第7話 神話時代の魔王を素材にしてみた。
後半部にアイリス視点ちょっとあります。
俺はアイリスを家まで送っていったあと、自分の宿へと戻った。
ここに泊まるのも、今夜が最後だ。
明日にはオーネンを出ていくわけだが、その前に……恒例の【創造】タイムといこう。
さっき「竜の腕輪」を作ったことで【創造】はランク12になっている。
そのおかげだろうか、新しいレシピが頭に浮かんでいた。
まずは【素材錬成】の新レシピだ。
以前、魔物の群れを全滅させたとき、そのなかにブラックゴートという魔物が2000匹ほど混じっていた。
ブラックゴートは紙が大好物で、郵便屋を襲っては手紙をモシャモシャと食べてしまう。
なんて迷惑な黒ヤギさんなんだ。
その死体からは「ブラックゴートの黒毛皮」と「ブラックゴートの角」がいくつも入手できるのだが、【創造】のレシピが浮かばず、アイテムボックスの肥やしとなっていた。
「けど、これでやっと有効活用できるな」
【素材錬成】のレシピは次のようになっている。
『ブラックゴートの黒毛皮 ×100 → ディアボロスの黒毛皮 ×1』
『ブラックゴートの角 ×100 → ディアボロスの大角 ×1』
ディアボロスというと、たしか、ギリシャ語かイタリア語かで「悪魔」を意味していたはずだ。
西洋で「悪魔」とくればヤギの頭なわけだし、まあ、関連がないわけじゃない。
さっそく【素材錬成】を実行して、ディアボロスの黒毛皮と大角を手に入れる。
それぞれを【鑑定】すると、こんな説明文が頭に浮かんだ。
『ディアボロスの黒毛皮
説明:神話の時代において地上に君臨した魔王のひとり、「黒山羊の魔王」ディアボロスの身体から取れた毛皮』
『ディアボロスの大角
説明:神話の時代において地上に君臨した魔王のひとり、「黒山羊の魔王」ディアボロスの身体から取れた巨大な角』
奥さん、黒山羊の魔王ですってよ。
……思わず口調がおかしくなってしまったが、これはまた、とんでもない素材が生まれたものだ。
神話級魔物じゃなく、神話時代の魔王って、ちょっとインフレしすぎじゃないだろうか。
俺は驚きつつも、ディアボロスの素材を使ったレシピを確認する。
『ディアボロスの黒毛皮 ×20 + ディアボロスの大角 ×2 = ディアボロス・アーマー ×1』
黒毛皮も大角も、数としては十分に足りている。
よし、やってみるか。
正直を言うと、新しい防具が欲しかったんだよな。
スーツのまま旅をしていたら、どこかでオーネンの人間に出会って《竜殺し》だなんだと騒がれるかもしれないし、かといってアーマード・ベア・アーマーは目立ちすぎる。
ディアボロス・アーマーが、高性能で外見もマトモな防具でありますように!
俺は祈るような気持ちで【創造】を実行した。
『ディアボロス・アーマー
説明:ディアボロスの素材から作られた防具一式。
胸当て、籠手、マント、ブーツ、インナーの5種で構成される。
高い物理耐性・魔法耐性を誇り、着用者は闇魔法に対して最上級の適性を得る。
付与効果:《暗黒の王S+》《物理ダメージ遮断B+》《魔法ダメージ遮断A+》《威圧A》《甘党S》』
……おおっ!?
性能面としては、ものすごく優秀な防具のようだ。
とくに注目したいのは《暗黒の王S+》、なんと闇魔法への適性が与えられる。
「つまり、俺も魔法が使える、ってことか?」
これは面白そうだ。
俺のMPはとっくに1万を超えているわけだが、使い道らしい使い道がなく、宝の持ち腐れになっていたのだ。
だが、魔法が使えるなら話は別だ。
やっぱり異世界とくれば魔法だよな。
この世界には、まだまだワクワクする要素がたくさんあるようだ。
ところで《甘党S》が付与効果にあるってことは、黒山羊の魔王ディアボロスって、甘いものが大好きなんだろうか。
だとしたら気が合うかもしれない。
俺も甘いものは大好きだ。
* *
「はぁ……さっきのあたしを消し飛ばしたい……」
コウに家まで送ってもらったあと、あたしことアイリスノート・ファフニルは頭を抱えていた。
原因は「竜の腕輪」のことだ。
あたしはコウから「竜の腕輪」をプレゼントされたのだけれど、アイテムボックスから出てきたそれは、明らかに人間のサイズじゃなかった。
で、あたしは酔いが回っていたこともあってか、首輪と勘違いして……うぅ。
「なんで普通に首につけちゃったのよ、あたし……」
思い出すだけで、顔がカッと赤くなる。
恥ずかしさのあまり、あたしはベッドの上をゴロゴロゴロゴロと転げまわった。
いま、あたしは「竜の腕輪」を左腕に付けている。
腕輪の中央部には『竜の瞳』と呼ばれる最高級のルビーがはめ込まれ、澄んだ輝きを放っていた。
「コウのことだから、きっと知らないんでしょうね」
竜人族の女性に、瞳と同じ色の宝石を送るのはプロポーズのあかし。
まあ、コウにそのつもりがないのは分かってるけど。
そもそも異性として意識されてるかどうかも怪しいけど。
今夜だって、少しだけ背伸びして、大人っぽいワンピースを選んでみたものの、そこまで効果があったように思えない。
「……別に、意識されなくていいじゃない。あたしは、ただの冒険者仲間だし」
小さく呟きながら、腕輪を外す。
なんとなく、左手の指に持っていった。
腕輪に付与された《自動サイズ調整A+》が発動し、それは、指にピッタリの大きさになった。
まるで指輪みたい。
それを眺めていると、なんだかちょっと幸せな気持ちになって……あたしは眠りに落ちていた。
翌朝、あたしはうっかり寝過ごした。
大慌てで準備を済ませ、なんとか待ち合わせには間に合った……のだけど、ひとつ、大きなポカをやらかしていた。
あたしの姿を見て、コウはこう言ったのだ。
「アイリス、腕輪、指につけてるんだな」
そう。
あたしは昨夜「竜の腕輪」を左手の指につけたまま寝てしまったのだけど、それをもとに戻さないまま、コウと合流してしまったのだ。
ええっと。
それはなんと言いますか、その……。
神話の時代、魔王ディアボロスは地上に「甘味」をもたらし、人々を(体型的な意味で)堕落させました。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回はまたコウ視点に戻ります。
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