第22話 公爵家のお坊ちゃんに感謝されまくってみた。
このままスーツの話を続けるのは時間がもったいないので、俺はさっそく本題に入る。
「レリック、まずは遺跡を見つけるまでの経緯を話せばいいか」
「ええ、ぜひぜひ教えてください、王都の学者が頭をひねっても見つけ出せなかった古代遺跡ですからね。いったいどんな方法で発見したのか、気になってこのままじゃ夜しか寝られませんよ」
夜に寝れてるならいいじゃないか。
まあ、公爵家のお坊ちゃんなら働かなくても食っていけるだろうし、二度寝、三度寝からの昼寝はあたりまえのスローライフなのかもしれない。元社畜の俺としては羨ましいかぎりだ。
レリックは興味津々の表情で、俺の説明を待っていた。
期待に沿える内容とは思えないが、まあ、話すとしよう。
「俺はスキルのおかげでオーネン周辺の地図を持ってるんだが、それを眺めていたら、森の端に『古代遺跡』と書いてあったんだ」
試しに行ってみると、切り立った崖下に怪しげな岩壁を見つけた。
それをアイテムボックスに回収したら、たまたま古代遺跡の入口だった。
……というような経緯をレリックに説明してみたんだが、ううむ、あらためて言葉にしてみると、我ながら行き当たりばったり感がすごい。
果たしてこれで納得してもらえるのだろうか?
レリックの反応はというと……こっちが驚くくらいに好感触だった。
「すごいじゃないですか! そんな簡単に古代遺跡を見つけてしまうなんて、素晴らしいとしか言いようがないですよ! くぅぅ、現場に居合わせたかった! 宿のロビーでコウさんを見たとき、話しかけておけば……! 悔しいなあ! 悔しいなあ!」
レリックは心から残念そうな表情を浮かべる。
「それで、古代遺跡のなかに入ったんですか?」
「いや、入口を塞いで戻ることにした。考古学的に意義深い場所だから、素人が足を踏み入れるのはまずいと思ったんだ」
「うおおおおおおおおおおおおおおお! それホントですか!? うわあああああああああっ、ありがとうございます! ありがとうございます! 大・大・大感謝ですううううううううっ!」
レリックはソファから立ち上がると、ものすごい勢いで俺の手を握り、ブンブンと振り回した。
「考古学をやっていて何がいちばん辛いかって言うと、みなさん、歴史の価値ってのをあんまり分かってくれないんですよ! 冒険者のみなさんはまだマシなんですが、傭兵が古代遺跡を見つけちゃったら最悪です。中はめっちゃくちゃに荒らされて、歴史的資料はぜんぶオークション行き、そのまま海外へ散らばってしまう……なんてことも珍しくありません。いやあ、コウさん、本当にありがとうございます!」
古代遺跡が荒らされるって、まさかそんな馬鹿なことが……と思ったが、それは俺が日本人だからだろう。
学校の授業や博物館見学などを通して、歴史の価値というものをきっちり理解している。
だが、この世界には義務教育など存在していないようだし、冒険者や傭兵が古代遺跡を見つけたなら目先の利益に走るのは当然かもしれない。
「コウさん、このお礼はきっちり用意しますから楽しみにしててください。これでもボクはヒューバーグ公爵家の男ですからね、約束はかならず守りますよ!」
「分かった。楽しみにしておく。……ところで、ひとつ相談があるんだが」
「はいはい、何でしょう! ボクのなかでコウさんは恩人認定ですからね、お役に立てるなら光栄ってやつですよ!」
古代遺跡がそのまま残っているのがよほど嬉しいのか、レリックはずっとハイテンションなままだった。
よし。
商談を持ちかけるなら、今だな。
「実は、さっきの話には続きがあるんだ。おそらく遺跡の防御機構みたいなものだと思うんだが、オリハルコンゴーレムが現れて、攻撃を受けた」
「ええええええっ!? それ、ヤバいやつじゃないですか! 下手するとこの一帯が荒野になっちゃいますよ!?」
「いや、大丈夫だ。もう倒してある」
