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第17話 メビウスの研究室を発見した。黒竜を使役してみた。

 以前、おせわスライムの1匹が、黒竜の映像を見せてくれたことを覚えているだろうか?

 あのスライムは、こんなふうに言っていた。


 ―― ぼくに映像機能をつけたのは大賢者メビウスってひとなんだけど、余計な機能までつけてたみたいで……ご、ご、ご、ごめんなさいっ! 知ってたら、マスターさんに映像を見せなかったのに……!


 他のスライムたちの話を聞くに、大賢者メビウスとやらはこの遺跡の設計に関わっていたようだ。

 だが、勝手な行動が多く、周囲に迷惑をかけてばかりだった。

 それなのに反省も改善もないものだから、古代の人々からも嫌われていたらしい。

 

 なお、「大賢者」というのは誰かに与えられた称号ではなく、メビウス本人が勝手に言っているだけとのこと。

 自称大賢者のメビウス。


 彼は、地図で言うとトゥーエの北東あたりに秘密の研究室を作っていた。

 まずは研究室を探し出して、メビウスについて情報を集めよう。


 いますぐ出発するのは当然として……リリィのことは、どうしようか。

 遺跡でこのまま待たせるか、研究室に連れて行くか。


 リリィのほうを見ると、彼女はこう提案してきた。


「わたしも、同行して、いいですか? メビウスの子孫ですし、何か、役に立つかも……」

「そうだな。一緒に来てくれるか?」

「……はいっ!」


 リリィは頷いた。

 銀髪のツインテ―ルが、嬉しそうに揺れる。




 * *


 

  

 リリィの服装は「古代文明での正装」(スライム談)……現代日本風に言うとゴスロリのドレスだったが、野外をうろつくには目立ちすぎるし、動きにくい。

 

 魔法学院の制服に着替えてもらったあと、俺は【空間跳躍】を発動させた。

 古代遺跡から、トゥーエの街へとワープする。


【空間跳躍】の対象にリリィを含めるため、俺たちは手を繋いでいた。

 本当は軽く触れるだけで十分なのだが、リリィはなぜか俺の右手を強く握っている。

 

「コウさん、研究所の場所なら、心当たりがあるんです」


 そう言うと、リリィは歩き始めた。

 リリィの左手は、俺の右手を握ったままだ。

 ほんのりと温かい。


「夢で見たんです。湖の近くにある、切り立った崖の下……たぶん、そこにメビウスの研究室があります」


 つい先日、リリィはそこを調査したらしい。

 そのときは何も見つけられず、無駄足に終わってしまったようだ。


「でも、今回は、コウさんがいます。きっと研究室を見つけられるはずです」

「……期待に応えられるといいんだけどな」

「大丈夫です。コウさんは、すごい人ですから」


 リリィは、ぎゅ、と俺の手をさらに強く握った。


「初めて会ったときのこと、覚えてますか?」


 俺は頷く。

 忘れるわけがない。

 まだ2日前のことだしな。


「わたしが男の人に絡まれているところを、コウさんが助けてくれました。他の人たちはみんな見て見ぬふりだったのに、コウさんだけが手を差し伸べてくれたんです。……本当に、嬉しかった。感謝しているんです」


 俺がリリィを助けたのは、それが「大人として当然の行動」だからだ。

 感謝を求めているわけでもないし、なんなら、忘れ去られても構わない。

 

 だがリリィにとって、俺の行動はとても大きな意味を持っていたのだろう。


「実家ではみんなから無視されて、『古代賢者の息吹』のことで先生たちに相談しても突き放されて、……わたしを助けてくれる人なんて、この世には誰もいないと思ってたんです」

「……それは、巡り合わせが悪かっただけだ。俺以外にも、マトモな大人はたくさんいる」

「だとしても、わたしをはじめて助けてくれた人は、コウさんです。巡り合わせというなら、きっとコウさんに出会えたのはうんめ――「見つけた」――えっ!?」


 俺はずっと【オートマッピング】を発動させていたが、地図の端に、満月のようにまんまるな湖が表示された。

 すぐそばに崖があり、地名が書いてあった。

『大賢者メビウスの地下研究室』と。


 ほどなくして湖に到着した。

 リリィはなぜかしょんぼりしている。

 俺が理由を尋ねると、「恥ずかしいので秘密にさせてください……」と俯いていた。

 

 まあ、触れないでおくか。

 この秘密は、放置してもトラブルにならない気がする。たぶん。


 それはさておき、メビウスの研究室だが、入口はあっさり見つかった。

 崖下の岩壁に、素材として採集可能な部分があった。

 ちょうど扉のような形をしている。

 

