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第2話 魔物と遭遇した。

 ゲームの遊び方はひとそれぞれだが、RPGの場合、俺は序盤にしっかりレベル上げをするほうだ。

 最初の村でひたすら経験値を稼ぎまくり、適正レベルを大幅に超えてからようやく旅に出る。

 当然ながらザコは瞬殺だし、ボスを通常攻撃一発で倒せたときは「よっしゃ!」とガッツポーズしたくなる。


 つまり何が言いたいかといえば、だ。


「【創造】、【創造】、【創造】――!」


 俺は異世界に召喚されたわけだが、最初の地点からまだほとんど動いていない。

 まわりに生えているヒキノの木を素材にして、ひたすら【創造】のランク上げに励んでいた。

 その甲斐あってか、すでにランク5となっている。


「これ以上のランクアップは無理かな」


 すっかり見晴らしがよくなった周囲を眺めながら、俺はひとりつぶやく。

 いろいろと試したおかげで、【創造】のランクアップについてそれなりに理解できた。

 簡単にまとめると次のようになる。


 1.新しいレシピで【創造】を行ったときにだけ経験値が入る。

 2.経験値が一定値に達するとランクアップする。

 3.既存のレシピを何度繰り返しても経験値は入らない。


 現状、ヒキノの木を素材とするレシピは6種類だ。

 ヒキノのぼう、ヒキノの木槍に加えて、木剣、おおきづち、食器セット、テーブル、椅子。

 それぞれ《斬撃強化A》や《気絶強化S+》などといった強そうな効果が付与されている。


《気絶強化S+》は椅子の特殊効果だ。

 これで殴れということだろうか。

 異世界って怖い。


「……そろそろ移動するか」


 太陽はまだ高いところにあるが、いずれ夜が来る。

 森で野宿というのは避けたいところだし、できるなら、太陽が出ているうちに人里まで辿り着きたかった。


「そもそも人間がいるかどうかも分からないけどな」


 これがネット小説なら、異世界に召喚されるまえに神様からの説明があるのだろう。

 だが俺の現実はハードモードらしく、異世界の事前情報はゼロだった。

 最悪のケース……人間が俺だけという可能性も覚悟しておくべきだ。


 

 * *



 森のなかを進んでいく。

 異世界転移の際にスマートフォンがどこかに消えてしまったため正確な時間は分からないが、たぶん、2、30分ほど歩き続けている。

 にもかかわらず、疲労はまったく感じなかった。


「これが、森のマイナスイオンの力……!」


 というのは冗談として、きっとスキルのおかげだな。


『【異世界人】:ランク99(最大値)

 身体能力、精神力、直感力、スキル習得、レベルアップ、ランクアップなどに補正がかかる。

 出身世界の難易度によりランクが決定され、数値が高いほど補正が大きくなる』


 俺の【異世界人】はランク99の最大値だ。

 出身世界の難易度によってランクが決まるってことは……地球って、もしかして難易度MAXの世界なのか?

 衝撃の事実すぎるが、理由はいちおう推測できる。

 たとえば「魔法のある世界」が当たり前だと仮定しよう。

 そのスタンスに立つなら、地球という「魔法がまったく存在しない世界」は最高難易度になってもおかしくない。


 まあ、理屈はともあれ俺には色々なプラス補正が掛かっているらしい。

 ありがたやありがたや。


「ん?」


 俺はふと立ち止まった。

 というのも、人の声が聞こえたような気がしたのだ。

 耳を澄まし、意識を集中させる。


 ――うわあああああああっ!


 今度は、よりはっきりと聞こえた。

 男の悲鳴だ。

 何が起こっているのかよく分からないが、ひとまず、人間がいることだけは確かだろう。


「行ってみるか」


 危険な予感もするが、このまま何のアテもなく森をうろつくよりはいい。

 念のためアイテムボックスから「ヒキノの木槍」を出しておく。

 付与効果の《投擲クリティカルA+》《命中補正S+》もあり、遠距離からの攻撃が可能だからだ。


 槍を構え、声の聞こえたほうへと進んでいく。 

 やがて森が途切れ、視界がパァッと開けた。

 そこは草原のような場所だ。

 左右に大きめの道が走っており、ここから少し離れた場所に荷馬車が止まっていた。


 荷馬車のすぐ近くに、怪物がいた。

 それは巨大な熊で、首から下が鎧じみた物体に覆われていた。

【鑑定】を発動させると、その特徴が頭に流れ込んでくる。


『アーマード・ベア 

 結晶化した魔素を纏った熊型の魔物。その身体は闘争を求めている。

 高い防御力を誇るが、頭部は守られていない。

 武器・防具の素材として優秀であり、肉も美味』


 その身体は闘争を求めている。

 物騒な熊だな、おい。


 地面には剣や盾がうち捨てられており、遠くに目をやれば、大慌てで逃げ出していく青年たちの姿が見えた。

 予想するに、青年らは荷馬車の護衛だったが、熊に恐れをなして逃げ出したのだろう。

 

 ――く、来るな! 来るんじゃない!


 荷馬車のそばには、ひとりだけ小太りの男性が取り残されていた。

 商人のような服装だ。

 もしかして荷馬車の主だろうか? 

 剣を持ってはいるが、構えはぎこちなく、明らかに非戦闘員といった印象だった。


 熊はこちらに気付いていない。

 逃げるなら今のうちだろう。

 現実的に考えれば、それが賢明な判断のはずだ。


「いや、行ける。……気がする」


【異世界人】スキルで直感力に補正が掛かっているおかげだろうか?

 俺は確信していた。

 こいつには勝てる、と。

 


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