第20話 情報を共有していたら、伯爵が駆けつけた。言質を取ってみた。
俺はアイリスに情報収集を頼んでいたわけだが、その成果は想像以上のものだった。
『古代賢者の息吹』のメンバーがどこに集まっているのか、おおよそ場所が分かったという。
「やるじゃないか、アイリス」
「ふふん、もっと褒めてちょうだい」
食堂のテーブルを挟んだ向かい側で、アイリスは誇らしげに胸を張った。
その姿は、まるでパタパタと尻尾を振る仔犬のようだ。
全身で、ほめてほめて! とアピールしている。
だったら、リクエストには応えないとな。
「『古代賢者の息吹』の居場所が分かるなら、いろいろと選択肢が広がる。今夜のうちに奇襲を仕掛けてもいい。……ありがとう、アイリスが居てくれて本当によかった」
「えへへ、あたし、コウの役に立った?」
「もちろんだ。とても感謝している」
アイリスがいなかったら、『古代賢者の息吹』の居所を掴むのに手間が必要だったはずだ。
その手間を省けたのは、非常にありがたい。
「これはお礼が必要だな」
「礼なんか別にいいわよ。……あたしが、その、えっと、す、す、好き、でやってることだし」
アイリスはなぜか早口になっていた。
俺の隣にはリリィが座っているが、「アイリスさん、もしかして……」と呟いた。
「どうした、リリィ」
「……なんでもない、です。そうです、よね? アイリス、さん?」
「う、うん……なんでもない、かな? というかリリィちゃん、視線が怖いんだけど……」
「気のせいと、思います、よ」
なお、アイリスへの礼については「借りひとつ」ということになった。
要するに保留だな。
アイリスのうっかり属性を考えるに、請求されないまま忘れ去られそうな気配が漂っている。
いずれタイミングを見て、俺のほうからお礼の品でも渡すとしよう。
* *
以前にも説明したが、スリエはちょっとした観光地として有名だったりする。
スリエそのものは平凡な宿場町だが、周辺には大昔の戦場跡などが残っており、観光ツアーが定期的に催されている。
……アイリスの話によると、『古代賢者の息吹』は北の古戦場のはるか向こう、地図にも載っていないような洞窟に集まっているそうだ。夜な夜な怪しげな儀式を行っているという。
本来ならば衛兵の眼も行き届かないような場所だが、洞窟の近くはドワーフたちの秘密の縄張りだった。
なんでも、良質な鉱石が採れるとか。
そのためドワーフたちは『古代賢者の息吹』の姿を目撃しており、数日前から集会場で話題になっていた。
「衛兵に通報しておこう、って話は出てたみたい。でも、ニードルタートルが現れたせいで後回しにされた形ね。……そうそう、ここの集会場の元締めからコウに伝言を預かってるわ。『店を守ってくれて感謝する。よかったら一度、顔を出してくれ』って」
「……店?」
「コウ、昼間にアンデッド使いと戦ってたわよね。酒場が近くにあったのは覚えてる? あそこのオーナーが亜人の元締めで、地下に集会場があるの」
それはまた意外な話だ。
どうやら俺は、知らず知らずのうちに恩を売っていたらしい。
「集会場は『古代賢者の息吹』と徹底的に戦う姿勢よ。領主や冒険者ギルドにも声をかけるみたい。……そのうち、コウにもお呼びがかかるんじゃないかしら」
アイリスがそう言った直後のことだった。
多くの客で賑わっていた食堂が、急に、静まり返った。
何事かと思って視線を巡らせると、入口のところに大柄な中年男性が立っていた。
男性は顔の左側に深い傷跡があり、左目を眼帯で覆っている。
立派な口髭とあいまって、戦国武将のような風格を漂わせている。
ランドルフ・ディ・メイヤード。
要するに「領主さま」だ。
メイヤード伯爵は俺のほうを見ると、ニヤリ、と嬉しそうな笑みを浮かべた。
早足にこちらへ近づいてくる。
「コウ殿、久しぶりだな!」
「お久しぶりです、メイヤード伯爵」
メイヤード伯爵が握手を求めてきたので、俺は席を立つと、その握手に応えた。
握手が終わると、メイヤード伯爵は親しげに俺の両肩を叩く。
「コウ殿の活躍はすでに聞いているぞ! ニードルタートルを単独で討伐するばかりか、怪しげな連中から街を守ってくれたそうだな! さすが英雄殿だ、ガハハハハハハハ!」
相変わらず、メイヤード伯爵はやたらテンションが高い。
というか、伯爵はどうしてスリエの街にいるのだろう。
衛兵たちの話では、明日の到着だったはずだ。
そのことについて伯爵に尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。
「騎士団なら置いてきたわい」
は?
「衛兵からの報告書を読んだが、なにやら厄介そうな事件なのでな。騎士団の指揮は娘のセレンに任せ、儂だけ先行させてもらった」
なにより、と伯爵は続ける。
「コウ殿の活躍をこの目に焼き付けるチャンスなのだ、これを見逃す手はあるまいよ。ガハハハハハハ!」
たぶん、こっちが本音だろうな。
俺もずいぶん高く買われたものだ。
とはいえ、評価されるのはありがたい話だし、俺にとっても好都合だ。
「伯爵、ひとつ、提案させてもらってよろしいですか?」
「もちろんだとも。儂にできることなら何でも言ってくれ」
よし。
伯爵の言質は取った。
拙速は巧遅に勝るという言葉もあるし、今夜のうちに『古代賢者の息吹』との決着をつけさせてもらおう。
ところで俺は【アイテム複製】というスキルを持っている。
アイテムボックスのアイテムを、なんでも1つ、複製できるというものだ。
連続発動はできず、6時間のクールタイムが必要だが、黒竜の死体だろうとなんだろうと増やせてしまうチートスキル。
今日までのあいだ、必要のないときは、あるモノを増やすことにばかり使っていた。
ガーディアンゴーレム。
近くに人里はないそうだし、古代兵器の大軍勢で攻め込むとしよう。
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