第23話 古代遺跡に入ってみた。
「何なら今から見に行くか? レリックの研究にも役立つだろうし」
「いいんですか!? コウさん、ありがとうございます! 靴でも舐めましょうか!」
「そんなことはしなくていい。ただ、古代文明について色々と教えてくれ」
どうやらコウとレリックは、これからあの遺跡に向かうつもりらしい。
2人のやりとりを横から眺めながら、あたし――アイリスノート・ファフニルは、小さな満足感に浸っていた。
なぜなら、ようやくコウの役に立てたからだ。
あたしはコウに護衛を頼まれているわけだけど、いまのところ、まったく活躍していない。
それどころか、オリハルコンゴーレムとの戦いでは魔導レーザーから庇ってもらっている。
護衛なのに守られてるとかダメダメじゃない?
コウの足を引っ張ってるし、あたし、いらない子じゃない?
そんなふうに自分の存在意義を疑っていたんだけど、さっき、ようやく活躍のチャンスが来た。
オリハルコンゴーレムの買取に対して、レリックは8000万コムサを提示した。
コウは相場が分からなかったらしく、あたしに視線を向けてきた。
些細な事だけど、頼られたのがすごく嬉しかった。
いまだって、口元がニヤけそうになるのを止められない。
胸のあたりがポカポカする。
自分でも不思議なくらい、気分が浮かれていた。
「アイリス、ちょっと手に触るぞ。古代遺跡に戻る」
コウが声をかけてくる。
さっきの、転移魔法みたいなスキルを使うつもりなんだろう。
あたしは、コウが触れてくるより先に、自分から手を伸ばして……彼の小指の先を小さく握った。
* *
俺は【空間跳躍】を使い、アイリスとレリックとともに古代遺跡の入口に戻った。
隠し扉をアイテムボックスに回収する。
扉のむこうは細い洞窟だった。
身をかがめながら奥に進んでいくと、すぐに行き止まりへ辿り着く。
どうやって遺跡に入ったらいいんだ?
……と思っていたら、脳内にいつもの声が聞こえた。
『【異世界人】スキル内サブスキルの取得条件を満たしました。【遺跡掌握】が解放されます』
いったいどんなスキルかと言えば、つまり、【器用の極意】の古代遺跡バージョンだ。
古代遺跡の構造を把握し、その機能を自由に使いこなせる。
【遺跡掌握】によると、この遺跡には「居住エリア」「鉱山エリア」「食糧生産エリア」、そして俺だけが入れる「管理者限定エリア」の4つがあるらしい。
まずは居住エリアに行ってみよう。
もちろんアイリスとレリックも連れて行く。
俺が頭のなかで念じると、周囲の風景が歪み……気が付くと、廃墟のどまんなかに立っていた。
瓦礫の山がどこまでも広がっている。
ここが居住エリア、簡単に言えば地下都市だ。
かつては綺麗な街並みが広がっていたようだが、永い永い時間の果てに、すっかり風化してしまったらしい。
「うおおおおおおおおおっ! この古びた匂い! たまりませんねえ!」
隣で、レリックが興奮ぎみに声をあげていた。
「コウさん、ありがとうございます! こんなに大きな都市が地下に広がっていたなんて、それだけで王都じゅうの考古学者がひっくり返りますよ! すごいなあ! すごいなあ!」
この反応からすると、きっと歴史的な大発見なのだろう。
レリックは眼をキラキラさせながら周囲を眺めている。
「ねえ、コウ……」
くいくい、と右腕の袖を引っ張られる。
アイリスだ。
「あれって、なにかしら?」
アイリスが指差すほうを見れば、少し離れた場所にポツンと一軒家が立っていた。
ピカピカの新築だ。
さらにその隣では、すごい勢いで新たな家が建設されつつあった。
周囲には、半透明のぽよぽよした謎生物がたくさん群がっている。
……いったい、何が起こってるんだ?