「……コウさん、それ、ホントです? オリハルコンゴーレムって、軍隊が動くレベルの存在なんですけど」
「嘘じゃない。これを見てくれ」
俺はアイテムボックスから、「オリハルコンゴーレムの残骸」をひとつ取り出した。
ギルドの応接室はかなり広く作ってあったので、床にゴーレムを横たえるのは簡単だった。
ゴーレムは中央で左右まっぷたつになっている。
さっき倒した時そのままの姿だ。
「ふあああああああああっ!? オ、オ、オリハルコンゴーレム!? 本物じゃないですかあああっ!」
「だから言ったじゃないか」
「う、疑ってすみませんでしたああああああっ!」
レリックはほとんど飛び跳ねるようにして、床に頭を擦り付けた。
「そ、そ、そ、それからっ! こ、このオリハルコンゴーレム、眼のところに魔導レーザー砲を積んでますよね!?」
「ああ。実際に撃ってきたぞ」
「うわああああああああっ! 魔導レーザー砲搭載型で現存してるのって、めちゃくちゃレアなんですよ! 買い取らせてください! お願いします!」
レリックは首がもげそうな勢いで、何度も何度も頭を下げまくる。
……そこまでしなくても、最初から売るつもりなんだけどな。
「分かった。いくらで買ってくれる?」
「7000万、いえっ、8000万コムサでどうでしょうかっ!?」
8000万コムサか。
ものすごい金額なのは分かるが、相場として適切なのか判断が付かない。
だったらどうするべきか?
俺は、すぐ隣に座っているアイリスに眼を向けた。
アイリスはここまで黙って聞き役に徹していたが、俺の視線でいろいろと察したらしく、口を開いた。
「オリハルコンゴーレムは、見てのとおりオリハルコンの塊よ。金属としての価値だけでも数億になるでしょうね。たった8000万しか出してくれないなら、どこかの商会に売り払ったほうがよっぽど儲かると思うのだけれど……」
「ううっ、言われてみれば確かに……っ! とはいえボクが自由に使えるお金も限度がありますし……」
レリックは頭を抱える。
「どうするの、コウ」
アイリスは俺に意見を尋ねてくる。
俺としては高値で買ってほしいところだが、ここはレリックが「公爵家の四男坊」であることに目を向けよう。
うまく恩を売って公爵家とつながりを得ることは、お金じゃ買えない大きなメリットになるはずだ。
「いちおうスカーレット商会とは繋がりがあるし、見積もりを出してもらおうと思う。……ただ、俺としてはレリックに買ってもらいたいところだな。もし金が足りないなら、別のもので補ってくれればいい」
俺がそう言うと、レリックの顔がぱあっと明るいものになった。
「コウさん、ありがとうございます! ありがとうございます! 何でもしますから、遠慮なく言ってください!」
「教えてほしいんだが、あの古代遺跡って、誰のものになるんだ?」
「このあたりはメイヤード伯爵領なので、メイヤード伯爵ですねえ」
「実は、あの古代遺跡はまだ機能しているんだ」
「……へっ?」
「しかも、オリハルコンゴーレムを倒したことで、俺がそのマスターとして登録されたらしい。……そういうわけで、公的にも俺の所有権を認めてほしい。手を貸してくれないか?」
「わ、わ、わかりました……! ウチの公爵家はメイヤード伯爵家にものすごい数の貸しがありますし、ちょっと“お話”すれば遺跡の所有権くらい認めてくれるはずです。……というか、遺跡が機能してる!? ビックリしすぎて心臓が止まりそうですよ!」
「何なら今から見に行くか? レリックの研究にも役立つだろうし」
「いいんですか!? コウさん、ありがとうございます! 靴でも舐めましょうか!」
「そんなことはしなくていい。ただ、古代文明について色々と教えてくれ」
俺としては少しばかり古代文明のことが気になっていたんだ。
あの遺跡、まるで転移者が来ることを前提に作られてるような雰囲気だったしな。
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