第28話 魔物の群れを薙ぎ払ってみた。
あたし――アイリスノート・ファフニルはすごい勢いで置いてけぼりを食らっていた。
古代遺跡のことを冒険者ギルドに報告したらおしまい! ……と思っていたら、魔物が大発生したなんて話を聞かされ、いきなりコウがゴーレムを出し、ギルドマスターがやってきてコウを奥へと連れて行ってしまった。
あまりにも急展開すぎる。
頭が付いていかない。
あたしはひとり、ポツン、と窓口のまえに取り残されていた。
コウが注目されすぎて、誰もあたしのことなんて気にも留めていない。
……でも、そこまで気分は落ち込んでなかった。
なぜならコウは、ギルドマスターに連れて行かれる前、あたしにこう言ったのだ。
「すぐに戻るから待っててくれ」って。
なんでもない一言だけど、コウはあたしのことを仲間として扱ってくれている。
それがすごく嬉しかった。
そりゃ、本音を言えば、ギルドマスターとの話にも参加したかった。
「……でも、あたしなんて大したことないから、仕方ないわよね」
つい、言葉に出てしまった。
……すると、窓口にいたミリアさんがすごい勢いでツッコミを入れてきた。
「いやいや! アイリスさんは大したことありますからね!? まだ20歳なのにAランク冒険者って、じゅうぶん人間の枠を超えてますから!」
「あたし、人間じゃなくて竜人なんだけど……」
「竜人でもこんなに早くAランクになった人はいませんから! ……コウさんがあまりに規格外すぎるだけですから、比べちゃダメですよ」
「そうよね。あいつ、ホント無茶苦茶よね……。オリハルコンゴーレムを木剣でまっぷたつにするとか、【剣聖】スキル持ちでもできない芸当よ」
あたしが昔入っていたパーティに【剣聖】持ちがいたけど、オリハルコンゴーレムにはキズひとつつけられなかった。それだけでもコウの実力がとんでもないことがよく分かる。
「そういえばアイリスさん、コウさんと仲がいいんですか?」
「……どうかしら」
答えようとして、言葉に詰まってしまう。
あたし自身、自分の気持ちを掴みあぐねていて……かろうじて言えたのは、これだけだった。
「あたしはコウの護衛よ。たぶん、それだけ」
あたしとミリアがそんな話をしていると、やがて奥からギルドマスターがやってきて、Aランク冒険者に招集をかけた。
防衛戦の動きについて、大きな変更があったらしい。
……そこで明かされたのは、まったく予想だにしない作戦だった。
* *
俺の提案した作戦は、正直、“作戦”というほど頭のいいものじゃない。
内容はいたってシンプルだ。
まず俺が単騎で突撃し、【空間跳躍】と【エネミーレーダー】を使い、群れの全体像を把握する。
その後、俺が遺跡で手に入れた「超大型魔導レーザー砲(試作型)」で群れの中心部を吹き飛ばす。
最後に、俺がふたたび単騎で突撃し、残った魔物を叩いていく。
略して「俺・俺・俺大作戦」。
……まるでオレオレ詐欺みたいだ。
どうやら俺にネーミングセンスはないらしい。
なお、ひとりでは倒しきれない魔物も出てくるだろうが、そのあたりはガーディアンゴーレムに任せればいい。
頭部の魔導レーザー砲は500mもの長射程を薙ぎ払えるので、街道に配置しておけば、オーネンまでの通り道はすべてカバーできる。
それでも撃ち漏らしがいれば、Aランク、Bランクの冒険者たちが後詰めに控えている。
対応策としては万全だろう。
俺はギルドマスターの了承を得ると、すぐに山へと向かった。
いきなり山のなかにワープするのは危険すぎるので、山とオーネンの中間地点くらいに【空間跳躍】する。
そこからはスーツに付与された《神速の加護S》を使い、山へ向かうつもりだった。
「……あれ?」
ギルドマスターから聞いた話だが、山の麓に即席の物見台を作り、群れの動きを見張らせているらしい。
