第6話 カジノでボロ儲けしてみた。
ダイスさんのカジノは、繁華街のどまんなかにあり、多くの人々で賑わっていた。
カジノというと上流階級の遊び場というイメージがあるが、ここはかなりカジュアルな雰囲気で、冒険者や傭兵と思しき人間の姿もかなり多い。
俺はアイリスを連れて、カジノの入口へと向かう。
「あ、あたし、カジノって初めてなんだけど……服装、これで大丈夫よね?」
アイリスはこの日、白いワンピースを着ていた。
赤髪とのコントラストが美しい。
サイズは大きすぎず小さすぎず、アイリスの均整の取れたプロポーションをうまく引き立てていた。
「大丈夫だ、問題ない。よく似合ってるぞ」
俺がそう告げると、アイリスは「えへへ」と嬉しそうに微笑んだ。
カジノから出入りする客のほとんどはラフな格好だし、俺もアイリスもそう浮くことはないだろう。
なお、俺はもちろんスーツ姿だ。
……アーマード・ベア・アーマーなんて着て行ったら、間違いなく門前払いだろうな。
カジノの入口でガードマンに招待状を見せると、慌てて奥へと駆け込んでいった。
応接室に通され、しばらく待っていると、シルクハットを被った初老の紳士がやってくる。
ダイス・ムーブさん。
このカジノのオーナーだ。
「おお、《竜殺し》殿! さっそく来てくださったのですな! 今日は存分に楽しんでいってください!」
挨拶もそこそこに、俺たちはフロアへと案内された――。
* *
ダイスさんカジノはちょっと特殊で、ゲームはすべて魔道具で動いており、ディーラーをまったく置いていなかった。
それによって人件費を削減し、大幅な黒字を出しながら各地に進出しているようだ。
イメージとしては、純粋なカジノというより、ゲームセンターのメダルコーナーに近いかもしれない。
カジノゲームの魔道具は【器用の極意】の対象になるらしく、(カジノにとって)大惨事を引き起こした。
俺はダイスさんの厚意で1万コムサ相当のカジノコインを譲ってもらったが、スロットマシーンで遊んでいるうち、10万コムサになっていた。そのあとクラップス(サイコロ勝負)で100万コムサに化け、さらにモノポリーのようなゲームで他の客からカジノコインを巻き上げていると、500万コムサにまで膨れ上がっていた。
元手ゼロから500万コムサの黒字というのは、我ながら驚きだ。
アイリスも隣で眼を丸くしていた。
「コウ、あなたって剣だけじゃなくてギャンブルも強いのね……」
「いいや、スキルのおかげだよ」
言うまでもないことだが、この世界にはスキルというものが存在する。
スキルにはギャンブルに役立つものがあり、それらを持っているかどうか、カジノ入口の魔導センサーで事前にチェックされる。
もしもスキルチェックに引っ掛かると、遊べるものに制限が掛かってしまう。
しかし【器用の極意】はスキルチェックをすり抜けてしまった。
おそらく、魔道具のチェックリストに【器用の極意】などというレアスキルは登録されていないのだろう。
とはいえ、俺としてはカジノで楽しく遊びたいだけで、賭場荒らしをしたいわけじゃない。
【器用の極意】が発動しないようなゲームはあるだろうか?
