスの遺跡を守っていたオリハルコンゴーレムたちも、修理して実戦投入しようか。

 幸い、どれもこれも【創造】の素材にできるみたいだしな。


 頭の中にはこんなレシピが浮かんでいる。


『オリハルコンゴーレム(メビウスカスタム)の残骸×3 = デストロイゴーレム』


 イメージとしては、戦闘機などの「共食い整備」に近いだろうか。

 複数の故障機から無事なパーツを取り出して、ひとつの機体を組み上げる。

  

 早速、【創造】してみよう。



『デストロイゴーレム

 説明:オリハルコン製の装甲に身を包んだゴーレム。

    魔導レーザー砲は腹部に搭載され、通常の10倍以上の出力を誇る。

    広範囲を長時間に渡って焼き払うことが可能であり、包囲・殲滅戦を得意とする。

    その姿はまるで神話時代の破壊神が蘇ったかのようである。

   【創造】時に付与された効果により、本来よりも性能が大きく向上している。

 付与効果:《魔導レーザー強化A》《演算能力A+》』


 

 これはまた、なかなか頼もしそうなゴーレムだ。

 今後、魔物の群れと戦うようなことがあれば、デストロイゴーレムが心強い味方になってくれるだろう。

 

 ただ、まあ、今回はそこまで大群を相手にするわけじゃない。

 せっかく【創造】してみたけど、デストロイゴーレムが活躍するのは別の機会になりそうだ。



 ……と、思っていたが、ここで事態が急変する。


 俺たちが食堂を出ようとしたタイミングで、衛兵のひとりが大慌てで駆け込んできたのだ。


「は、伯爵! それに《竜殺し》殿! 大変です! あ、あ、アンデッドが! アンデッドの大群が、街の北部に現れたそうです!」


 


 * *




 衛兵の話によると、最初にアンデッドを発見したのは、行商人の一団だったという。


 行商人たちは事件続きのスリエを離れ、別の街で商売をしようと街道を北に進んでいた。

 だが、古戦場のあたりでアンデッドの大群に出くわし、慌てて引き返してきたらしい。


 俺と伯爵はすぐに衛兵の詰所に向かった。

 アイリスとリリィも付いてきた。


 詰所では、衛兵たちがテーブルの上に地図を広げ、その周りで難しい表情を浮かべている。

 俺は、すぐ近くの衛兵に声を掛けた。


「状況はどうなってる?」

「いまのところは落ち着いています。アンデッドの群れに動きはありません」


 現在、衛兵たちは交代で古戦場に向かい、アンデッドの動向を見張っているらしい。

 もし街に攻め込んでくる気配があれば、すぐに連絡が来るそうだ。


 アンデッドの規模はかなりのもので、古戦場を埋め尽くすほどという。

 少なくとも1000匹は超えるだろう、という話だ。


「ねえ、コウ」


 アイリスが声をかけてくる。


「これもやっぱり『古代賢者の息吹』が犯人かしら」

「どうだろうな」


 もし『古代賢者の息吹』が1000匹も2000匹もアンデッドを操れるというのなら、真正面からスリエを襲撃して、メビウス復活のための生贄を集めればよかったはずだ。


 俺が首を傾げていると、リリィが隣で呟いた。


「もしかしたら、メビウスが復活したのかもしれません」

「でも、生贄はまだ集めている途中だろう。……いや、待てよ」


 俺はひとつの可能性に思い当たる。

 たとえば『古代賢者の息吹』のメンバー自身が、計画の失敗を補うため、自分たちの魂を差し出したとしたら?