もし群れに大きな動きがあれば、煙を炊いて連絡する手筈になっているんだとか。
……ちょうどいま、物見台のほうから煙があがり始めた。
どうやら魔物が動き始めたらしい。
俺は【エネミーレーダー】を発動させる。
どうやらモンスターは赤い点でピカピカと表示されるらしいが、物見台に向かってものすごい数の光点が押し寄せていた。
まるで洪水だ。
「……まずいな」
いま煙が上がったことを考えるに、物見台にはまだ人がいるはずだ。
もちろん見捨てるつもりはない。
俺は《神速の加護S》を使い、物見台へと疾走する。
物見台を襲っていたのは、大きな黒いイノシシたちだった。
ただしその口からは、まるでマンモスのような牙が伸びている。
【鑑定】によると名前はダークボア、その肉はトロけるような絶品らしい。
俺はアイテムボックスから「ヒキノの剣」を2本取り出すと、左右の手に握って突撃した。
「うおおおおおおおおおおおおっ!」
極限まで加速された斬撃で、ダークボアを肉塊へと変えていく。
同時に、物見台にいるはずの見張りを探す。
……いた。
出入口のところでダークボアに囲まれていた。
地面を蹴り、高く飛ぶ。
落下しながらダークボアを斬り伏せ、冒険者たちの前に降り立った。
「大丈夫ですか?」
「君は……コウくん?」
冒険者の1人は見知った顔だった。
ギーセ・イッシャーさん。
俺の登録試験を担当してくれた教官だ。
「ギーセさん!? 引退して教官やってるんじゃなかったんですか!?」
「群れの見張りは危険な仕事だからね。ひとりは教官が加わるルールなんだ」
ルールならしかたないが、あまり無茶はしないでほしい。
なにせギーセさんには奥さんと、まだ小さな娘さんがいるんだから。
「コウくん、いったいどうしてここに?」
「作戦が変更になりました。魔物の群れは俺が叩きます」
「待つんだ。いくら君が強いと言ってもこの数はさすがに……」
「苦情はあとでギルドマスターにお願いします」
俺はサラッと責任をギルドマスターに丸投げすると、ギーセさんの腕を掴んだ。
他の2人はそれぞれ年若い男女の冒険者だった。
距離が近いので、もしかするとカップルかもしれない。
普段なら、リア充爆発しろ! なんて冗談を飛ばしていただろうが、いまはそんな場合じゃない。
「2人も俺につかまれ。ここから離脱する」
2人はすこし戸惑ったような表情を浮かべていたが、状況が状況だからだろうか、素直に俺の命令に従ってくれた。
よし。
俺は【空間跳躍】を発動させ、冒険者ギルドのロビーに戻る。
「こ、ここは……?」
ギーセさんも2人の冒険者も、いきなりのワープに驚いていた。
でも、事情を説明しているヒマはない。
「苦情も疑問もぜんぶギルドマスターにお願いします」
すべてをギルドマスターに押し付け、俺はふたたび【空間跳躍】を使う。
出現視点は、物見台のすこし手前だ。
超大型魔導レーザー砲(試作型)を使うか?
いや、できればもっと多くの魔物を巻き込みたい。
とはいえ、ダークボアを一匹一匹仕留めていくのは手間だ。
だったらどうするのか。
答えは俺のアイテムボックスにある。
ガーディアンゴーレムを取り出し、命じた。
「撃て」
ガーディアンゴーレムは、たったひとことですべてを理解したらしい。
ヴォォォォォォォォンと激しい駆動音が鳴り響き、両腕を地面についてオリハルコン製の身体を固定する。
その両眼から、極大の魔導レーザーが放たれた。
左から右へと乱雑に薙ぎ払われたレーザーは、物見台ごと大地を抉り、ダークボアを消滅させた。
アイテムボックスを確認すると「ダークボアの死体」が500個近くストックされている。
ふう。
とりあえず、第一波は全滅させた、ってところか。
第二波が来る前に、こっちから山へ攻め込もう。
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