見つけた。
ルーレットだ。
魔導機械がディーラーをやっているのは他のゲームと同じだが、俺はあくまで数字を予想するだけなので、【器用の極意】が発動する余地もないはずだ。
どうせコインは腐るほどあるし、勝つことよりも楽しむことを優先しよう。
……と思っていたんだが、結果はとんでもないことになった。
「コウって、賭博師でも食べていけそうね……」
アイリスの声は震えていた。
俺は言葉を失っていた。
目の前には、山のようにカジノコインが積み上げられている。
負けるつもりで適当に賭けていたはずなのに、気付くと連勝を重ねてコインが膨れ上がっていた。
店員を呼んで数えてもらったら、その額は、1億コムサに相当するらしい。
これはさすがに勝ち過ぎだと思ったので、スキルのことも含めて、ダイスさんに相談させてもらった。
「【器用の極意】……そんなスキルが存在するとは、世の中、まだまだ広いですなあ」
「ダイスさん、このメダルはお返しします。さすがに申し訳ないので……」
「いえいえ、それには及びません! むしろスキルのことを正直に話してくださってありがとうございます。さすが《竜殺し》殿、高潔でいらっしゃる」
ほんとうに高潔な人間ならカジノで遊ばないと思うのだが、それはツッコんではいけない部分だろう。
俺はあえて黙っておく。
空気を読むのは社会人の習性だ。
そのあと色々と話し合ったが、最終的に、コインはそのまま俺のものになった。
カジノとしては大損のはずなんだが、ダイスさんによると、そうでもないらしい。
「今夜のことは我がカジノの宣伝に使わせていただければと思います。きっと、《竜殺し》殿の後に続けとばかりに、これまで以上に多くのお客様がやってくるでしょうから」
なるほど。
これがいわゆる「損して得取れ」というやつだろうか。
なお、カジノコインは換金せず、そのまま店に預けることにした。
いまのところ金には困っていないし、向こうだって、いきなり1億コムサを出せと言われても大変だろう。
「コウ殿、わざわざお気遣いいただいてありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、こちらをお受け取りください」
そう言って、ダイスさんは3つのものを差し出してきた。
ひとつめは、カジノの上級会員証だ。
系列店でこれを提示すれば、無料でVIPルームなどを利用できる。
ふたつめは、賭博師ギルドへの紹介状で、これを持っていけばプロの賭博師になれる。
プロの世界ではスキルも使い放題だが、当然ながらディーラーも色々とスキルを持っているため、一筋縄ではいかない世界のようだ。
(カジノ入口のスキルチェックで引っ掛かった者は、本来、すぐにプロ登録を勧められるものらしい)
みっつめは、カジノフロアに飾られていた大粒のルビーだ。
『竜の瞳』と呼ばれており、この世界では最高級とされる逸品なんだとか。
ルビーは深紅の色合いが美しく、内側から澄んだ輝きが放たれている。
ちょっと貰いすぎの気もするが、ダイスさんによると街を救ったお礼も兼ねているんだとか。
ありがたい話だ。
それにしてもこのルビー、アイリスの眼に似ているな。
そう思いながらルビーをアイテムボックスに収納すると、脳内に【創造】のレシピが浮かんだ。
「黒竜の鱗」と合わせることで、「竜の腕輪」というアクセサリーになるようだ。
【アイテム複製】でルビーのスペアを作ったあと、【創造】を発動させる。
『竜の腕輪
説明:「竜の瞳」をあしらった最高級の腕輪。
神話の時代、英雄は竜にこれを与えて親愛の証とした。
真紅の輝きは永遠に失われることなく、人と竜を繋ぐだろう。
付与効果:《精神耐性S+》《サイズ調整A+》《緊急召喚EX》』
《精神耐性S+》は文字通りの効果だし、《サイズ調整A+》も分かるだろう。
腕輪を付ける者にあわせて、「竜の腕輪」の大きさが変わる。
ただ《緊急召喚EX》は説明が必要かもしれない。
これは腕輪の送り主、つまりは俺が念じたときに発動する。
「竜の腕輪」の装着者を、俺のいるところへワープさせるのだ。
俺はすこし考えて、「竜の腕輪」をアイリスに渡すことにした。
アイリスとの付き合いはさほど長くないが、これから一緒に旅する仲間なわけだし、親愛の情もあることはある。
それに《緊急召喚EX》はいろいろと役立ちそうだしな。
たとえば危険地帯を通るとき、俺が《神速の加護S》で強行突破したあと、《緊急召喚EX》でアイリスを連れてくる、という方法が取れる。
余談だが、「竜の腕輪」はアイテムボックスから出した直後、かなり大きなサイズになっていた。
人間でいうなら首輪くらいの大きさだ。
アイリスは、酒が回っていたのもあるのだろうが、何の疑問も持たないまま「竜の腕輪」を首につけてしまった。
そのあとすぐに「腕につけたら腕のサイズになる」と教えたら、アイリスは顔を真っ赤にしていた。
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