第20話 オリハルコンゴーレムを斬ってみた。
やたらと簡単に古代遺跡の入り口を見つけてしまったわけだが、さて、どうしようか。
俺が考え込んでいると、アイリスが声をかけてくる。
「コウ、どうしたの? せっかく噂の古代遺跡を見つけたんだから、中に入ってみましょうよ」
「いや、待て。勝手に探索していいのか? 冒険者ギルドに報告すべきと思うんだが……」
何はなくとも報告・連絡・相談。
社会人にとっては常識だし、異世界であろうとホウレンソウは重要なはずだ。
「とくに、これは古代遺跡だろう。歴史的・考古学的に意義深い建物に、素人が勝手に足を踏み入れるのはまずい。王都の学者とやらも興味を持っているらしいし、その人の意見を聞いたうえで、正式な調査団を組むべきじゃないのか?」
「……確かにコウの言う通りね」
どうやらアイリスは納得してくれたらしく、うん、と頷いた。
「ごめんなさい、あたしが間違ってたわ。……まったく、これじゃどっちがFランクの新人か分からないわね。とりあえず、冒険者ギルドに戻りましょうか」
「ああ、そうだな。……いちおう入口を塞いでおくか」
俺たちがいない間に、誰かに遺跡を荒らされたら台無しだ。
さっきアイテムボックスに回収した遺跡の扉を、元の場所へと戻すように出現させる。
扉はピタリと嵌り、周囲の岩壁とまったく見分けがつかなくなる。
「……まるでアイテムボックスを使って開け閉めすることが前提みたいな扉だな」
もしかしてこの遺跡は、俺のような転移者が来ることを前提に作られているとか?
まあ、細かいことは調査が進めば分かるだろう。
俺たちは古代遺跡に背を向け、オーネンの街へと引き返そうとする。
引き返そうとして……10歩か20歩か、とにかく少し歩いた後のことだった。
頭の内側に、声が聞こえてきた。
それはレベルアップやランクアップのときに聞こえるものとは少し異なり、ひどく機械的なものだった。
『ステータススキャン完了。
コウ・コウサカは【異世界人】スキルを有するため、この遺跡の主としての資格を満たします。
……エラー。
コウ・コウサカは【勇者】【魔王】【賢者】、いずれのサブスキルも所有していません。
規格外の存在と判定しました。例外処理を実行します』
いったい何を言ってるんだ?
俺は戸惑いを覚えながら足を止め、古代遺跡のほうを振り返る。
それと同じタイミングで、不思議なことが起こった。
遺跡の入り口のすぐ近くで、空間が歪んだかと思うと、黄金色の金属に覆われた二足歩行の巨人が現れたのだ。
俺のすぐ横で、アイリスが驚愕のため息をもらした。
「あれって転移魔法……!? それに、オリハルコンゴーレム!?」
「オリハルコンゴーレム? 知っているのか、アイリス」
「昔、別のダンジョンで戦ったことがあるわ。Aランクだけのパーティだったけど、傷ひとつ付けられずに戻ってきたの……!」
俺はアイリスの話を聞きつつ、並行して【鑑定】を発動させる。
『オリハルコンゴーレム(魔導レーザー砲搭載型)
説明:オリハルコン製の装甲に身を包んだゴーレム。
人型ゴーレムのなかでは最上位の防御性能を誇る。
両眼に魔導レーザー砲を搭載し、遠距離にも対応している』
ゴーレムの両眼が、銀色に輝いた。
まずい!
……もし【器用の極意】がなければ、俺かアイリスか、どちらかが死んでいただろう。
「アイリス!」
「きゃっ!」
俺は咄嗟にアイリスを抱き寄せると、背中で魔導レーザーを受け止めた。
ダメージは、ゼロ。
スーツに付与された《魔法ダメージ遮断A》のおかげだ。
さすがフェンリル生地、なんともない。
あえて俺の身体への影響を探すなら、レーザーの当たった場所がポカポカして暖かいくらいだ。
もしかすると血行がよくなって、肩こりが改善するかもしれない。
「コウ、だいじょうぶ!?」
「大丈夫だ。問題ない」
俺はアイリスから離れると、ゴーレムのほうを振り返る。
スーツのジャケットを脱ぎ、闘牛士のマントみたいに左手で持つ。
ふたたび、ゴーレムの両眼が輝いた。
俺は左腕を大きく振り、ジャケットを翻してレーザーを弾いた。
そのまま距離を詰めていく。
ゴーレムは何度もレーザーを放つが、すべて、俺がジャケットで防いでいく。
そしてお互いの距離が5メートルほどになったところで、俺はあらためてジャケットに袖を通し――《神速の加護S》を発動させた。
魔力と引き換えに、時間が圧倒的に加速した。
風よりも早く踏み込み、ゴーレムに肉薄する。
その速度を乗せたまま、アイテムボックスから「ヒキノの木剣」を取り出し――振り下ろした!
スーツが持つ《神速の加護S》の速度と、木剣の持つ《斬撃強化A》がおそるべき相乗効果を生み出す。
「……斬った」
そう、斬った。
木剣で、金属を斬ってしまった。
しかもオリハルコン。
ファンタジー系のRPGじゃ最強装備に使われる金属だし、おそらく、この世界でも似たような位置づけだろう。
にもかかわらず、斬れてしまった。
「本当にチートだな、これ……」
俺のすぐ目の前で、オリハルコンゴーレムが左右真っ二つに分かれて地面に倒れた。
しばらくのあいだ切断面で火花が散っていたが、やがて静かに沈黙する。
ふたたび、頭の内側に機械的な声が響いた。
『例外処理終了。
「仲間をかばう」により【勇者】と同等以上の存在とみなします。
「魔導レーザーにて無傷」により【賢者】と同等以上の存在とみなします。
「オリハルコンゴーレムを一撃で破壊」により【魔王】と同等以上の存在とみなします。
評価判定……EX。お疲れさまでした。
コウ・コウサカをこの遺跡のマスターとして承認します。
居住エリア、鉱山エリア、食料生産エリアの再稼働を開始しました。以後、自由にご利用ください』
ええっと……。
なんだかよく分からないが、俺はこの遺跡を手に入れたらしい。
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