第29話 伝説の黒竜を倒してみた。
【お詫び】
ところどころ「高出力魔導レーザー砲(試作型)」と「超大型魔導レーザー砲(試作型)」と表記ブレしておりました。「超大型魔導レーザー砲(試作型)」で統一します。
ダークボアを全滅させたことで、俺のレベルはまたも上がっていた。
……実際にはガーディアンゴーレムが倒してくれたわけだが、その経験値は“持ち主”の俺に入るようだ。
『レベルが45になりました。【異世界人】内サブスキル【エネミーレーダー・収束】が解放されます』
またも新しいサブスキルが解放されたらしい。
現在、俺はレベル45となっている。
【エネミーレーダー】では俺を中心として半径450メートル以内の魔物の居場所をサーチする。
【エネミーレーダー・収束】を発動させると、サーチ範囲が前方に限定されてしまうが、サーチ距離は4倍に延びる。
つまり1.8キロメートル先まで魔物の存在を探ることが可能なのだ。
「これは使えるな」
当初の予定では、スーツに付与された《神速の加護S》を発動させて山のなかを駆けまわり、【空間跳躍】や【エネミーレーダー】を駆使して群れの全体像を把握、その後、群れの中心部を「超大型魔導レーザー砲(試作型)」で吹き飛ばすつもりだった。
だが【エネミーレーダー・収束】を使えば、最初の手間を大きく省けそうだ。
「……やるか」
早速、発動させてみる。
俺の立っている場所からだと山のほぼ全域をサーチ範囲に含めることができた。
【オートマッピング】による脳内の周辺地図に、魔物の位置情報が赤い点で表示されていく。
「真っ赤だな」
山の中腹あたりから向こうは、すべて魔物を示す光点に塗り潰されていた。
まるで百鬼夜行だ。
そういや日本の百鬼夜行って、「とんでもなく強い妖怪から逃げる妖怪の群れ」みたいな説があるんだっけ。
もしかしてこの魔物たちは、もっと恐ろしい怪物から逃げようとしてるんじゃないか?
……たとえば、黒竜とか。
あまり考えたくない可能性だが、悪い予感というものは当たるものだ。
俺のなかで黒竜の出現はほぼ確定事項となっていた。
まあ、はじめから最悪の事態を考えておいたほうが、いざそうなったとき絶望せずに済むしな。
「ともあれ、目の前の問題から片付けるか」
魔物の群れは一直線にこちらへ向かっている。
つまり、「超大型魔導レーザー砲(試作型)」の使いどころ、というわけだ。
アイテムボックスから取り出してみれば、それは戦車のような大きさと形をしていた。
キャタピラ付きの角ばった砲台の前方から、戦艦の主砲じみたサイズの砲塔が伸びている。
後方には液晶のようなスクリーンがあり、薄青色の光を放っていた。
俺はスクリーンにそっと右手で触れる。
すると、無機質な低い声が脳内に流れ込んできた。
これはレーザー砲の持つ機能だろう。
レベルアップの時に聞こえるものに比べると、声質がやや硬く、人工的だ。
『起動シークエンス完了。魔力の充填シークエンスを開始してもよろしいですか?』
「構わない」
俺がそう答えると、スクリーンが強く光った。
身体のなかからごっそりと何かを持っていかれるような感覚がする。
ステータスを確認するとMPがごっそりと減っていた。
たしか、必要なMPは10000だったはずだ。
『魔力の充填シークエンス終了。発射シークエンスを開始してもよろしいですか?』
俺が「構わない」と答えると、レーザー砲はヴィンヴィンヴィンと何かが回転するような駆動音を立て始める。
『発射まで10、9、8、7――』
砲塔の操作は、念じるだけで可能だった。
俺は【エネミーレーダー・収束】で得た情報と照らし合わせながら、きっちりと狙いをつける。
『3、2、1、0』
極大の熱線が放たれた。
それは山の木々ごと魔物たちを焼き尽くす。
脳内の地図では、魔物を示す光点がごっそりと消えていた。
まだレーザーの照射は続いている。
俺は砲塔をやや斜め上に向け、山の中腹から山頂までを焼き払った。
魔物はもう1割も残っていない。
レーザー砲の威力は凄まじく、山の木々は消し飛び、さらに、山頂部がごっそりと削れていた。
削れた山頂の向こうに、夕陽が見える。
……あれ?
俺は自分の眼を疑わずにいられなかった。
いきなり空が歪んだかと思うと、巨大な黒い球体が現れ、夕陽を遮った。
まるで日食のような光景だった。
俺はすぐに【鑑定】を発動させる。
『極滅の黒竜
千年に一度だけ現れる災厄の竜。
前回の出現時に強敵を食らったことで、鱗に《魔力反射S+》が付与された』
来た。
やっぱり来た。
魔物の群れは、きっと、コイツから逃げようとしていたんだろう。
同じ魔物からも恐れられる怪物……極滅の黒竜。
しかも、遺跡で戦ったシミュレーションよりタチが悪そうだ。
《魔力反射S+》って、魔導レーザー砲が効かないどころか跳ね返されるってことじゃないか?
