第14話 銀髪の少女を誘拐(?)してみた。アンデッド使いを白状させてみた。
本日2回目の更新です。
リリィは深呼吸を繰り返したあと、ゆっくりと話し始めた。
「その、あの、ええと……わ、わたしがこの街に来たのは、アンデッドの被害を減らすため、です……」
アンデッドの被害を減らす。
ならば、リリィはさっきのアンデッド使いと敵対関係にあるのだろうか。
「このままだと、スリエの街に、もっと大きな危機が訪れます。わたしは、それを、止めようとしています」
リリィはとても真剣な表情で、そう告げた。
青色の瞳はどこまでもまっすぐで、嘘をついているようには見えない。
「ごめんなさい。いまは、それしか、話せないです。……話しても信じてくれないと、思います、から」
リリィは小声で呟くと、一瞬のスキをついて逃げ出した。
甘い。
《神速の加護S》があるかぎり、俺を振り切ることはできない。
すぐに追いついた。
今度はちょっと強引にやろう。
リリィの腕を掴んだあと、すぐに【空間跳躍】を発動させた。
行き先は……古代遺跡だ。
あそこなら逃げられることはない。
周囲の風景がぐにゃりと歪む。
俺とリリィは古代遺跡の居住区にワープしていた。
いきなりの転移に、リリィはかなり驚いていた。
「えっ……!? な、なにが起こったん、ですか……!?」
「俺のスキルで別の場所に移動した。ここはオーネンのそばにある古代遺跡だ」
「遺跡……?」
リリィは首を傾げていた。
無理もないな。
俺は古代遺跡の居住区へと【空間跳躍】したが、そこには整然とした美しい街並みが広がっていた。
古代遺跡という言葉がまったく似合わない、新品同然の街だ。
俺が最後にここを訪れてから10日ほどが過ぎているし、そのあいだに居住区の復興が進んだのだろう。
誰が復興作業をやってくれたかと言えば、それはもちろん、遺跡の住人……おせわスライムだ。
俺は【遺跡掌握】スキルを使い、この場にスライムたちを招集した。
一分もかからないうちに、街中からスライムが集まってくる。
「マスターさん! おひさしぶり!」
「わーいわーい! 大歓迎だよ!」
「あっ! マスターさんが女の子を連れてるよ!」
「いらっしゃいませ、古代遺跡へようこそ!」
「もしかして誘拐かな!?」
「さらってお嫁さんにするの!?」
「強引なラブロマンスもいいよね!」
スライムたちはリリィを囲んでワイワイガヤガヤと騒ぎ始める。
すっかり注目の的となってしまったリリィは、耳まで真っ赤にして俯くことしかできない。
「お、およめさん……!? あ、あうう……」
銀髪の美少女が照れている様子はなかなか可愛らしいものがある。
とはいえ、それをのんびり鑑賞していられるほど、俺は暇じゃない。
俺はリリィに声をかけた。
「いまは事情を話せないと言ったな。それはそれで構わない。俺には他にやることがあるからな」
「わたしを、拷問、するつもりですか……?」
リリィはなぜかモジモジしながら、そんなことを呟いた。
「違う」
俺はキッパリと否定する。
というか、どうしてそんな発想になるんだ。
リリィは14歳だそうだが、若者の思考回路はよく分からない。
まあいい。
悩んでいる時間も惜しいし、話を進めよう。
「俺はこのあとアンデッド使いの男を徹底的に締め上げる。背後関係も含めて、何もかもを白状させる。……その情報をリリィにも教える。その代わり、リリィの事情を話してくれ」
つまりは交換条件だ。
俺は「アンデッド使いの持つ情報」を提供し、リリィは「自分の事情」を対価に差し出す。
リリィはしばらく考え込んでいたが、やがて、コクリ、と頷いた。
「わかり、ました……。でも、わたしの話は、信じられないと思います……」
「それはどうだろうな」
俺は小さく肩をすくめた。
「自分で言うのもなんだが、俺はどうやら規格外の存在らしい。リリィの抱えてる事情がもしも常識外れのシロモノだったら、むしろ俺みたいなヤツに任せるのが一番かもしれない」
リリィにそう告げたあと、俺はスライムたちに視線を向ける。
「彼女は俺の大切な客人だ。丁重にもてなしてくれ」
俺の言葉に、スライムたちは「はーい!」と声を揃えて答えた。
「マスターさんの大事な人なら、きっちりサービスするよ!」
「ポカポカおふろに、フカフカふとん! スライムのとくべつマッサージ!」
「全部セットで、いまなら半額!」
