第3話 トントン拍子で報酬をもらってみた。ついでに武器を披露してみた。
今回の報酬について、俺とメイヤード伯爵、それからギルドマスターのジタンさんを交えて話し合うことになった。
メイヤード伯爵の娘さん……セレンティーナも同席していたが、あくまで伯爵の護衛として付き添っているだけらしく、ほとんど口を挟むことはなかった。
さて、冒険者ギルドからの報酬だが、「魔物の群れの討伐」と「黒竜討伐」はクエスト扱いで報酬が出され、さらにメイヤード伯爵からは「街を無傷で守ったこと」への謝礼として報奨金が支払われるらしい。
まとめると、以下のようになる。
魔物の群れの討伐 3000万コムサ
黒竜討伐 6000万コムサ
報奨金(メイヤード伯爵) 3億6000万コムサ
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合計 4億5000万コムサ
4億5000万コムサ。
日本円に換算すると、約3億円になる。
たった1度の戦いでここまで儲かるとは思っていなかった。
俺のなかで今回のことは「異世界3億円事件」として心に刻んでおこう。
というか、メイヤード伯爵からの報奨金が桁外れに大きい。
さすが貴族家は格が違った。
メイヤード伯爵本人の話によると、この伯爵領は財政的にかなり潤っているらしい。
「とくにオーネンは我が国でも有数の商業都市なのだ」
と、メイヤード伯爵は言う。
「コウ殿がいなければオーネンは崩壊し、メイヤード伯爵領は経済的にも大きな損害を受けていただろう。……街を無傷で守ってもらった大恩は決して忘れん。儂が力になれることなら、なんでも相談してほしい」
ん?
いま、なんでも相談していいって言われたぞ。
ちょうどいいタイミングなので、古代遺跡のことを話してみると、ほとんど二つ返事で所有権を認めてもらえた。
あまりにもスムーズに話が進むものだから、逆にこっちが戸惑ってしまう。
「コウ殿は遺跡からマスターとして認められたのだろう? であれば、儂が横から口を出す筋合いはあるまいよ。遺跡を大切にしてやってくれ。ガハハハハ!」
メイヤード伯爵は戦国武将みたいな外見だが、中身もなかなか剛毅というか気前がいいようだ。
「その代わりと言ってはなんだが、今回の戦いでコウ殿が使っていた武具を見せてはもらえんかな」
「武具というと、剣とか鎧ですか?」
「うむ。儂はいわゆる英雄譚が大好きでな、コウ殿の活躍に年甲斐もなく胸をときめかしておる。現代の英雄がどのような鎧を纏い、どのような剣で黒竜を討伐したのか。気になって夜しか眠れんのだ」
夜しか眠れない、というのはレリックも使っていた言い回しだが、もしかして貴族のあいだで流行っているのだろうか。
それはともかく、メイヤード伯爵のリクエストに応えるとしよう。
まずは鎧だな。
「鎧というにはちょっと軽装ですが、昨日の戦いではこの服を着ていました」
俺は立ち上がると、ピン、とスーツの裾を引っ張ってアピールする。
さすがにこの返答は予想外だったのか、メイヤード伯爵は目を丸くした。
「なんと……! 品のいい礼服と思っていたが、まさかその姿のまま戦っていたとは……!」
まあ、驚かれて当然だよな。
俺自身、スーツで剣を振るう日がくるとは思っていなかった。
「いやはや、コウ殿には本当に驚かされる。防御を捨て、攻めと回避に専念しているわけか」
「いえ、実はこの服、フェンリルの素材を生地に使っています。《物理ダメージ遮断A》と《魔法ダメージ遮断A》
が付与されているので、普通の鎧よりもずっと頑丈なんですよ」
「フェンリルだと……!?」
メイヤード伯爵はゴクリと息を呑んだ。
「伝説級の魔物ではないか。そんな服を、いったいどこで手に入れたというのだ……!?」
「自分で作りました」
「コウ殿は冒険者だけでなく、職人としても超一流ということか! ぬう、まさしく規格外の存在よ……!」
「ありがとうございます」
俺は礼を述べ、そのまま剣の紹介に移る。
アイテムボックスから「ヒキノの木剣」を取り出した。
「こちらが、黒竜退治に使った剣になります」
「コウ殿、これはただの木剣にしか見えんのだが」
メイヤード伯爵は戸惑いの声をあげる。
そりゃそうだ。
木剣で竜を倒すとか、他人からすればタチの悪い冗談にしか思えないだろう。
俺はもう少しだけ説明を足すことにした。
「この木剣、俺が自作したものなんです。《斬撃強化A+》が付与されていて、見た目以上の斬れ味なんです。……よければ、実演しましょうか」
「おお!それは面白そうだ! ぜひとも頼む!」
メイヤード伯爵たっての願いで、俺たちはギルド地下の訓練場に移動することになった。
鋼鉄製の古い鎧(引退した冒険者が寄付したもの)がすみっこに置いてあったので、これを模擬戦用の大きな藁人形に着せ、犠牲者になってもらうことにした。
「はあっ!」
俺は気合いとともに木剣を振り下ろす。
【器用の極意】によって完璧な角度と速度で放たれた斬擊は、鋼鉄の鎧ごと藁人形を断ち切っていた。
その光景に、メイヤード伯爵も、セレンティーナも、ジタンさんも息を呑んでいた。
「……素晴らしい!」
メイヤード伯爵は大きく拍手しながら俺のところに駆け寄ってくる。
「たしかにその木剣、見事なまでの斬れ味であった! コウ殿、疑って悪かった! すまん!」
「いえいえ、疑いたくなる気持ちも分かりますし、お気になさらず」
「おお、なんと心の広い……! しかし、素晴らしいのは木剣だけではない。それを扱うコウ殿の剣技もまた驚くべきものであった。セレンティーナもそう思わんか?」
いきなり話の矛先を向けられ、セレンティーナは少し戸惑っていたが、やがて静かに頷いた。
「私も父上と同じ意見です。コウ殿の実力は、すでに達人の域にあるとお見受けします」
「うむ! 儂とセレンティーナが同時に襲い掛かったとしても、コウ殿を倒すことはできんだろう」
メイヤード伯爵はそう言ったあと、何かを思いついたようにポンと手を叩いた。
「コウ殿、よければ一度、手合わせ願えんか? 勝てるとは思えんが、強敵を見れば血が騒ぐ性分でな。貴殿の実力というものを見せてほしい」
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