第24話 伝説の黒竜(仮想)を倒してみた。
「とりあえず、ぜんぶアイテムボックスに回収しておくか」
俺のまわりにはボロボロの剣やら盾やらが雑に転がっている。
ひとつひとつ拾い上げてはアイテムボックスに入れるのだが、だんだん面倒になってきた。
もうちょっと便利にならないだろうかと思っていたら、頭のなかに声が聞こえた。
『既定の素材採集回数を満たしました。【範囲採集】が解放されます』
おっ、ナイスタイミング。
【範囲採集】はその名前のとおり、念じるだけで一定距離内の素材を回収してくれるようだ。
いままでは手で触れる必要があったが、その手間が省けるのはありがたい。
俺は管理者限定エリアのなかを軽くランニングしながら【範囲採集】を発動させた。
……ふう。
いい運動になった。
ついでに素材もすべて回収できた。
一石二鳥だな。
さて【創造】を始めようか……と思ったところで、ポツン、とひとつだけ取りこぼしがあることに気付く。
違う、それはアイテムボックスに回収できないものだった。
半透明のぽよぽよした謎生物。
おせわスライムだ。
「マスターさん! たすけてくれて、ありがとう!」
「助けた? 俺が?」
「うん! マスターさんが来るまえにこのエリアの掃除をしておこうと思ったら、いろいろと倒れてきて、ぺちゃんこになってたの!」
どうやらこのスライム、ちょっとポンコツらしい。
「あっ、いま、ぼくのことポンコツって思ったでしょ!」
なかなか鋭いな。
大正解だ。
「たしかにポンコツかもしれないけど、ぼくにはすごい機能があるんだよ! マスターさん、この遺跡が何のために作られたか、説明させてもらっていい?」
「遺跡が作られた理由……? そうだな、マスターとして把握しておきたい。教えてくれ」
「わかった! じゃあ、ぼくと眼を合わせてね! えいっ!」
スライムの眼を見ると、瞬間、風景が切り替わる。
俺は天空高くに浮かんでおり、そこから地上を眺めていた。
どこからか、スライムの声が聞こえた。
「マスターさんの意識に干渉して、映像を見せているよ! 音も匂いもあるけど、現実じゃないから安心してね!」
つまり、VRみたいなものだろうか?
まさか異世界で仮想現実を体験するとは思わなかった。
地上を見れば、大きな街が広がっている。
規模としてはオーネンの十倍以上だろう。
街並みもずっと洗練されており、現代日本に近い印象を受ける。
「これは5000年前の記録だよ! ここからが大切だからよく見ててね!」
5000年前ということは、もしかして、この遺跡が作られた当時だろうか?
……などと考えていたら、突然、視界の下を巨大な竜が横切った。
全身は黒く、ごつごつした鱗に覆われている。
その気配はあまりに禍々しく、現実ではないと言われていてもなお、逃げ出したくなるような威圧感を漂わせていた。
「あれは『極滅の黒竜』、たった3日で5つの国を滅ぼしたおそろしい竜だよ」
スライムの解説と同期するように、黒竜は口から火球を吐いた。
それは激流のような勢いで大地に激突し、あたり一面を燃やし尽くす。
さっきまで視界いっぱいに広がっていた街は、わずか数秒で焼け野原に変わっていた。
「『極滅の黒竜』は1000年に1度現れては、地上に大きな破壊をもたらすんだ。およそ7日間ほど暴れて、どこかに姿を消す。……神話の時代からずっとそれを繰り返しているんだって」
重要な話だからか、スライムの声はひどく真剣なトーンに変わっている。
「ぼくたちの文明は必死に戦ったけれど、被害を抑えられず、たくさんの人が死んでしまった。……だから、未来の人々のためにこの遺跡を作ったんだ。生きていれば、やりなおしがきくからね」
つまり、この遺跡は避難シェルターというわけか。
黒竜が出たらみんなでここに籠城し、嵐が過ぎ去るのを待つ、と。
まるで天災だな。
俺としては、生きているあいだにそんな事態が起こらないことを祈るばかりだ。
……前フリじゃないぞ。前フリじゃないからな。
教官のギーセさんが「何かとんでもない魔物が出てくる前ってのは、妙なことがよく起こるものなんだ」って言ってた気もするが、できれば気のせいであってほしい。
「マスターさん、あの、えっと……」
映像が終わってあたりが真っ暗になると、なぜか、スライムが申し訳なさそうに話しかけてきた。
「ぼくに映像機能をつけたのは大賢者メビウスってひとなんだけど、余計な機能までつけてたみたいで……ご、ご、ご、ごめんなさいっ! 知ってたら、マスターさんに映像を見せなかったのに……!」
スライムはやたら焦っているが、これから何が起こるのだろう。
首を傾げていたら、急に、まわりの風景が切り替わった。
明らかに仮想空間っぽい、真っ白な場所だ。
そこに俺と……巨大な黒竜の姿があった。
「まさか、戦えってことか……?」
「う、うん……」
スライムの声はほとんど泣きそうになっていた。
「マスターさんに危機感を覚えてもらうために、黒竜との仮想戦闘が組み込まれてたみたい! いちおう痛みとかは感じないようになってるけど……。なんとか解除できないか頑張ってるから、待ってて!」
待てと言われても、待てるような状況じゃなかった。
黒竜はこちらを睨みつけると、全身を震わせ……その口から、火の玉を放った!