「0を半分にしたら、やっぱり0!」
「つまり無料!」
「わーい!」
「それじゃあ、最初はおふろタイム!」
「「「「「おー!」」」」」
スライムたちはリリィを胴上げのように担ぎ上げると、ものすごい勢いで遠くへ運び去っていった。
「えっ!? ええっ!? きゃああああああああああああっ!?」
あとにはリリィのか細い悲鳴だけが響き渡る。
さて。
俺は俺のやるべきことを済ませよう。
スリエの街に戻って、アンデッド使いを締め上げないとな。
* *
俺は【空間跳躍】を発動させ、スリエの街へと帰還した。
衛兵の詰所に向かってみる。
アンデッド使いはすでに意識を取り戻し、取り調べを受けているようだ。
しかしながら一貫して黙秘を続けているらしい。
衛兵は困り果てた様子でこう言う。
「我々では口を割らせることができそうにありません。《竜殺し》殿の力を貸していただけませんか?」
「わかった、やってみよう」
俺は衛兵に案内され、取調室へと足を踏み入れる。
……その途端、アンデッド使いの態度が一変した。
衛兵たちの制止を振り切り、俺の足元に飛び出すと、ものすごい勢いで土下座を始めたのだ。
「りゅ、りゅ、《竜殺し》! いえ、《竜殺し》様! スキルを! どうか私のスキルを元通りにしてくださいっ!」
先程の戦いにおいて、俺は《スキルバインドEX》を使っている。
アンデッド使いのスキルは、すべて封印したままだ。
「お願いします! スキルを使えるようにしてください! なんでもしますからっ!」
「……お前の知っていることをすべて話せ。そうしたら、考えないでもない」
「わ、わ、分かりましたっ! ありがとうございます! ありがとうございます! あ、靴をお舐めしましょうか!?」
やめてくれ、靴が汚れる。
ちなみにスキルを返すつもりはない。
返すべきかどうかについてコンマ数秒ほど考えたので、いちおう、約束は守っているはずだ。
アンデッド使いは一転して容疑を認め、すべての事実をペラペラと喋り始めた。
取調室には嘘発見の魔道具が置いてあるが、一度も反応しなかったので、嘘はついていないようだ。
あまりの豹変ぶりに、衛兵たちは目を丸くしていた。
「さすが《竜殺し》殿、まさか姿を見せるだけでアンデッド使いの口を割らせるとは……」
「まさか、《竜殺し》殿はスキルの封印ができるのですか?」
衛兵の1人が質問してきたので、俺は「ああ」と頷く。
その途端、大騒ぎになった。
「すげえ……! スキルを封印できるなんて、人間相手なら負けなしだな……!」
「ただでさえ強いってのに、そのうえスキル封印なんて反則だろ……!」
「オレ、《竜殺し》殿とだけは戦いたくねえ」
「おれも同じ意見だね」
「単に負けるだけならいいけどよ。スキルを封印されちまったら、人生お先真っ暗だしな……」
「《竜殺し》殿、いや、《スキル殺し》殿って呼ぶべきか……?」
《スキル殺し》はちょっと語感が微妙なので、《竜殺し》のままがいい。
それはともかく、アンデッド使いの証言についてだが、驚きの事実が明らかになった。
アンデッド使いは半年以上前からこの街に潜伏していたらしい。
そして今回、ニードルタートルの混乱に乗じてアンデッドを暴れさせ、人々の魂を奪おうとした。
何のために?
「我が主」とやらを復活させるためだ。
「我が主」の詳細は不明だが、それよりも重要なことがある。
アンデッド使いには共犯者がいた。
「こ、こ、この街の傭兵ギルドの支部長だよ! あいつも私と同じで、『我が主』のしもべさ!」
なるほどな。
筋書きが見えてきたぞ。
どうして傭兵ギルドが、ニードルタートルに独断で攻撃を仕掛けたのか。
それはニードルタートルを激怒させ、街を混乱に陥れるためだったのだろう。
傭兵ギルドの支部長とアンデッド使いが繋がっていたのなら、すべてはシンプルに説明できる。
支部長ともあろうものが悪事に手を染めるなんて、と思わないでもないが、傭兵ギルドだしな……。
ロクな評判を聞かないせいか、むしろ、ちょっと納得してしまった。
よし。
リリィのところへ戻るまえに、もうひと仕事だ。
傭兵ギルドに乗り込んで、支部長を締め上げるとしよう。
新年あけましておめでとうございます。
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