参ったな、強敵じゃないか。
黒い球体がどんどん膨らみながらヒビ割れていく。
あれは卵のようなものなんだろう。
やがて卵は内側からはじけ……巨大な黒竜が姿を現した。
「ガァァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
咆哮が、大地を揺らした。
黒竜を示す光点は【エネミーレーダー・収束】にギリギリ収まる地点にある。
キロ単位の距離が離れているにもかかわらず、威圧感がここまで伝わってくる。
黒竜は翼を羽搏かせ、こちらへとゆっくり近づいてくる。
俺は自分のステータスを確認する。
【魔力回復EX】のおかげで魔力はとっくに全回復していた。
魔導レーザー砲はひとまずアイテムボックスに仕舞っておく。
今はまだ、使いどころじゃないからな。
先制攻撃は、黒竜からだった。
「グゥゥゥゥゥアアアアアアアアッ!」
その口から火炎球が放たれる。
シミュレーションではたったひとつだったが、ここでは連続して2つだった。
俺はすぐさまヒキノのテーブルを取り出し、脚を掴んで振り回す。
「おおおおおおおおおおおおおおおっ!」
最初の火炎球を撃ち返した。
反射された火炎球は猛烈なスピードのまま2番目の火炎球に激突し、大爆発を起こす。
黒竜はさらに2発、火の玉を吐き出した。
……だがそれは、俺を狙ったものではなかった。
火炎球は俺のはるか後方、オーネンの街へ向かおうとしていた。
もしも街に火炎球が直撃すれば、大惨事になるだろう。
ミリアさんもアイリスも、クロムさんもレリックも、ギーセさんもその奥さんも娘さんも、ヒールポーションで助けた女の子2人も、みんなみんな焼け死んでしまう。
黒竜の、赤い瞳が俺を見ていた。
まるで嘲笑うかのような視線だった。
――守るべきものを守れなかった気分はどうだ?
黒竜はそう言いたげに眼を細める。
舐められたものだ。
俺は【器用の極意】によって、所有アイテムの性能を完全に理解している。
だから今だって、まったく動揺していない。
……俺は背後で待機しているガーディアンゴーレムに命じる。
「バリア展開、ピンポイントで防げ」
ガーディアンゴーレムは返答代わりに駆動音を響かせると、両手を高く掲げた。
天空に、青白い魔力の壁が展開される。
そこへ火炎球がぶつかった。
爆発が起きる。
だが、バリアはキズひとつない。
オーネンの街を消滅させるはずだった火炎球は、バリアによって完全に塞がれていた。
「グゥゥゥッゥゥアアアア!」
黒竜が咆哮する。
だがその声色は、どこか動揺しているようにも感じられた。
俺は続けてガーディアンゴーレムに命令する。
「黒竜を叩く。支援してくれ」
《神速の加護S》を発動させ、走る。
大地を蹴って、跳躍した。
それにタイミングを合わせるように、ガーディアンゴーレムがバリアを展開する。
ただしそれは攻撃を防ぐためのものじゃない。
足場だ。
俺は空中でバリアを蹴り、さらに高く飛ぶ。
飛んだ先には再びバリアがある。
踏みつけて、さらに高く、高く、高く。
数秒とかからず、俺は黒竜に肉薄していた。
ヒキノの木剣を取り出し、すれ違いざまに斬りつける。
どうやら鱗じたいも頑丈になっているのか、まっぷたつとはいかなかった。
だが、斬撃を繰り出すたび、ダメージは確実に通っている。
俺はバリアを蹴り、黒竜を四方八方から斬りつけていく。
「グゥゥゥアアアアッ!」
黒竜は接近戦に慣れていないのか、手足や尻尾をめちゃくちゃに振り回すことしかできなかった。
だが、そんな攻撃が当たるはずもない。
「はああああああああっ!」
木剣を振りかぶって、叩きつける!
肉を断つ手応え。
黒竜の尾が斬れ、地面へと落下する。
結果、空中でのバランスが取れなくなったのか、黒竜は落下を始める。
黒竜はそのまま地面に衝突し、ぐったりと動かなくなった。
やったか?
そんなわけがない。
倒したならば、アイテムボックスに死体が回収されるはずだ。
俺は地面に降り立つと、黒竜の前面に回った。
「グ……ァ……ッ!」
黒竜はまだ闘志を失っていないようだった。
全身から血を流しながらも、こちらを睨みつけている。
その口からは黒い煙が上がっていた。
火炎球を撃つつもりだろう。
だが、その前にトドメを刺す。
俺はアイテムボックスから「超大型魔導レーザー砲(試作型)」を取り出した。
ただしその砲塔は、黒竜の口の中へと捻じ込まれる形になっている。
黒竜は、魔力反射の鱗を持つ。
裏を返せば、身体の内部は無防備ということだ。
魔力を充填した。
カウントダウンが始まって……終わる。
黒竜が火炎球を放つより先に、零距離の魔導レーザーがその身体を焼き尽くした。
アイテムボックスを確認する。
「極滅の黒竜の死体 ×1」が収納されていた。
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