まずいっ!
俺は命の危機を覚え……いや、あくまで仮想現実だから大丈夫なのか?
だが、架空であっても全身を焼かれるのはゴメンだ。
【器用の極意】が発動する。
俺がアイテムボックスから取り出したのは、「ヒキノのテーブル」。
こいつには《火炎反射S+》が付与されている。
火事に遭っても燃えない安心仕様なのだが、どうやら想像以上の性能だった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
俺はテーブルの脚を掴んで振り回すと……飛来する火炎球を撃ち返した。
野球で例えるならホームランの手応え。
反射された火炎球は猛烈なスピードのまま黒竜に直撃する。
「グアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
自分の攻撃を跳ね返され、黒竜の身体が傾く。
どうやら大きなダメージを与えたらしい。
だったら、このまま一気に畳みかける!
俺は衣服をアーマード・ベア・アーマーに変更し《怪力C+》を発動させた。
アイテムボックスからヒキノの木槍を取り出し……全力で、投げつける!
「……行けっ!」
木槍には《命中補正S+》が付与されている。
狙いどおり、黒竜の左目を貫いた!
「グルァアアアアアァァァァ!」
黒竜が痛みに身をよじる。
だが、それだけだ。
致命傷に至っていない。
俺は手を休めず、さらにヒキノの木槍を投げつける。
右目、口の中、翼の付け根――硬い鱗に覆われていない部分だけをピンポイントで狙い撃つ。
「グゥゥゥゥッ、ガァァァァァァアァッ!」
翼をうまく動かせなくなったこともあってか、黒竜がついに落下を始める。
トドメだ。
俺はアーマード・ベア・アーマーを解除し、スーツ姿に戻った。
ヒキノの剣を構える。
《神速の加護S》を発動させ、駆ける。
地面を蹴って、跳躍。
落ちてくる黒竜と空中ですれ違い――木剣を振るう。
「……斬った」
木剣の持つ《斬撃強化A》は、切れ味を向上させるだけでなく、斬撃のリーチを延長する効果もあったらしい。
黒竜は、上下まっぷたつに分かれて地面に落ちた。
ここが仮想空間だからか、そのまま霧のように消えてしまう。
「ふう」
着地とともに、ため息が出た。
危ないところだったが、なんとか勝てたな。
古代文明というのは高度な技術力を持っていたわけだが、それでも黒竜を倒せなかった。
なのに、俺は黒竜を倒せてしまった。
まあ、所詮は仮想現実だ。
実際はどうなるかわからない。
もしかしたら現実の黒竜よりは弱めに設定されていた可能性もあるしな。
そんなことを考えていたら、スライムの声が響いた。
「ま、マスターさん! すごいよ! びっくりだよ! まさか黒竜を倒しちゃうなんて!」
「いや、どうせ現実よりは弱いんじゃないのか?」
「ううん! 逆だよ! 大賢者メビウスは性格が悪くって、現実の数倍以上強く設定していたみたい!」
「マジか……」
どうなってるんだ、俺のパワー。
規格外すぎだろう。
もし黒竜の襲来に出くわしても、もっと簡単に勝てるってことか……?
……黒竜の素材でどんな武器が作れるんだろう。
まあ、そのまえに古代の武器やオリハルコンゴーレム関連の【創造】が先だけどな。
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