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第9話 銀髪の少女から、感謝の手紙をもらってみた。

昨日の更新が抜けてしまったので、本日2回目の更新です。


 俺は魔術師2人を撃退したあと、衛兵からの事情聴取を受けていた。

 とはいえ、衛兵の態度はとても好意的なものだった。


「あいつらは腕利きだけど、素行が悪くってねえ。我々としても手を焼いていたんだ。ありがとう。本当にありがとう」


 あの魔術師たちは、もともと、トゥーエの街でもかなりの嫌われ者だったらしい。

 住民や旅行客に絡んではしょっちゅうトラブルを引き起こす。

 けれども牢屋に入れるほどの悪事は働かないので、衛兵としては手を出しあぐねていたようだ。


 ちなみに俺のほうは正当防衛が認められ、また、攻撃魔法を発動させたわけでもなく、むしろ街の被害をゼロに抑え込んだことから、無罪放免が確定している。

 

「それにしても君、すごい実力だねえ。いくら相手が酔っていたとはいえ、あの2人を返り討ちにするなんて、普通はできることじゃないよ」

「ありがとうございます。運が良かっただけですよ」


 当たり障りのない受け答えをしつつ、俺は内心で疑問を覚える。

 あの2人って、そんなに強かったか?

 俺はこれまで黒竜やらオリハルコンゴーレムやらと戦ってきたわけだが、そのせいで、強さの基準が少しズレているのかもしれない。


 事情聴取のあと、詰め所から外に出ると、なぜかたくさんの人だかりができていた。

 なんだ?

 いったい、何が起こってるんだ?


「今夜の英雄が出てきたぞぉ!」


 野次馬のひとりが、そんなふうに叫んだ。

 英雄って、俺のことか?


「あのクズ魔術師をやっつけてくれてありがとうよ!」

「これで夜も安心して飲みにいけるわ!」

「あいつら、ちょっといいスキルを持ってるからって偉そうにしてやがったからな……ざまあみろだぜ!」


 どうやら魔術師2人は、とことんまでトゥーエの住民に嫌われていたらしい。

 そこに俺が現れて、連中を退治したわけで……そりゃ、まあ、感謝されてもおかしくないか。


「今夜は祭りだ! 酒持ってこい!」

「酒を持ってきたぞ! 英雄に乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 そこから先は大騒ぎだった。

 住民たちのテンションは高く、俺もやたら酒を勧められてしまった。




 * *




 騒ぎが一段落したところでその場を離れると、ばったりとアイリスに出くわした。

 アイリスは事情聴取が早く終わったため、銀髪の少女を宿まで送り届けてもらっていた。


 アイリスは肘でツンツンと俺の脇腹をつつきながら、冗談めかした調子でこんなことを言ってくる。


「大人気ね、英雄さん。《竜殺し》の次は《魔術師殺し》に改名かしら?」

「それは冤罪だ。俺は殺してないぞ」

「あはは、冗談よ、冗談」


 アイリスは楽しそうに笑い声をあげる。


「あの子、コウにとっても感謝してたわ。明日、お礼を言いに来るみたいよ」

「別に、そこまで気にしなくてもいいんだけどな」


 大人が子供を助けるのは、ごく自然な、当たり前のことだ。

 それは現代日本でも、異世界でも変わらない真実だと思っている。




 翌日。

 俺たちの乗る馬車は、夜が明けてすぐの出発だった。


 季節は秋から冬にさしかかっており、空気が冷たい。

 銀髪の少女はすこし眠たげな表情で俺たちを待っていた。


「き、昨日は……ありがとう、ござい、ました……」


 寒さによるものか、それとも緊張しがちな性格なのか、少女の声は震えていた。


「わ、わたし、王都の魔法学院の生徒で……用事があってトゥーエに来ていまして……その、あの、ええと…………、こ、これっ、読んでください……!」


 少女がスッと差し出してきたのは、薄桜色のかわいらしい便箋だった。


「わ、わ、わたし、うまく喋れない、から……文字に、しました。よ、よかったら、馬車の、時間つぶしに、どうぞ……」

「ありがとう。ちゃんと読ませてもらうよ」


 俺は便箋を受け取ると、ひとまずアイテムボックスに収納した。


 馬車の出発時刻はギリギリまで迫っている。

 ただ、御者さんも他の乗客たちも急かす雰囲気はまったくない。

 むしろ銀髪の少女に対して、温かい視線を向けていた。

 

 ……とはいえ、あんまり待たせるのも迷惑になってしまうし、そろそろ行くとしよう。


 俺が馬車に乗り込むと、少女は大きく頭を下げた。


「本当に、ありがとう、ございました……!」


 




 少女はかなり口下手だったが、手紙はその逆だった。

 文字は綺麗だし、文章も読みやすい。

 

 少女の名前はリリィ・ルーナリア、王都の魔法学院に通う14歳とのことだ。

 手紙には、簡単な自己紹介のあと、今回の件についての感謝がきっちりと述べられていた。

 そして最後に、暇なときでいいから旅先のことを手紙で教えてくれると嬉しい、と書いてあった。

 王都の魔法学院へ送れば、そのまま彼女のもとへ届くらしい。


 また、便箋には手紙のほか、押し花のしおりが同封してあった。

 お礼の品というわけだろう。

 花びらは薄黄色で、月の光によく似ている。


 アイリスに訊いてみると、この花は「月見花」といい、月の魔力をわずかに含んでいるのだとか。

 

「あの子の苗字……ルーナリアって、たしか、古い言葉で『月見花』を意味してるはずよ」

「自分の苗字にちなんだ押し花か。なかなかオシャレだな」

「他にもいろいろ意味が籠ってそうなのは、あたしの気のせいかしら……」


 あとで調べてみたが、月見花の花言葉は「あなたを忘れない」「永遠の愛」「深い感謝」などのようだ。

 もしリリィが花言葉を意識していたなら、おそらく「深い感謝」が正解だろう。

「あなたを忘れない」とか「永遠の愛」は、ちょっと関わっただけの相手に向ける感情としては重すぎるし、なにより俺は29歳のおっさんだ。

 向こうは14歳の子供なわけだし、お互いに恋愛感情が芽生えるわけがないだろう。


 

 馬車の旅はそのまま順調に続いた。

 方角としては、オーネンから東に進んでいる。

 定期便を乗り継ぎ、この日はスリエという街に泊まった。

 

 翌日は、昼過ぎの馬車で街を出る……つもりだったが、運航中止になっていた。


 なんでも、この先で強力な魔物が現れ、きわめて危険な状況らしい。

 昨夜、王都へ罪人を運ぶための高速馬車が襲われ、大きな被害を出したという。

 罪人は魔物に喰われ、馬車の護衛もほとんどが命を落としたようだ。


 ……魔物に喰われた罪人って、あの魔術師2人だったりしてな。


 さて、どうするかな。

 様子を見るか、あるいは、「英雄殺しの大剣」の実戦テストついでに強行突破を試みるか。


 とりあえず、街の冒険者ギルドで情報を集めてみようか。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

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