 

 そんなことを考えてると、衛兵数名が街の外から戻ってきた。

 アンデッドの見張りが交代になったのだろう。

 彼らはみな虚ろな表情を浮かべていたが、そのうちの1人が妙なことを言い出した。


「聞こえるか、無知で愚かな凡人ども。我が名は大賢者メビウス、はるか古代において最強と呼ばれていた魔術師である。我はついに復活を果たした、恐れ慄くがいい」


 それは地獄の底から響くような、低くおどろおどろしい声だった。

 隣で、リリィが呟いた。


「この声……夢で聞いたのと同じ、です……!」


 なるほどな。

 細かい原理はよく分からないが、メビウスは魔法かなにかで衛兵の意識を乗っ取り、スピーカー代わりに使っているのだろう。

 メビウスに操られた衛兵は、リリィのほうを向くと、忌々しそうに舌打ちした。


「誰かと思えば、我が末裔ではないか。我が復活に力を貸そうともせず、それどころか邪魔をする。お前のような存在は許しておけん。四肢をバラバラに引き裂き、アンデッドどもの餌にしてやる」


 続いてメビウスは、衛兵の眼を通して、俺をギョロリと睨みつけた。


「貴様も覚悟しておけ、《竜殺し》。我が計画を邪魔した報いを受けさせてやる」

「……ひとつ、気になることがあるんだが」


 俺は、話の流れを完全に無視して、こう言った。

 重箱の隅をつつくような疑問で申し訳ないのだが、指摘せずにいられなかった。


「古代において最強って、嘘だろう」

「……嘘ではない。我は古代最強の大賢者である」

「遺跡のおせわスライムが言ってたぞ。『おかーさんに魔法勝負を挑んで、いつも負けてたひと』って」

「ぐっ……」

「言葉に詰まるってことは、真実らしいな」

「……っ」


 メビウス(に乗っ取られた衛兵)はそのまま黙り込んでしまう。

 もしかするとこのメビウスという男、メンタルはさほど強くないのかもしれない。


 やがてメビウスは、焦ったように声を張り上げた。


「な、舐めるな! 我はこの5000年で幾千万もの魂を集め、かつてない強さを得た! 肉体はいまだ不完全だが、それでも貴様のような若造を葬るには十分すぎる!」

「肉体が不完全? 生贄が足りなかったからか?」

 

 俺はその場の思いつきでカマをかけてみる。

 すると、メビウスは面白いように引っ掛かってくれた。


「その通りだ、《竜殺し》。頭の回転はいいようだな。『古代賢者の息吹』どもは計画の失敗を恥じ、自分の魂を生贄として捧げた。……完全復活には程遠いが、この街の住民を食らえば問題あるまい」

 

 うーん。

 メビウス、ちょっと迂闊すぎないか。

 敵に情報を明かしすぎだし、とても大“賢”者とは思えない。


 俺がちょっと冷ややかな視線を向けているのにも気付かず、メビウスは得意げに続ける。


「我が力はすでに黒竜など超えている! 覚悟することだな、《竜殺し》! クハハハハハハハハ! ……んん? 貴様、何をしている?」


 俺はアイテムボックスを開くと、ディアボロス・アーマーに着替えていた。

《暗黒の王S+》により、俺はこの瞬間、最高位の闇魔法使いとなる。

 右手を伸ばし、衛兵の手に触れた。


 メビウスは闇魔法によって衛兵の意識を乗っ取っているようだ。

 闇魔法なら、いまの俺にとって最強の得意分野だ。

 メビウスの魔力を逆探知し、コントロールを奪い取る。

 

「な、なんだと!? 《竜殺し》! 貴様は、我以上の魔術師だというのか!? ……ぬわあああああああああああああああっ!」


 はるか遠くから爆発音が響いてきた。

 大地が激しく揺れ、詰所の天井から砂粒がパラパラと落ちる。

 

 同時に、メビウスの魔法は解除されていた。


 俺が何をしたかといえば、わりと単純な話だ。

 メビウスの魔力を逆探知して乗っ取り、向こうの体内でダーク・バーストを炸裂させた。

 

 手応えからすると一撃必殺とはいかなかったようだが、それなりのダメージは与えたはずだ。

 

 さて。

 このまま見逃す理由もない。

 

 メビウスが復活したのなら、むしろ好都合だ。

 全力で叩き潰して、将来への禍根を断っておこう。

 

 荒事も厄介事も嫌いだが、ここで放置する方が、もっと面倒なことになるからな。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

「面白かった」「続きが気になる」「更新頑張れ」と少しでも思っていただけましたら、ブクマ・評価頂けると励みになります。よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