俺が【遺跡掌握】を使って情報を集める。
どうやらあの半透明の謎生物は「おせわスライム」といい、古代文明が生み出した人工生物らしい。
名前のとおり、人間の世話を焼くための労働力だ。
……なんというか、そのまんまのネーミングだな。おせわスライム。
スライムたちは作業の手を止めると、ゾロゾロとこちらへ向かってくる。
「はじめまして、マスターさん! おきゃくさん!」
「ぼくたちはおせわスライムです!」
「いまは、新しいおうちをつくっているよ!」
「すぐに暮らせるようになるから、待っててね!」
「困ったことがあったら、なんでも相談してね!」
「よろしく!」
どうやらこのスライム、人間の言葉を話すらしい。
一匹当たりの大きさは俺の両腕で抱えられるくらい。
大工仕事をしているから(?)か、全員、頭にねじり鉢巻きをしている。
身体の左右からは触手のようなものが出ており、トンカチやクギ、ノコギリなどを握っていた。
俺は【遺跡掌握】でスライムのことを理解していたので、そこまで驚かずに済んだ。
だがアイリスにとっては衝撃だったらしく、俺の袖を掴んだまま震えていた。
「か、か、か……可愛いっ! ねえ、コウ! この子、ちょっと触ってみていい!?」
「あ、ああ。構わないぞ」
「ありがとうっ!」
アイリスは普段の姿からは考えられないほど女の子っぽい笑顔を浮かべると、スライムたちに駆け寄っていった。
その表面をつんつんしては「わ! すっごいプルプルしてる!」と大はしゃぎだ。
一方、レリックはというと、これまでとはうってかわって冷静な顔つきになっていた。
「あのスライム、高度な知性を持っているようですね。……とても興味深いです」
「随分と落ち着いてるな」
「今日はあまりに衝撃的なことが多すぎましたからね。一周回って頭が冴えわたってきました。……コウさん、スライムとお話しさせてもらっていいですか?」
「分かった。――おーい! 誰か! レリックの相手をしてやってくれ!」
俺が声を掛けると、1匹のスライムが「はーい!」と元気よく手をあげた。
そのスライムはねじり鉢巻きを外すと、身体の中に収納し、こちらにやってくる。
「ぼくでよければおはなしするよ!」
「コウさん、ありがとうございます。まさか古代文明の遺産と話ができるなんて……!」
レリックは早速スライムを質問攻めにしはじめた。
きっと今日だけで古代文明についての研究が大きく進むことだろう。
アイリスに目を向けると、スライムのほっぺた(?)をひっぱって遊んでいた。
童心に返りまくってるな。
俺はとくにすることもないので、鉱山エリアへとワープしてみる。
2人になにかあれば【遺跡掌握】ですぐに分かるしな。離れても大丈夫だろう。
鉱山エリアではヘルメットを被ったスライムたちが、ピッケルで採掘に勤しんでいた。
続いて食料生産エリアへ行くと、別のスライムたちがクワで田畑を耕している。
今はまだ再稼働したばかりだが、しばらくすると、この古代遺跡だけで自給自足ができそうだ。
まるで一種のシェルターだな。
そして俺は、残る最後のエリアへと向かう。
「ここが管理者限定エリアか……」
そこは武器庫のような場所だった。
剣、槍、斧、弓、盾、鎧、さらには銃らしき物体や大砲、なんだかよく分からないオブジェみたいなものが転がっている。形状からすると、オリハルコンゴーレムの予備パーツかもしれない。
どれもボロボロに錆びており、このままでは何の役にも立ちそうにない。
だが【匠の神眼】によると、すべて素材として利用可能らしい。
つまり、俺にとっては宝の山ということだ。
うまくやれば古代の武器を復元できるし、さっき倒したオリハルコンゴーレムを修理したり、追加パーツでパワーアップさせられるかもしれない。
これは楽しみだ。
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