「オーネンの古代遺跡と同じだな……」


 もしかして当時のブームか何かだったのだろうか。

 古代文明に思いを馳せつつ、扉をアイテムボックスに回収する。

 

「これでよし、と」


 俺はひとり頷く。

 ……その横で、リリィは目を丸くしていた。


「入口をこんなふうに偽装していたなんて……。というか、コウさん、あっさり見つけすぎです……」

「大した偽装じゃなかったからな」

「普通はこんなの分からないです……。コウさん、どこまで規格外なんですか……?」


 さあ、どこまで規格外なんだろうな。

 まだ開放されてないスキルも多そうだし、伸びしろはあるはずだ。


 そんなことを考えていると、頭の内側に声が聞こえてきた。

 レベルアップのときに聞こえるものと異なり、ひどく機械的だ。


『ステータススキャン完了。

 本遺跡はメビウス・メギストリスをマスターとしています。

 マスター以外の存在によるアクセスを確認しました。排除します』


 周囲の空間が、ぐにゃりと歪んだ。

 この場に留まるのはまずそうだ。


 俺は【空間跳躍】を発動させる。

 手を繋いだままだったので、リリィも一緒だ。

 およそ50メートルほど後方へとワープし、空間の歪みから距離を取る。


 ……空間の歪みから、黄金色の金属に覆われた、二足歩行の巨人が現れた。


 オリハルコンゴーレムだ。

 1体だけじゃない。

 2、3、4……全部で、12体。


 ただし、どれもこれも奇妙な機械部品を取り付けられており、バチバチと火花を散らしている。


 俺の隣で、リリィが「あっ」と声をあげた。


「ゆ、夢でみたことがあります! メビウスは、近くの地下施設からオリハルコンゴーレムを盗んで、いろいろと改造を施していたんです……!」


 近くの地下施設って、もしかしてオーネンの遺跡か?

 どうやら大賢者メビウスは、おせわスライムだけじゃなく、オリハルコンゴーレムまで勝手に持ち出していたらしい。

 ロクな奴じゃなさそうだ……。


「こ、コウさん、気を付けてください。あのゴーレムは、魔導レーザーをすごく強化しているはずです……!」

「……そうみたいだな」


 俺はすでに【鑑定】を発動させ、ゴーレムについての情報を得ていた。


『オリハルコンゴーレム(メビウスカスタム)

 説明:オリハルコン製の装甲に身を包んだゴーレム。

    大賢者メビウスの手で改造を施され、魔導レーザー砲の出力が3倍以上になっている。

    ただし発射には1分のチャージが必要となる』


 ゴーレムたちは4体ずつ3列に並び、チャージを行っていた。

 信長の鉄砲3段打ちのように、交代でレーザーを撃つことによって弾幕を作るのだろう。


 そういや鉄砲3段打ちって、後世の創作とかいろいろ言われてるらしいな。

 歴史がどこまで正しいのかなんて、結局、当時の人間にしかわからないのだろう。


 それはともあれ、攻撃するならいまが最大のチャンスだ。

 オリハルコンゴーレムが12体、ひとつひとつ叩くのはちょっと手間がいる。


 もっと楽をしよう。

 俺はこのときスーツを着ていたが、アイテムボックスを開き、ディアボロス・アーマーに変更する。

 無詠唱でネクロアースを発動させた。


「来い、極滅の黒竜」


 かつて古代文明に危機をもたらした厄災の竜が、俺のしもべとなって蘇る。

 まあ、本来のサイズだと余計な騒ぎを起こしそうだから、全長5メートルほどに絞ってるけどな。


 それでも能力はオリジナルと遜色ない。

 土の身体だというのに、鱗に《魔力反射S+》が付与されている。

 そう、魔力を反射できるのだ。


 最前列のゴーレム4体が魔導レーザーを放ったが、すべて、黒竜の鱗にはじかれた。

 黒竜は、指示を求めるように、こちらを振り向く。

 俺は命令を下した。


「ゴーレムを一掃しろ」

「ガァッ!」


 黒竜は大きく息を吸い込むと、オリハルコンゴーレムへと突撃していった。

 その鉤爪で、ゴーレムたちを次々にスクラップへと変えていく。

 

 リリィはその光景に息を呑んでいた。


「コウさん、あの竜って、もしかして……」

「極滅の黒竜、俺が《竜殺し》と呼ばれるようになったきっかけだよ」

「夢で、メビウスが言っていました。じきに黒竜が蘇るから、犠牲者の魂を集めて大きな力を手に入れる、って。……でも、まさか、コウさんが先に倒していたなんて」


 どうやら俺は、知らず知らずのうちに、大賢者メビウスの野望を砕いていたらしい。

 

お読みいただきありがとうございます。

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